第5話 特別な平民の少女と最低最悪の王女様

 私は、遥か彼方で輝くフィーア王女様が羨ましくて、憎らしかった……。


 最初の時間では15歳の頃。

私は平民としては珍しく魔法が使えるらしく、特別枠で『王立創聖魔法学院』に編入することになった。


 いろいろ苦労もあった。

周りは貴族ばっかりで、使用人たちも私よりも学も地位も遥かに高い人達ばっかりだった。

だからだろうか。


 「大丈夫?。」


 虐められてた私を助けた黒髪の王女様が私に差し伸べてくれた手がこんなにも美しかったのは……。





⬛︎⬛︎⬛︎




 あれから王女様の計らいで、次期国王陛下候補のイリヤ、神官の一人息子のラファル、そして公爵家の跡取りアルス。

彼らと関わり、共に過ごし、おかげで楽しい学院生活を送ることができた。

そう……あの時までは……。


 ある日のこと。

私が王女様に呼ばれて、寮の部屋を離れていた時のこと。

 その時はただ王女様に必要とされていることが嬉しくてたまらなかった。

誰かに必要とされてることが嬉しかった。

嬉しかったのに……。


 「なにこれ……。」


 ひと仕事を終えて自分の部屋に戻ると、そこは何者かに荒らされて、床が見えなくなっていた。

何かを悟った私は急いで瓦礫となったものをかき分けて探した。

それはお母さんにもらった大切なもの。

私に幸運を授けるという宝石の付いたペンダント。


 「ない。ない。ない。」


 いくら探しても。

いくらかき分けても。

大切なペンダントは見つからなかった。

なんで……。


 「あら大変。どうしましたの?。」


 今にして思えばわざとらしい口調で言ってきてはいたけれど。その時の私にはそんなことを感じ取る余裕もなかった。


 「私の。私の大切なペンダントがないんです。」


 私は無我夢中で目の前にいる彼女に救いを求めた。

もう少し疑えば良かった……。

もう少し頼れば良かった……。

きっと王女様なら私を利用しなかっただろうから……。


 格式の高い令嬢とその取り巻き達が私の部屋を掃除を兼ねてものを片付けていた。

けれど見つからなかった。

どうして……。


 「アレはそんなに大事なものなんですの?。」

 「はい……。お母さんが『それはあなたに幸運を授けるものです。然るべき時にそれを掲げなさい。』って。」


 私は愚かだった。

そのペンダントの重要性も。

私の血も。

力も。

言葉の意味も理解していなかったのだから。


 「だから許せないんです。私の大切なものを奪った人が。」

 「そうですか……。」

 「何か心あたりありませんか?。」


 聞くな。


 「なんでもいいです。些細なことでも。」


 尋ねるな。


 「お願いします。あれはとっても大事なものなんです。」


 そんなのなくても私は欲しいものは手に入れていたのに……。


 「落ち着いてください。わかりました……。はっ。」

 「何かありますか?。」

 「部屋が荒らされる前にどこに居ましたの?。」

 「えっと……。王女様に呼ばれて……。」

 「それで?。」

 「ペンダントとお母さんのこと聞かれて……。」

 「……。」

 「だから……。」


 疑うな。


 「もしかして……。」


 考えるな。


 「私の部屋を荒らしたのは……。」


 信じて。王女様。フィーアのことを。


 「なんで……。」

 「何を察したのかは分かりませんが、たぶんあなたの考えてる事は当たってると思います。」

 「やっぱり……。」

 「王女様の噂は大変よくありません。普段あなたに優しくしているのも、きっとあなたに利用価値があるから。」

 「利用価値……。」

 「えぇ。平民のあなたを利用すれば今起きてる飢餓や重税に怯える国民に対して良い顔できますから。」

 「私知らない。」

 「しならないのも無理ありません。だってあなたは自分のことで手一杯でしたから。」

 「どうすればいいの?。」 

 「簡単です。私たちと一緒にあの悪い悪い王女様を倒しましょう。そしてあなたが新しい王女様になればいいのです。」

 「私になれるかな?。」

 「なれます。だってあなたは、奪われ、敷いたがれる経験をしてきたのです。その経験を活かして、今苦しんでいる国民を助けてこの国を守るのです。」

 「うん。わかった。私、やってみる。」

 「良い返事です。私も支えていきます。共にあの最低最悪の王女を打ち倒しましょう。」


 この時から私の歯車は狂い始めた。

狙ったように集まる王女様の悪い証拠。

噂通りの証言と被害。

なにかに運命づけられたように私は王女様を追い詰めていった。


 「もうすぐ決戦ですね。」

 「そうだね。ここまでありがとう。」

 「いえ。私もあなたに仕えて楽しかったです。良い国になると思います。」

 「ありがとう。」


 令嬢が何かを取り出す。


 「それは―。」


 それは私の探していたペンダントだった。

ずっと見つからないから半ば諦めていた。


 「あなたの捜し物です。苦労したんですよ。私の家の総力を上げて探しましたから。」

 「ありがとう。」


 本当にできすぎていた。


 「いいんです。よい国にしていくと誓い合った仲じゃありませんか。」

 「そうだね。」


 だから少しは疑うべきだったんだ。


 「さあ行きましょう。私たちのより良い未来のために。」

 「行こう。この国の明日のために。」


 このできすぎた舞台にただただ操られていることに。




⬛︎⬛︎⬛︎



 打ち倒した。

いや、打ち倒してしまった。

話も聞かず。

疑って。

ただ純粋に。

自分の信じた正義のために。

私は王女様と血の別れをした。


 後でわかったことだけれど……。

各地で起こった飢餓。

真っ先にその対応したのは王女様だった。

だけれど。私が知った時には王女様が飢餓を引き起こした原因だった。

理由はあまりに迅速で、未来を知ってるかのような速さだったから。

 そして重税も彼女のせいになっていた。

本当は飢餓起こした貴族が追い討ちをかけるように増税して、それに便乗するように他の貴族も乗っかっていった。

王女様は直ちに辞めるように王令を出した。

それが貴族様たちの癪に障ったらしく。

罪も、責任も、王女様に押し付けた。


 知らなかった。

王女様がこんなに一人で頑張っていたこと。

居場所もなく、縋るものもなく、ただただ自分の信じた道を進んだこと。


 そして私は愚かだった。

勝手に期待して、勝手に絶望して、失望して、恨んで、憎んで、最後には命を……。


 ついでにペンダントの経緯もわかった。

部屋が荒らされたのも、ペンダントが無くなったもの、何ヶ月も見つからなかったのも、そしてあの日に都合よく見つかったのも。

全部あの令嬢の家の仕業だった。


 だから私はその家を血で染めた。

二度と同じことをしないように。

二度と国民を気づけてないように。

二度とこの国を悪い方向に向かせないように。


 だからとは言わない。

許して欲しいとは言わない。

私がこの国を守る王女様なのだから……。

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