第2話 40歳過ぎてコンタクトレンズに挑戦した話2
私はメガネ派である。
メガネは顔面を彩るファッションアイテム、というだけではない。
私のような冴えないモブ顔おじさんからすれば、あえてメガネを派手目にすることで相手の記憶に残り、次の仕事への繋がることすらある。冗談のようなマジな話である。
メガネは私にとって個性であり、顔の一部と言っても過言ではない。
そんな愛しのメガネにも、悲しいかな欠点はある。
汗や油などで汚れる。マスク使用時に曇る。VRヘッドセットでもわかるように被り物との相性は最悪。運動時も邪魔になることが多い。踏めば壊れる。
対して、メガネのライバル(個人の感想)にあたるコンタクトレンズはどうだろうか。
顔はそのままに視力だけを矯正する魔法のようなアイテム。
少なくとも汗では汚れない。曇らない。被り物も関係ない。メガネよりは運動向きと思われる。昨今ではカラーコンタクトなる物も登場し、おじさんを時々ギョッとさせることも出来る。
ただし、お金は結構かかるイメージだ。
中学時の友人はコンタクトを紛失したり、付けたまま寝て結膜炎になったりと、取り扱いも大変そうだった。メガネよりも間違いなく繊細だし、踏めば壊れる。
そしてなにより、コンタクトは眼球へ直接つけなければならない。何それ怖い。もはや拷問一歩手前ではないか。やっぱりメガネが良い。メガネ最高。
そんな穿った考えでコンタクトを避けてきた私ももう40過ぎ。それなりの辛い経験も積んできた。
それに比べれば、ちょっと眼球にレンズを乗っけるぐらい大したことないのではないか。刺身にタンポポをポンっと乗せるかの如く、私の目にもコンタクトが乗るのではないか。あれはタンポポではなく食用菊で、乗せるのにも結構気を使うという話は置いておいて。
まあ、実際に多くの人がコンタクトを装備して生活しているのだ。
刺激を求める心に従い、おじさんもチャレンジしてみようじゃあるまいか。
それからの私の動きは早かった。
まずはネットで情報を集め、短期間の使用なら意外と安上がりなことや、目への負担の少ない種類が開発されていることなどを知った。
さらに市内に評判の良い眼科クリニックがあり、『コンタクトレンズ初心者』は初診でも予約できるのだという。渡りに船とはこのことか。確実に、着実に私の方へ風が吹いている。
善は急げと早速ネット予約をし、数日後の平日午前、私は車でクリニックへと向かった。
眼科って、こんなに混んでるものなんすねぇ。
まず、広い第一駐車場が満車だった。第二駐車場も満車だった。ちょっと遠くの第三駐車場でようやく駐車出来た。駐車するだけでクリニックの周囲を3周である。
そして当然のごとく、待合室は人で溢れていた。受付の女性がおじいさんに向かい「今からだと午後の診察になる」と大き目な声で告げていた。ここだけではなく車で待っている人もいるのだから、そりゃ午前中で捌ききれるはずもない。
とはいえ私は予約勢。
受付で予約した旨を伝えて手続きをし、車で待つこと30分。
スマホが鳴って私の番となった。
まずは目に異常が無いかを検査を受けた。
考えてみればここ20年以上、眼科にはお世話になっていない。『40歳を過ぎたら眼科検診』みたいな話をどこかで聞いたので、今回は一石二鳥だったかもしれない。
幸運なことにさしたる異常もなく、視力検査も順調に終えた。
次に別の部屋で椅子に座らされ、しばらく待つと20代後半ぐらいの活発そうな女性看護師さんが対面へ腰かけた。
「コンタクトの注意事項などを説明します」
冊子を開きつつ慣れた様子で話し始める看護師さん。
コンタクトの仕組み、種類、危険性等々。
その中で最も印象に残ったのはやはり危険性だ。
「コンタクトをしないで済むなら、その方が目の健康に良い」
という看護師さんの言葉をおじさんは心に刻んだ。
軽い気持ちで来てすみません、VRを体験したかったんです。エロい動画も見たかったんです。
さらに流れるように一通りの説明が終わり、今度はコンタクトの種類や値段の書かれた紙を広げると、看護師さんは私にこう尋ねた。
「それでは、どのような目的でコンタクトを使用される予定ですか?」
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