第一試練5 天井が見えない

家具量販店の寝具が置かれている一角。売り物の中から良さげなキングサイズのベッドを選び横になる。

周辺には些細なバリケードと電池で動く小型の照明を五個くらい設置した。


秋灯は仰向けの状態で天上を眺める。大きな店舗のため天井まで4,5mくらいの高さがある。

ただ、照明が上まで届いておらず、天井のシミでも数えて暇をつぶそうかと思ったが暗くてよく見えない。


秋灯は諦めたように自分の左隣に目を向ける。

自分の脇腹に顔を埋めるようにして眠っている明音先輩がいるが、さっきから先輩が離れてくれない。

家具屋に着くまで服の裾を掴み、トイレに行っている間も扉の横に居座り、そして今のこの状況。

不恰好な形だがほぼ抱きつかれていると言っていい。


ーー眠れるわけがない。


先輩から寝息は聞こえてこない。多分目を瞑っているだけで起きているのだろう。

呼吸している息遣いが肌から直接伝わってきてこちらの感情をざわつかせる。


秋灯は両腕をガッチリと組み、身体に力を入れいている。

さっきから姿勢を微動だにさせていない。


ーーどうしてこうなった?


先ほどの一件が余程応えたのだろう。今まで見たことがないほど弱っている。

だが、それにしたって。


秋灯は17歳の健全な男子高校生だ。

男子高校生と言えば、クラスの女子生徒から話しかけられただけで自分の事を好きなのではと勘繰ってしまうような。

移動教室でたまたま隣に座った女子に自分に気があるのではと勘繰ってしまうような、思春期的誇大妄想をするのが男子高校生である。


普段クールを気取り、これまで明音先輩と行動を共にしても全く同様していないそぶりを見せてきた。

朝の眠そうな先輩の顔にドキリとしたり、夜に「おやすみ」と言われただけで同棲してるみたいだとドキリとしたり。

そんなことを考えていたことなど全く態度に出してこなかった。


だが、これは。

学校で随一の美人が隣で眠っているという事実。しかも自分にくっつきながら。

これには流石に耐え難い。


手を出せば関係が終わる。この試練の旅自体が終わる。そんなことはわかっている。

それに試練に参加の資格があるとわかった時、先輩の力になると決めている。


ーーだけど、これはどうすればいい?


せめて「もう大丈夫だよ」と言って抱きしめ返した方がいいのだろうか。

頭とか撫でて慰めた方がいいのか。いや、殴られる気がする。グーで。


秋灯は悶々と思考を続ける。とりあえず今日の睡眠は諦めた。

さっきのお化けのような異形がまた出るかもしれないし、起きて見張りでもしておこう。


「あのー明音先ぱ「話しかけないで」」


一応声をかけたが、すぐに被せてきた。やっぱり起きていたか。か細い声にははっきりと拒絶が込められていた。

下手に抱きしめていたりしたら鳩尾に本気殴りを決められていたことだろう。

秋灯は諦めて真っ暗な天上を眺める。今日は素数を数えながら朝を迎えることにする。


「黙って抱きつかせなさいよ」


明音が小さくつぶやいた言葉を聞き自分は抱き枕だと思うことにした。

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