第一試練3 カレーとビーフシチュー
「今日はここに泊まりましょうか」
1号線沿いから少し小道に入り、平家の一軒家を見つける.
奥行きのある家屋に手入れされた芝生の庭。二台分の駐車場もあるためだいぶ広い。
都心から離れてているとはいえ、この雰囲気は金持ちの匂いがする。
「結構大きめの家ね.私は今朝がたの分時間解凍を使ってないからあと2回残っているわ.とりあえず玄関付近を指定していいわよね?」
「いえ、ちょっと試したいことがあるので、二、三分ください」
「まさか丸々一軒解凍しようとしてるんじゃないわよね」
明音先輩が驚きを含んだ声で聞いてくるが、説明してもむくれそうだったため秋灯は言葉を返さず集中する。
これまで広くてもスーパーの戸棚一カ所程度の範囲しか時間解凍を実行していなかった。
だが、数回試してしてきて時間解凍にもだいぶ慣れてた。
今ならもっと広く認識できる。
「座標軸固定、完了.認識拡張・・・完了.立体展開・・・・・・完了」
「ちょっと、無視するんじゃないわよ」
今まで見える範囲内でしか指定していなかったが、感覚を研ぎ澄ませれば認識できる範囲をもっと増やせる。。
自分の触覚を広げていくイメージで物体の形と位置を把握していく。
元々物の形とかを覚えるのは得意だったが、時間が止まってからこの感覚がやけに鮮明になった.
もしかしたら異能が関係しているのかもしれないが、正直よくわからない。
「記憶開始・・・・・・・・・・・・」
脳みその記憶を司る場所で立体を構築する.建物の外装、屋根、内部に至るまで詳細に。
集中に伴って、右側のこめかみが締め付けられたようにキリキリと痛むが、構わず続ける。
パソコンのハードが高速で回転するように脳みその負荷が上がっていく.
「完了。
目の前の一軒屋全体の時間停止が解除される.
一瞬透明なガラス片が辺りに散らばったような気がしたがすぐに掻き消えた。
「何今の?・・じゃなくて本当に解凍できたのね」
明音先輩が玄関の扉を開ける.周辺の靴箱や傘立てをペタペタ触っていくが全て動かせる.
「これで布団で寝れますね!」
「誰が使ったかわからないベッドで寝るのはちょっと抵抗あるんだけど、そっちのが休めそうね」
秋灯が良い顔で親指を立てている。一軒家を解凍した理由は布団かベッドで寝たかったからだ。
荷物になるからと思い寝袋は東京に置いてきていたし、時間解凍は食料と玄関を開ける際に使い切ってしまう。
現代っ子の秋灯はもう硬い地面に直で寝るのは嫌だった。
明音は内心でだいぶ驚ていていたが、よっしゃーと両手を挙げて喜んでいる秋灯の姿を見てどうでも良くなる。
「はいはい、よくできたわね秋灯。褒めてあげるわ」
「ちょっ、やめてください。やめろって」
明音がわしゃわしゃと秋灯の頭をなでる。
普段は飄々としているが異性とのスキンシップにだいぶうろたえている。
「一軒家丸ごと使えるならキッチンが使いたいわね」
「電気が止まってるから厳しくないですか?」
「乾電池で動いているコンロなら多分使えると思ったのだけど、残念IH式ね。そろそろ出来合いのものじゃなくて自分で料理したいわ」
キッチンの方に進むが、ガスコンロではなく綺麗なIHが置かれていた。
家の時間が動いていても、電気は通っていないため流石に使えなさそうだ。
「明音先輩料理できるんですか?」
「私は普段自炊していたのよ。料理は結構得意・・・・・・・なんか言いたげな目ね」
「いや何も言ってないですよ。本当に食べてみたいなー明音先輩の手料理」
秋灯は微妙な顔で先輩を見つめる。
皇居に向かっていた際、持ってきていたレトルトカレーとビーフシチューを「量が欲しいわ」とか言って一緒の皿で混ぜて食べていた。
正直一緒なわけないと思うのだが、この人は味音痴の疑惑がある。
「明日はガスコンロを探すわよ。ホームセンターか家電屋さんを見つけたら店舗ごと解凍しなさい」
先輩命令が下される。ホームセンターの大きさは一軒家の比ではない。
今日の感覚では、もう少し広くても解凍できそうだが、もっと慣れるしかない。
世界の時間が停止して10日間、先輩と毎日一緒にいるが最初の頃はもっとクールな人だと思っていた。
意外と情緒が激しいというか、素直というか。感情がすぐ表に出る。
秋灯は先輩とのやり取りがだいぶ砕けてきたなと感じていた。
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カレーとビーフシチューを混ぜたらけっこう美味しいらしいです。
ただ、ほぼカレーの味が勝つみたい。今度試してみます。
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