序章10 独りよがりの願い

神様による試練の宣誓から半日が経った.あれから皇居を離れて拠点にしていたビルの一室まで戻ってきた.

左腕には朝にはなかった端末が取り付けられている。


「それで、どうするのあなた?」


自身の左腕を指差し、明音先輩が聞いてくる.


「・・・・」

「まさか、試練に参加するなんて言わないでしょうね」


口籠もっていると、きつめの言葉が返ってくる.

一週間の付き合いしかないが、今までで一番険しい顔をしている。


「試練の条文をあなたも読んだでしょ.参加すれば十中八九死ぬことになるわ.輪廻の巡りについては読んでもよく分からなかったけど、きっと大変なことだと思うわ。今ならまだ他の人と同じように保護してもらえる。」


「それでも明音先輩は試練に参加するんですよね」


「私には叶えたい願いがあるから.私はそれしか選べないのよ。・・でも、あなたは違う!今皆と同じように時間が止まれば、また明日から普通の日常が送れるわ.試練のこともこの一週間のことも忘れて普通に生きられる」


明音先輩の願いは聞いた.彼女が抱えているもの、考えていることは分からない。

ただきっと、命をかけられる程、重く、大きな願いなのだろう.


「俺にもあるんですよ、どうしても叶えたい願いが。神様になることに正直興味はありません.世界を自分の意志で変えたい訳でもないです。でもどうしても、叶えたい願いが俺にもあるんです」


「それは試練に参加しないとダメなの?」


「試練に参加しないと叶えられそうにありません」


諦めを帯びた微笑を浮かべる秋灯。

目を合わせること数秒。沈黙が長い。


「いいわ。あなたの決定に私が口出しすることじゃないし.でもこれで試練に参加する敵同士ね.一週間あなたと一緒にいて意外と心地よかったけど、これでチームも解消ね」


「あ、それは違います。別に神様になるのが目的じゃないんで、極力協力しますよ.試練の内容によってですけど.チームも組めるようであればこのままいきましょう」


明音先輩の肩が落ちる。あからさまに力が抜けたようだ。

さっきまであった場の緊張感が緩んでいく。


「なんか、軽いわね.まぁいいわ」

「意外と明音先輩ポンコツなところがあるんで、サポートしますよ」

「なんか言ったかしら」

「いえ、何も」


明音先輩にきつく睨まれる。まゆが寄っていて怖いが、口元は少し笑っていた。

秋灯はreデバイスを取り出し、画面をつける。

条文はすでに読んでいるため、そのまま下にスクロールしていく。


ーー【参加】ーー   ーー【不参加】ーー 

二つのボタン。


天使長の話を聞いた時から、秋灯の選択は決まっていた。

正直この世界の時間が止まった段階から秋灯は試練に参加したいと考えていた。

ただ、明音先輩に了承してもらえるか。それだけが問題だった。


秋灯は【参加】のボタンを押す。

画面には「参加を受け付けました」という文章とともに、「第一次試練開示予定:10月8日 0時」が記載されていた。


時間が停止した世界。神や天使など超常的な存在。

日常が終わったこの世界でなら自分の願いが叶うかもしれない。

昔守れなかった約束を今度こそ果たせるかもしれない。


今度こそ、彼女を守ろう。

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