序章4 意外と義理堅い後輩
[明音視点]
ーー意外と義理堅いのかしら?
目の前でリアカーを引く一歳年下の男の子。
せめて一緒に歩こうと伝えたが、何があるかわからないから体力を温存しておいてほしいと頑なに明音をリアカーに座らせた。
正直揺れてお尻が痛かったから少し歩きたかったけど。
途中からバックパックをお尻に敷いたので、快適になった明音はやることもなく今朝の出来事考えていた。
神の試練。そんなモノが本当に起こるなんて今朝まで信じていなかった。
ただ、夢で見たお告げが鮮明で目覚めた後もはっきりと覚えていた。
今日まで半信半疑で準備を進めていたけど、まさか本当に時間が止まるとは。
家にいるはずの父や母は今日になって突然姿を消した。近所のおばちゃんや友人も同じく。
学校に来たのは試練に挑む前に自分が生活していた場所を最後に見ておきたかったからだけど、内心では動いている人を探していた。
ーー扉に挟まった後輩を見つけるとは思わなかったけど。
助けを求めてくる秋灯を見て、警戒心より安堵が勝った。
若干強い口調になってしまったが、動いている人間、しかも学校の生徒を見つけられたことは明音にとって純粋に嬉しかった。
ーーそれにしたって挟まってたのは笑えるわね。
学校の出来事を思い返し、笑いがこみ上げてくる。叫び声が切実で、それが静かな構内に響き反響していた。
今も目の前で頑張っている秋灯に対し、流石に声を出して笑うの躊躇われたが、あの光景はあまりにシュールだった。
ーーちゃんと神様に説明しなきゃね。いるかわからないけど.
秋灯の言葉を信じるなら参加者ではなくイレギュラーで今この場所にいる.
父や母、参加者でない人間がどうなっているかわからないが、朝から見かけなくなったということは,試練に関係のない人間はどこかに移されているのかもしれない。
時間を停止させたのは,お告げの通り自称神様ならその神に秋灯を保護してもらわなければ.
神の試練.お告げの内容について秋灯に伝えていないことが一つだけあった.それは、日常にはもう戻ることができないという事.
神様のお告げには参加者は途中で敗退するか、神に選ばれるか二択であって、そのどちらでも今までの生活に戻ることはできないらしい。
敗退が死ぬ事なのかわからないけど、きっとそれに近いのだろう.
明音にはどうしても叶えたい願いがある.
いつからその願いを持ったのか経緯は分からないが、心の奥底で燻っていた大きな願い。
普段何気なく日常を過ごしながら、それでも頭の隅にあって神様にでもならないと決して叶えられない願いがあった.
ただ、秋灯は違う.一緒にいるのはこの行きずりの期間だけ。彼は試練とは関係のない人間だ。
動いている人に出会えたこと、しかも同じ高校に通っている後輩だったから余計に安心してしまったが、まだ覚悟が決まっていないと感じた。
日常はもう終わった。もう戻ることはできない。
昨日までの自分を振り払うように明音は強く頬を叩いた。
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