序章11 第一試練告知
時計の長針と短針が頂点で重なり0時を告げる。
今日は仮眠しかとっていなかったためオフィスチェアの上でうとうとしていた秋灯だが、携帯のアラームに起こされる。
瞼が半開きのままデスクの上をバシバシと叩きアラームを無理やり止めた。
同時に左腕で小刻みに振動していたreデバイスを確認する。
【参加】のボタンを押して以降、操作を受け付けなくなっていたが、ようやく本試練について情報が送られてきたらしい。
瞼を手で無理やり開けて、画面の文章を読みだす。
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神ノ試練参加者様
この度参加のご決断誠に喜ばしく存じます。
日本地区参加者は総勢1673名で試練を執り行わせていただきます。
晴れて参加者様の権限が更新されましたのでここに周知させていただきます。
また、第一試練‘紀行駆歩‘につきまして、試練期間を一ヶ月とさせていただきます。
試練の主な内容については下記をご参照ください。
皆様の絢爛、御神にお示しください。
【第一試練‘紀行駆歩‘】
合否事項:東京皇居近郊から徳島県鳴門市へ入ること。(鳴門市に入りましたら、こちらからご案内差し上げます)
試練期間:今日より一ヶ月間(2025年10月8日〜2025年11月7日まで)
試練規定
第1項 - 乗用規定
1.人を移動させることを想定して作成された乗り物による移動を禁止する。
2.使用が確認された場合、即時失格とする。以下に禁止例を示す。
自動車、自転車、自動二輪、三輪車、一輪車、産業機械類、建設機械類、農業機械類、雪上車、スノーモービル、スノーバイク、ロープウェイ、リフト、ゴンドラ、水陸両用車、戦車、鉄道車両、路面電車、ケーブルカー、モノレール、航空機、気球、飛行船、ヘリコプター、リアカー、船舶、ボートなど。
第2項 - 行動規定
1. 試練内での他の参加者への暴行、略奪、その他悪意ある行為は禁止さる。以下禁止例を示す。
故意による人の身体を傷つける傷害行為。
故意による人の財産を破損、窃盗する窃盗行為。
故意による人の知識、尊厳を傷つける侮辱的行為。
人身的保全についに基本的に日本憲法に準拠する。
2. 試練実施において時間停止が実行された世界が活用されるが、その財産を悪意でもって傷つけてはならない。
国内において地形、建物、他の人間が所有する財産を故意に傷つけることを禁止する。
悪意的でなければ使用は許可される。
第3項 - 能力規定
1. 自身の能力の使用を認める。
2. 魔術、魔力、異能、権限、武具、神具、魔具等使用を認める。
3. 己の所有している異能であれば一才制限しない。
4. なお、‘参加者同士の争いを禁止する‘規定が優先される。
第4項 - reデバイスの機能追加に関する規定
1.試練期間中は基本的に日本国内、時間停止した中で実施されるため、物資の補給等のため時間固定解除機能を追加した。
2.時間解凍:デバイスから半径1m以内の時間固定を解除する。なお一日につき3回使用可能。別途使用方法は自由。
第5項 - 禁制の解放に関する規定
1. 地球全土における禁制の段階的解放
2. 時間経過、場所、空間を要因として比率で解放
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第一試練の内容についてざっと目を通していく。
試練の期間は、今日の日付が10月8日だから、これから一ヶ月間。
内容は四国徳島県まで移動すること。
規定には使用が禁止されている乗り物がつらつらと書かれているが、要は自分の足で歩いてたどり着けということだろう。
正直、この試練の内容は予想していなかった。
もっと試練者同士を競わせるようなバトロワ展開だと思っていた。
相変わらず試練の規定には、他の参加者へ危害を加えることを禁止する文章があるしなんか拍子抜けだ。
「これって四国まで歩いて移動しろってことよね。今から準備しないと」
明音先輩が寝袋から飛び起きて準備を始める。
暗がりの中でわちゃわちゃ動いているのが分かるがはっきり見えない。
「明音先輩、とりあえず今は寝ましょう」
「でも一ヶ月しかないのよ。少しでも早く動かないと」
「いえ、一ヶ月もあるんです。東京まで二日で来れたから、概算ですけど、24日程度で着くはずです」
秋灯は手近にあったLED製のランタンをつけ、室内を照らす。都心のビル群の中このフロアだけ明るくなる。
他の参加者に居場所がばれそうだったが、規定には争いが禁止されていたためかまわないだろう。
すでに寝袋を畳んでいる明音に近づき一旦落ち着かせる。
確か東京から京都までの距離が500km弱だった気がする。
中学のとき修学旅行の行程案を先生に手伝わされたことがあったからなんとなく距離を覚えていた。
皇居までかかった日数が約二日。距離は50kmもなかったはずだ。
京都から四国までは距離が分からないが、多く見積もっても200km程度と予想する。
ざっと皇居周辺から四国まで600kmの距離。一日25km歩くと想定して単純計算で24日。
一日に歩く距離はもう少し延ばせるかもしれないが、休息のことも考えると凡そでしか出せない。
明音先輩には24日と言ったが、体調が悪くなったり風邪をひいたら一カ月はだいぶギリギリだ。
「昨日から2、3時間程度しか眠ってないですから、とりあえず日が出るまでは眠りましょう。規定にあった時間解凍についても試したいですし、今日の午前中はしっかり睡眠をとって諸々準備をしてから進みましょう。どのルートで行くかもしっかり調べたいです」
一ヶ月。この数字は普段あまり歩いていない現代人には厳しいように感じる。
昔の江戸時代の人とかなら、一日40kmを平気で歩いたらしいが、こちらは自転車に車、電車と乗り物が溢れている。
四国までどのルートで行くか。スマートフォンの地図アプリで現在位置を表示してくれないものの、地図は見ることが出来る。ただ電池の充電ができないため、できれば本の地図を手に入れたい。それにこんなに歩いた経験がないから体調についても気を付けなければならない。あと用意する物としてソーラーの充電器と服と食料と。いい加減学生服から着替えたいし、今着ているTシャツには達筆の文字で「純情無垢」と書かれている。明音先輩の手持ちでギリギリ秋灯でも着られた一枚だが、流石に恥ずかしい。
考えなければならないことがに次々湧いてくるが、これでは眠れそうにないため一旦思考を放り投げた。
「そうね、ちょっと焦ってたわ。・・・・・・・それと一応聞くけど一緒にいくのよね」
「明音先輩が許してくれるなら是非」
「安心したわ。とりあえず一ヶ月間またよろしく」
「こちらこそ宜しくお願いします」
明音先輩と握手を交わす。同行を素直に許してもらえたのは有難い。
日の出までおよそ5時間。お互い寝袋に入り形だけでも休もうと目を瞑る。
内心では全然落ち着かない。
秋灯は眠れそうにないため、reデバイスの規定を再度読む。
第3項の能力規定について、文章にははっきりと魔術や魔力の単語が記載されていた。
それはつまり、お伽噺のような力を使える者が普通にいるということを示唆している。
東京に入った初日に出会った少女もおそらく異能や魔術のような力を使っていたのだろう.
魔術、魔力、異能.そんなものと対峙しなければいけない日が来るかもしれない。
「魔術師もいるんだろうなぁー」
ため息が混じりつつ、秋灯は明音に聞こえないよう小さくつぶやいた。
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序章はこれにて終わりです.
次章から試練に入っていきます.
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