第3話 微かな違和感と予定にない覚醒

 身体もそれなりに回復して、歩けるようになった。

私は改めて鏡で自分の姿を見ていた。


 「どうしたのですか?。お姉様。」


 クラウディアが私の後ろから話しかけた。


 「ちょっと衣装に悩んでいてね……。」

 「それなら私におまかせください。」


 止める暇もなく侍女を連れて着ていく洋服を漁ってる。


 「これにしよう。」


 選んだのは黒をメインカラーに明るい青のアクセントが入ったそこそこ派手ではないドレス衣装。


 「お姉様。」


 邪険に拒否することはできないしする気もない。

だって王女の頼みなのだから。


 私はドレスに袖を通す。

鏡に映るのは私の姿。

黒く長い髪を私から見て右側に纏めており、紫色の瞳が深淵のように覗かせる。

その姿はまさに。

最低最悪の王女にふさわしい姿。


 「ごめんなさい。今あなたで合うのこれしかなくて。」

 「大丈夫よ。あなたらしくて。」

 「そう……。ですか……。」


 何をそんなに悲しむのだろうか?。

私に合う衣装じゃないの?。

昔っからあなたが選んでいたじゃない。


 トントントン。ガチャ。


 「お2人とも。時間です。」

 「はいわかりました。」


 クラウディアの声が低い。

悲しんで怒って、本当に昔からよく分からない子。


 「行きましょうか……。お姉様。」


 私はクラウディアに差し出された手を―。

取らなかった。

取る資格も道理もないもの。


 私達は大聖堂に向かう。

馬車に乗って。




―――――――




 あれから数刻。

ついに辿り着いてしまった大聖堂。


 白い大理石の巨像がその神聖性を保証している。

まるで純白かのごとく。


 「フィーア。ディア。行くぞ。」


 私達は陛下に連れられて奥へと続く。

神聖な聖域は悪しきものを許さない。

例外なく。

なのに私は何故かこの領域に入れている。

……。

いやむしろ歓迎されて、祝福もされている。

なにかがおかしい。

こんなことこの時間にはなかったはずなのに。


 ガチャ。


 扉が開かれた先にあるのはひし形の建造物と祭壇。

それと参拝者用の長椅子。

それが神の領域と思わせるように窓から注ぎ込む太陽の光。

私はこの場所が嫌いだ。

ただでさえ居場所のない私には入ることも出来なかった不可侵領域。

なのに今回は入れた。

不思議だ。


 ドタドタ。ドタドタ。ドタドタ。


 バンっ。


 「あっ……。」

 「お姉様!。」


 後ろからの衝撃に思わず倒れ込んでしまった。

当たったのはどっかの騎士の子供だろうか……。

銀色の髪に琥珀色の瞳……。

あぁあの子か。

クラウディアと結ばれる一人。

騎士団長の息子にしてお調子者のわがまま自称王子。

《イリヤ=ヴァイセン》。

確か私の婚約者の時は辺りに迷惑をかけて、それをクラウディアに怒られたのを逆上して返り討ちにあって求婚したやつか……。

あれ?。

これはどの時間だったっけ……。

まあいいや。


 「お姉様。大丈夫ですか!?。」

 「大丈夫よクラウディア様。私はこの通りなんでもないから。」

 「そうですか……。」


 私は立ち上がった。

これくらいで私は壊れない。

うん大丈夫。

身体『は』正常に動く。


 「いてっ。なんだよ。」


 母親らしき人に無理やり引っ張れて例の自称王子が私達の元にやってくる。


 「謝りなさい。イリヤ。」

 「なんで俺が。」

 「女性に対して謝りもしない人が立派な騎士になるなんてそこら辺の平民でもできますよ。」

 「ちっ。わかったよ。ごめんなさい。」


 全く反省の色が見えない謝罪。

王族に対してこれである。

ある意味図太いというべきか……。

不意にバカ自称王子が私を見るなり笑う。


 「こいつ偽王女じゃん。なんだ謝って損した。」

 「イリヤ!。」

 「だってみんな言ってるじゃんか、陛下を騙して王族に取り入ろとしたバカな平民の娘だって。」

 「やめなさい。」


 しばらく罵詈雑言、誹謗中傷が続く。

お陰で今、貴族内での私の立ち位置がわかった。

やはり私は邪魔なようだ。

それどころかていのいい批判対象として玩具にされるみたい。

あることないこと。

本当に昔から飽きないわねその噂話。


 「あーあ。こんなのと結婚しなくて済んだ。」


 聖域に響きわたる無邪気な純粋無垢の笑い声。

聖域が揺らぐ。

どうやら怒らせたらしい。

何が。何に。何を。


 「お姉様。もう我慢できません。私……。」

 「やめなさい。」


 私はクラウディアの手を握って黙らせる。

言葉だけでなく魔法も。

この子。即死級の魔法を出そうとしたわね。

怖い子。


 「お静かに。」


 聖域に神聖な言霊が響きわたる。

全てに対して静まるように。例外なく。


 「おまたせしてすみません。」

 「それはいい。」

 「準備はできておりますがあまり期待されない方がよろしいかと……。」

 「君は私の直感が信用出来ぬと……。」

 「そうは言っておりません。ただよい結果が必ずくるとは限りませんので。」

 「忠告か。」

 「まあそのようなものです。」


 2人は幼なじみであり、今までこの国を行政と宗教で引っ張ってきた功労者だ。

だからこその忠告。

まあ私に期待する方が馬鹿らしいのだけれどね。


 「ではお手を。」


 私は祭壇にある水晶に手をかざす。

まあどうせ結果は確定している。

今までも。これまでも。

だから。

……。

…………。


 ゴーン。ゴーン。ゴーン。


 鐘の音……。

これは神からの……?。

おかしい。

クラウディアでもないのに鳴っている。

彼女は祈っているけれども力を使った痕跡もオーラもない。

ならこれはいったい誰が……?。


 「これは……。あなたって人は……。」

 「私の直感は当たる。昔からだろ。」

 「そうですけれど……。後はどうするのですか……。」

 「どうもしない。いつもどうりやるだけだ。頼んだぞ。相棒。」

 「はいはい。必要なものはおいおいに。」


 悪い大人の会話が聞こえた気がするけれど。

無視しよう……。


 「フィーア。これでお前を手放す理由が無くなった。」

 「おめでとうございます。お姉様。」


 むー。

予定とは違う。

まさか創聖の力があるとは……。

でも何故……。

クラウディアが私を蘇生させたから……?。

それとも1回理を超越した消滅をしたから……?。

原因が多すぎる。


 ともあれ私は王族として正式に養子として迎え入れられることになった。

闇属性の魔法と創聖の力が使える王女として。

やはり私が最低最悪の王女として迎える未来は揺るがないみたい。

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