第一試練【紀行駆歩】
第一試練1 時間解凍
雲一つない大空。太陽が頂点に差し掛かり、地面と大気を熱していく。
道路の路面には時間が止まって固定された自動車やバイクが置かれ、周りの建物も全て時間が停止している。
人の気配が一切感じられず、日常の風景から生き物だけいなくなってしまったようだ.
本来何台も車が行き交うはずのアスファルトの上を若い男女が歩いている。
清潔感のある短い髪形に眠たげな眼を持つ男性。ランニング用のシャツと短パン、中にぴちぴちのアンダーアーマーを着込み背中には小さめのバックパックがある。休日に皇居ランとかしてそうな出で立ちだ。
横のロングヘアの女性も同じくスポーティーな恰好をしており、伸縮性のあるタンクトップに薄手のパーカーを羽織っている。
服装からボディラインがくっきり分かり、お腹や足など見えている肌面積が大きい。
二人は談笑しつつ軽快に歩いているが、時々横の男性の目が泳ぐ。
男性は自分の目が一定方向に吸い寄せられるのを感じつつ、理性でもって必死に抗う。
これが万乳引力の法則か。悟られぬよう目線に気を遣うが、女性は案の定その視線に気づいていた。
男性は思う。その恰好は健全な高校生男子には刺激が強すぎる。
【閑話休題】
秋灯のこめかみから汗が流れる.10月にしては今日は暑い.
朝は肌寒かったので、長袖のアウターを着ていたが、バックパックにしまった。
東京を出てから既に三日が経過し、現在神奈川の平塚を越えたあたり.
地図だとそろそろ太平洋が見えて来るが、周りはマンションや商店ぐらいしか見えずあまり変わり映えしない光景が続く。
もっと南側の道を使えば海が見えてくるかもしれない。
「そろそろ昼食にしましょう」
「わかりました。そこのスーパーで何か探しますか」
秋灯の指す方向に大きめのスーパーマーケットがある。入り口が大きく開かれており、一部売り場が見えている。
通達の中にあった、reデバイスの機能追加。時間停止の解除ができるようになったため食料の心配をしなくて良くなった。
「私は飲み物のコーナーの時間解凍をするから惣菜の方をお願い」
「わかりました。できればキンキンに冷えたやつをお願いします」
「解凍直後だったら冷たいでしょ」
時間停止の解除後であれば冷蔵で冷やされた飲み物はそのまま冷たい。
惣菜も出来立てであれば暖かいままだ。
「座標軸固定、認識拡張、立体展開、記憶開始、、、
惣菜売り場一帯の配置を確認し頭の中に思い浮かべる。
1パック毎の間隔、棚の幅、高さ、細かく詳細に立体的に頭の中に落とし込んでいく。
隣にある精肉コーナーの手前まで想像できたらデバイスを起動。時間解凍を実行する。
特に掛け声とかは必要ないが、言葉にした方がやりやすい。
秋灯が思い描いた通り、売り場一帯の時間停止が解除される。
「ふぅ、集中力がいるなこれ。おっ!唐揚げ暖かいじゃんラッキー」
「やっぱりあなたのデバイスおかしくない?」
後ろから飲み物を抱えた明音が声をかけてくる。
「そうですか?確かに通達された方法とは違った解凍の仕方をしてますけど」
「私のデバイスはこんなに広い範囲を指定できないわ」
「俺も書かれてたやり方と同じ方法だったら解凍できる範囲は一緒ですよ」
本来時間解凍の方法はreデバイスを使って範囲を指定する。
しかし、範囲が狭くて物資を調達しづらいと感じた秋灯はこの三日間で別の方法を探っていた。
最初はデバイスの示す光を中心に半径1mの範囲を球体上に解凍していたが、この範囲の指定を頭の中で行う。
オートで決められしまう範囲をマニュアルで無理やり割り込んで設定するイメージで、時間解凍の実行だけデバイスを起動する。
そうすれば、より広い範囲を解凍出来ることが分かった。
ただ、この方法にはいくつか欠点がある。
「昨日やり方を教えてもらったけど、無理でしょ。すごく正確にイメージしないと解凍できないじゃない」
明音は秋灯と同じ方法を試したが、結局一日の使用回数を使い切り成功することはなかった。
「多分コツさえ掴めば誰でもできると思いますよ。ただ、使用回数が限られているので、練習はやりずらいですけど」
「なんか悔しいから今日の夜練習するわ」
結構負けず嫌いだよなこの人。
時間解凍の範囲の拡張により回数が一日3回。二人合わせて6回だけだが、だいぶ余裕がでてきた。
もう少し範囲の指定の仕方に慣れれば、おそらくもっと広い範囲を、このスーパーを丸ごと解凍できそうな予感がある。
あんまり言うと明音先輩が拗ねそうなので言わないでおくが。
時間解凍を通達通りに使用していたら物資にだいぶ困っていたかもしれない.
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