第16話

うめえ...うめえよぉぉおおおおお!


この歯ごたえ、喉の通りやすさ、そしてこの味!

最高だ...

間違いなくこの世界に転生してきてから食べた飯で1番美味い。


何を食べてるかって?

そんなのさっき倒したうさぎの肉に決まっているだろう!


これが美味いのなんのって!

前世でもうさぎの肉が食べられるって話は聞いたことがあったけれどここまで美味しいとは思わなんだ。


焼いてすらないただの生肉。

それでこれだけ美味しいとはまさに奇跡の産物だ。

本当は火を扱うスキルを取って焼いて食べたいけれど、この森の中でそんなことしたらここら一帯大炎上してもおかしくない。

そんなことになったら僕は一瞬で灰になってしまう。

だから甘んじて生で食べ始めたがここまで美味しいとは感動だ。


一角兎を倒すのは『重力魔法』を使うためMPを多く消費するが、レベル上げにも飯の確保にもなるのだから見つけたら積極的に倒した方が良さそうだ。


さて、うさぎの肉も食べ終わったしそろそろ森の探索を再開するかな。


まだこの森に入ってうさぎしか見ていないから他の魔物を確認しておきたいし、出来れば寝る場所の目処も立てておきたいところだ。


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僕が探索を再開して少し歩いた頃...


ん?

何か音が聞こえるな?


遠くの方から戦闘音のような音が聞こえてくる。


結構音が大きいし、もしかしてデカイ魔物同士が戦ってたりするのか?

怖いし逃げる...というのはさすがにナンセンスだろう。

僕には自慢の逃げ足もあるしやばかったら即刻Uターンしてくればいい。

まだ見ぬ魔物の情報を逃すことは出来ない。

とりあえずチラッとだけでも確認してこよう。


音を頼りに森の中を進んでいくと何故かそこだけ光が差している場所で争っている2匹の魔物が見えた。


これは...

イノシシとクマだな。

随分と激しいバトルをしている。

木々が何本か倒れていてお天道様がこんにちはしてしまっているじゃないか。


勝負の状況は割と互角...いや、少しクマが優勢か?

クマの腹に頭突きをすることしかしていないイノシシに対して、クマの方は手を使って目とか足とか一撃でも当たったらダメージが大きそうな箇所を狙っている。

これは手を使うことが出来る二足歩行の強みがしっかりとでているな。

というか、あのクマは随分と器用に立てるんだな。

元いた世界のクマは基本四足歩行だったはずなんだけど...


それはさておきこの状況、どうしようか。

逃げてもいいのだけれど・・・

どうせなら漁夫の利でこいつらを何とか倒してやりたいといった気持ちがある。

僕は体が小さいから近づいてもあの2匹に気づかれた様子はない。

理想はどちらか一方が勝った時には勝者はもうボロボロ〜ってなるか、痛み分けをし続けてどちらも瀕死になるという展開だ。

優勢であるクマの方も疲弊しているようだし可能性は充分にある。

戦闘の流れを見て判断するか。


あ、そういえばまだ鑑定をしていなかったな。

やっとまともな情報を教えてくれるようになったんだ。

ちゃんと使っていこう。


『鑑定』発動。


《拳闘熊》

《ヴィガーボア》


拳闘熊、つまりボクシングするクマってところか。

それとヴィガーボア。

こっちも何か強いイノシシだよー的な意味だろう。


このまま行けば熊が勝ちそうだけど...


そんな事を考えていると、ヴィガーボアの突撃した木が運悪く拳闘熊に向かって倒れ、木を受け止めてしまったった拳闘熊は次のヴィガーボアの突撃に対処出来ず重い一撃をくらってしまった。


おお。

これはもしや一発逆転か?

いや、流石にそれはないか。

多少よろめきながらもクマの方はもう立て直しているし、イノシシの方ももう限界そうだ。


今度は拳闘熊が攻撃を放ち、それをイノシシは頭で受けてしまいそのまま地面へ倒れた。


勝負あり、か。


観戦していてわかったがこいつらは間違えなく今までの敵と比べても頭一つ抜けて強い。

だが満身創痍となっている今ならばどうだ?

奇襲で一発を与えればそのまま決着だって有り得る。

こんなチャンス逃す選択肢は無い。


変に抵抗されても厄介だ。

MPも勿体ない。


この一発で決めよう。


僕は高い俊敏を活かした高速移動で、一気にクマへと肉薄する。


『パワーファング』


グアアアアアアア!!!!!


間違いなく首筋を捉えたその一撃は拳闘熊に大きなダメージを与えた。

これで拳闘熊はもう起き上がることは出来ない


はずだった


グアアアッッッッッッ!!


その瞬間僕の全神経が危険だと告げる。

理由を考えるよりも先に僕はその場から飛び退く。


なんだ...?


そこにいたのは一匹のボロボロの熊。

だがしかし、その体からは揺るがぬ闘志を感じる。


その姿はまるで狂った戦士のよう。


おいおい。

簡単に強敵を倒してレベルアップ?

そんなおいしい話、この世界には存在しなかったみたいだ。


戦いの始まりを教えるコングのようなクマの叫びを聞きながら僕は思う、


もう少し世界は僕に優しくしてくれてもいいんじゃない?





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