序章2 意外と人の頭って大きいらしい
普段とは考えられないほど静寂に包まれた校内.人だけが忽然と消えた校舎の教室.
時刻は12時を回り、昨日までは友人と机を並べ談笑に耽りながら昼食をとっていた.
ーーなぜ俺は扉に挟まっているのだろう.
学校に着くとやかましいノイズ音に襲われ,教室で気絶するように眠った。
目覚めると物が固定されたように動かず、自分以外の誰もいない。
明らかに異常事態、超常的な摩訶不思議現象に巻き込まれいてる。
ーーここまではいい。いやよくないけど、百歩譲って千歩くらい譲ってまだいい.
現状をまだ飲み込めてはいないが,とりあえず食料と人を探しに行く矢先。
扉に挟まりデッドエンド。
まだ何も始まっていない。初期位置から数歩先で詰んだ。
これがゲームとかのチュートリアルならバグを疑う。
「流石にシュールすぎるだろうーーーーーー」
秋灯の叫び声が反響していく。叫び声に合わせて頭を動かそうとしたからすごく痛い。
誰か聞きつけて来てくれないだろうか。相変わらず自分の声が遠くの方まで反響している。
「!?・・・・何か聞こえた?」
秋灯の叫び声が鎮まった後,微かに床を歩く音が聞こえた気がした。
ペタペタと上履きでリノリウムの床を歩く音.
か細かった音がだんだんはっきり聞こえてくる。
「誰かいませんかーー!助けてください!」
秋灯は必死に助けを求める.
ここまで直球に人に助けを求めたことは初めてかもしれない。
お腹に力を入れる。挟まっているこめかみがキリキリと痛むが,構わず叫ぶ。
床を歩く音が一瞬止まり、やや駆け足に変わる。確かにこちらに近づいてる。
現状の醜態を見られることの恥ずかしさもあるが,助かるかもしれないという感情が湧いてくる。
「あの・・大丈夫かしら?」
秋灯の視界に見覚えのある女性が映る。
肩にかかるくらいの黒髪に整った顔立ち。
目は少し吊り上がっており,気が強そうな印象を受ける.
着ている服は秋灯が着用している学校指定のブレザーではなく、スポーツ用の動きやすい恰好をしている。
学年は一つ上の3年生だが、この高校ではスポーツ万能な美人として有名だ.
白峯明音が目の前に立っていた.
「学校の生徒よね.何してるの?」
もう一度声をかけてくる.
若干声が上ずっていて身構えられているのがわかる.
こんな異常事態の上、扉に挟まっている男子生徒を見たから当たり前か.
「すみません、白峯先輩ですよね.扉から抜け出せなくなってしまいまして、ちょっと引っ張ってもらえませんか?」
「・・・いいけど.あなたも参加者よね.襲ってこないでよ」
「参加者?ちょっと何言ってるかわからないです」
「別に隠さなくてもいいわよ.参加者同士の争いは禁止されているでしょ.この後何があるかわからないけど一旦貸しにしておくわ」
明音先輩が言っている内容の意味がよくわからないが,そんなことがどうでもいい.
一刻も早く引っ張り出して欲しかった.
「頭が挟まってるんで右肩あたりを掴んでください」
「間抜けな参加者ね。いい、いくわよ」
ため息と共に明音が肩を掴む.
秋灯も痛みを我慢しつつ,身体に力を入れた.
「痛い痛い痛い痛い、痛いって!」
「我慢しなさい.男の子でしょ」
明音先輩は秋灯の訴えに怯まず容赦なく力を入れた.涙目になりながら,秋灯は必死に頭の痛みに耐える.
この時、秋灯は引っ張ってもらっていながら頼む人を間違えたかもと思った.
結果,ようやく抜けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
側頭部と右肩がどえらい痛いが,とりあえず窮地を脱した.
明音先輩には感謝しても仕切れない.乱暴だが.
「白峯先輩ありがとうございました.自己紹介が遅れましたが、、2年の鐘ヶ江秋灯と言います」
「やっぱりここの生徒だったのね.私は3年の白峯明音.あなたは知ってるみたいだけど」
「有名人ですからね先輩は.この学校で知らない人は少ないんじゃないですか」
とりあえず明音先輩に感謝を述べつつ、先ほどの発言について聞いてみる.
「そういえば参加者ってなんのことですか?この状況と何か関係があるんですか?」
「あなた本当に知らないの?ひと月前くらいにお告げみたいなのがあったでしょ」
お告げとは。何のことを言っているのかさっぱりわからない。
「何ですそれ?」
「夢で神様見たいな格好をしたおじいちゃんに神の試練を開催するから参加するか否かを聞かれたじゃない」
「おじいちゃん?」
反射的に答える秋灯。意味不明すぎて敬語が抜けていた。
夢におじいちゃんが出てきたことがない。そもそも一カ月前の夢なんて覚えていない。
「神の試練で次代の神を決めるから、資格を持つもの、世界を変えたいと願うものに声を掛けてるって.本当に知らないの?」
「初耳です.夢枕におじいちゃんが出てきたことないんですが」
「おじいちゃんだけじゃなくて神様っぽい格好をした人だけど・・・扉に挟まってた当たり本当そうね.若干まだ疑わしいけど」
流し目でこちらをみてくる明音先輩。警戒というより呆れている。
明音先輩が最初秋灯を警戒していた理由はその試練の参加者と勘違いしていたみたいだ。
資格を持つものに試練を与えて神様を決める。参加者がどの程度いるかわからないが,話を聞いた限り参加者同士を競い合わせるバトルロイヤルが想像できた。
あんまり物騒なのは嫌だなと他人事のように秋灯は感じていた。
その後も一通り明音先輩から試練について話を聞いた.
試練は次代の神を決めるために開催される。
試練開始後、参加者以外の時間が停止する。
試練開始直後、つまり今日の9時ごろ、自分の半径5m以内の物を除き世界の時間が停止する。
試練の参加者同士の争いを禁止する。
そして、今日から一週間後、東京の皇居で試練の開会式が行われる、らしい。
確か秋灯の周りの半径5m以内にあったものーー机や椅子、バッグなどーーも時間が止まっていたから参加者に該当しないみたいだ。
それにしても、明音先輩の話を聞く限り、食料とか飲み物など何も準備していなから本当に餓死していた可能性が高い。
「なんで俺は動けてるんですか?」
「さぁ?神様の手違いとかじゃない?70億人もいれば間違えることもあるでしょ」
事もなげにいうが、そんなものだろうか。
お告げを受けておらず、試練の参加者でない秋灯が動いている時点で神様側に不備があったみたいだが。
神様も間違えるらしい。
「白峯先輩。引っ張り出していただいた手前、申し訳ないんですけど、東京まで一緒にいっていいですか?世界の時間が止まってるなら帰っても意味がないし。あと、水も食料も持ってなくて」
「そんなに畏まらなくていいわよ。流石にここで、はいさよならって訳にもいかないでしょ。食料は気にしなくていいわ、一応多めに持ってきてるから。」
校門付近に食料や衣服、寝袋などが入ったバックパックを置いているらしい。
明音先輩は一応試練のために準備を済ませていたが、今朝まで試練の有無について半信半疑だったようだ。
世界の時間が止まるのを確認し、夢で見たお告げが本当のことだとそこで悟ったみたいだ。
「ありがとうございます。東京まで電車だと一時間程度で着きますけど、電車は動いてないし。どうやって行きます?」
「マップで調べておいたけど皇居まで歩きで九時間よ。休憩も入れて二日か三日で着く予定だわ」
「歩きですか。自転車かバイクが欲しい所ですね」
車道には時間が止まって動かない車が点在しているらしい。
車の移動は荷物を多く詰めるが、間を縫うように進むのはおそらく難しい。
それなら、自転車かバイクであれば簡単に進めると思ったが。
「そうね。自転車かバイクでもよかったのね。うん・・・・・・盲点だったわ」
腕組みをしながら明音先輩が答えた。若干頬が紅潮恥している。
この後、校門前に移動したが、用意されていたのはパンパンに詰まったバックパックが三つとリアカーが置かれていた。
なぜリアカーをチョイスしたのだろう。
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