第23話

「『炎の矢ファイアーアロー』!」


2発目の『炎の矢ファイアーアロー』を撃ち込むと、その敵は急に形を変貌させ始めた。


なんだ!?

何かが起こってることから、一発目では大した効果は見られなかったがちゃんと攻撃は効いているということは分かった。

だが一体何が起こっているんだ?


僕が驚いている間にも敵は体を変貌させ続けていく。

そして体の変化が終わると木だったはずの目の前の敵の姿は、巨大な鹿のものになっていた。


鹿!?

予想はしていたがやはり木の姿は本来の姿ではなかったか。

でも流石にこのサイズはデカすぎんだろ!?


通常の鹿と比べてその大きさは圧倒的。

元々は木の姿だったので違和感は無かったが、鹿でこのサイズともなるとあからさまにおかしい。


今まで見てきた中でも最大級。

前世で見たゾウよりもでかいんじゃないかこれ?

そしてどうやらこの山にいるのが鹿ばっかだったのはこいつのせいみたいだな。

この山はこいつのテリトリーで手下である鹿たちがこの山に生息しているだけで他の魔物は住み着かない、もしくは鹿以外の魔物は皆殺しにされてきたのだろう。


敵の力は強大。

まともに戦って勝つことのできる相手じゃない。

だが、今回こそこの高い壁を乗り越え僕は1歩前へと進んでみせる。


さあ行くぞ!


『パワーファ...!?


僕が早速攻撃にでようと鹿に突撃していくとその瞬間、足元から突然生えてきた岩が僕を襲う。


っぶねええ!


僕は予期していなかった攻撃を間一髪で避ける。

しかし、その攻撃は1回では終わらず他にも幾つもの岩が僕に向かって突き出されていく。


ふん、ふん!ふん!

えい、っや、っと。

こいつはやばいな。

初めてこんな大規模な攻撃を見たけどなんとか避けきれて良かったよ。

そしてこの岩の鋭さ。

間違いなく当たったらこの身を抉ってくることだろう。


鹿は間髪を入れずに再度地面から岩を突き出し攻撃してくる。


だがしかし、予期できるならばそうきついものではない。

僕には自慢の俊敏性とスキル『しぶとい』に『逃走』まである。

そう簡単に当てられると思うなよ。


さて、相手の攻撃にも慣れてきたしそろそろ攻撃に転じますか。

だが、相手の攻撃を避けながら相手の元まで辿り着くのはなかなか難しい。

そう簡単には行かないだろう。

そもそもあいつの岩攻撃のせいで全然道がないしね。


ならば逆転の発想だ。

道がないなら作ればいい、岩が道を塞いでいるなら岩を道にすればいい。


僕は戦場に残っている鋭い岩の先端を器用に踏み台にし、奴との距離を詰めていく。


岩の先端を足場として利用する。

普通ならば難しい芸当。

だがスキル『ふんばる』を持っている僕ならば不可能では無い。


自分と相手の距離が限界まで近づいてきたところで僕は攻撃の準備を開始する。


普通に攻撃してもおそらくあいつに傷ひとつつけられないだろう。

ならば狙う場所は相手の急所しかない。

狙いやすそうな位置にあって、攻撃が当たったらよく効きそうなのは...目だな。

相手の視界を奪えれば今僕を襲っている岩攻撃も少しは勢いが収まるだろう。


『パワーファング』!


僕の渾身の攻撃は綺麗に相手の目へと当たり、大きなダメージを与える...

そのはずだった。


カキンッ


!?

手応えがない。

何か壁のようなものに守られた感覚がする。

障壁系のスキルか?


グアオオ!


え?

そしてなんかまずそうじゃね?


時は満ちたとばかりに鹿が吠えた瞬間、鹿の体は謎の輝きを放ち始めた。

鹿の体は今までの茶色から変わり緑色に、角は灰色だったのが金色へと変わる。

その体は常に輝いていて美しい、だが周りのものを寄せ付けない圧倒的な威圧感も持ち合わせている。


っ...!


これは予想外。

さっきまでのさえ本当の姿では無かったということか...!

奴の体から溢れるオーラで敵がどれだけ強大なのかが分かる。

否 、分からされる。


第3形態ねえ。

今まで第2形態すらなかったのにいきなり数が多いな。

まあいい。

所詮は体が光出しただけ。

やることは変わらない。

さっきは目に攻撃しようとして弾かれたから今度は違う場所に攻撃してみよう。

障壁の無い場所があるかもしれないからね。


じゃ、早速さっきみたいに岩を足場にして...


グァァ!


鹿が叫ぶと同時に、地面から幾つもの金色に輝く岩が現れ、僕に向かってくる。


その攻撃はもう当たらな...え?


ちょ、はやっっっ!?


僕がその攻撃の危険性に気づいた時には、既にその攻撃は目と鼻の先まできていた。


ちょ、まっっっ!


僕の抵抗虚しく、金色に輝く岩は僕の体を吹き飛ばした。


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それは歓喜した。

新たなる敵を前に感じる高揚感。

自分の攻撃を躱し続け、あまつさえ自分に攻撃まで行ってきた。

その攻撃はそれに通用こそしなかったが、自分に攻撃を行うことができるポテンシャル。

相手の力量に驚きながらも、それは相手の強さを認め全力を出すとことに決める。

全力を出したそれの攻撃を虫は避けることが出来ず、吹き飛ばされていった。

それは笑う。

しかし、その笑いは決して相手を倒した故のものではない。

それは吹き飛ばされてもなお感じる、小さき虫からの戦意に喜んでいる。


山の王、「ディアブリテイン」は相手が小さな虫一匹であろうと、力を認めた相手に対して決して油断はしない。

その頂点で新たな攻撃の準備を開始する。










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