第4話 2人の王位継承者

 あれから数日がたった。

私とクラウディアは正式に王位継承者として現行の貴族達にお披露目する『第三位継承の儀』が始まるのを前に、一緒の部屋でドレスに着替え終えたところである。


 「いよいよ始まりますね。クラウディア様。」


 反応がない。

緊張しているのだろうか?。

それとも何かに怯えているのにだろうか?。

呼吸が荒く、目が定まっていない。


 「大丈夫ですから。クラウディア様。私が一緒にいますから。安心してください。」


 我ながら酷い嘘である。

元からそのつもりもないのに。

でも予定通りにことが進む。

これで。


 「はいお姉様。」


  私が手を握ると、安心したように手を握り返すクラウディア。


 トン。トン。トン。

 「クラウディア様。フィーア様。時間です。お願いします。」


 見張りの青年に呼ばれて私達は王宮の間の大きな扉の前で待つ。

あの時、失敗してしまった以上。

ここでやられなければまた同じことを繰り返す。

何度もあんな経験をするのはごめんだ。


 「行きましょうか。お姉様。」

 「えぇ。」


  扉が開くと同時に私は手を離した。

もう必要ないから。

だからそんなに驚かないで。

悲しまないで。

クラウディア。


 『王位継承者のクラウディア様。フィーア様のおなーり。』


 王宮の間に響きわたる輝かしい声。

私にとっては悪夢の始まりの角笛。


陛下と王妃の座る玉座に続く赤いレッドカーペット。

窓から降り注ぐ光がクラウディアの継承を歓迎している。

 頭を軽く下がっている貴族達の横を通り抜けて行く。

あぁ……。

やっぱり私は歓迎されてない。

わかってたいたけれど。

あえて聞こえる小声で言ってるのが小賢しい。

 それに対してクラウディアは歓迎の声でいっぱいである。

だから悲しまないで。

これはあなたのための儀式なのだから。


 玉座の前に着いた私達は膝をついて頭を下げる。

私は何度も経験しているのだから問題ないものの。

クラウディアはも同程度にできている。

この短期間と年齢にしてはできすぎている。


 「2人ともよく来てくれた。」

 「よくおいでなさいました。さあ、顔を上げ立ち上がりなさい。」


 陛下と王妃に言われ、私たちは頭を上げ立ち上がった。


 「お2人ともこれからこの国を担う者として何か志しはあるか?。」

 「はい。」

 「はい!。」


 クラウディアの声が響きわたる。

同時にプレッシャーも声に乗っかって反響している。


 「良い返事です。ではまずクラウディアから。」


 名指しで呼ばれる。

強い眼差しで貴族達に振り返った。


 「私はこれから。これからもフィーア姉様と一緒にこの国をよりよくしていくことを誓います。」


 決意の入った強い声。

王宮の間に響きわたる声のプレッシャーであたりは一時静まりかえった。

けれどそれも杞憂で、すぐに歓声と握手で湧き上がっていった。

 けれどごめんなさい。

あなたの決意は無駄に終わるわ。

だって私は……。


 「ありがとうございます。クラウディア様。」

ガランっ……。


 あたりがざわめく。

それは私がクラウディアにナイフを投げたから。


 「お姉様……。」


 困惑するクラウディア。

でも仕方ないの。


 「クラウディア様。私はあなたの姉になれることはとても幸せです。」


 これはあなたが民に愛される王になるための必要な儀式だから。


 「だから。これからも優しい姉でいるために。お願いクラウディア。それで私を―。」

 「何を言っているのですか……?。」


 ざわめく式典。

困惑する貴族。

一部は私に対して非難しているのだけれど。

陛下は静観。どうやら見極めてるみたい。

ごめんなさい。あなたの考えはハズレよ。

王妃は困惑の表情で私とクラウディアを往復して目を回している。


 「お願いクラウディア。これはこの国のためなの。私が最低最悪の王女になる前に。私を。」

 「えぇ……。」


 私がここで亡くなれば最悪の未来は訪れない。だからお願いクラウディア。


 「わかりました。お姉様。では最後にお願いです。【これから】も私の大好きなお姉様でいてくれますか?。」

 「えぇ。約束するわ。」


 グサッと私の心臓にナイフが刺さる。

幾度も繰り返してきた感覚。

沈むような。

閉ざされるような。

あぁ……。

これで今度こそこの悪夢も終わる。


 「お姉様!!。」


 クラウディアの声が頭に響く。

もう真っ暗で何も見えないけれど。

声を辿って私はまだ動ける方の腕でクラウディアの頬を撫で。


 「クラウディア……。ありがとう……。」 

 「っ……!。」


 これでいいの。

これで。






――――




――――――――



―――――――――――――――――――――


 あぁ……。

これはいつかの記憶……。


 クラウディアが悪しき私を倒した時の記憶……。

度重なる重税と食料危機で国が疲弊して、全ての責任が私に向かってきた時の……。

原因になった貴族達はことごとく私のせいにしたっけ……。


 「なんで最後避けなかったのですか……。」

 「元々そうなる運命だったのよ。」


 そう。これは予定されたシナリオ。

民の味方の王女が、民の敵の王女を打ち倒すというごく在り来りな物語……。


 「何をそんなに悲しむの……。」

 「だってあなたは悪い人に思えないから……。」


 灰被りのお姫様は優しい。

憎らしいくらいに。

いつも皆に側で輝いて。

導いて。

寄り添って。

 私のことなんて今まで目を向けたことないのに。

今更私を見るの。

本当に憎い。


 「あなたは最低最悪の王女を打ち倒した正義の味方の王女様。もっと誇りなさい。」


 視界が暗く沈む。

もう表情は見えない。

今どんな顔をしているのだろうか。

まあ。どうでもいいか。


 「だからありがとう。これからも優しいあなたでいなさい。みんなにしたわれる最高最善の王女様に。」


 この国を託すのにはあなたが必要。

だからこんなところで挫けないで。


 「さようなら。クラウディア。」


 だってこの国の未来は明るいのだから。




―――――――――――――――――――――




―――――――






―――








 目を覚ますと見慣れた天井。

どうやら私はまた失敗したらしい。

はぁ……。

あと何千万回……。

この悪夢を繰り返せば良いのだろうか……。

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