おじさんの適当な話

もうもう

第1話 40歳過ぎてコンタクトレンズに挑戦した話1

 日々の生活に刺激が無さすぎる。


 40歳を過ぎしっかりとおじさんになった私は、危機感を覚えていた。

 毎日同じことを繰り返すだけで、あっという間に流れていく月日。

 それは20代よりも30代、30代よりも40代の方が如実に早くなっており、このまま歳を重ねていけば「目が覚めたら100年経っていた」ともなりかねない勢いである。コールドスリープも真っ青だ。


 このままではいけない。しかし、いったい何が原因なのか。

 私なりに日々の暮らしを省みた結果、冒頭の一文となった。


 思い返してみれば、若き日は刺激の連続だった。こちらの望む望まないに関わらず、毎日のように新しい知識や体験が与えられた日々。さらにはクラス替えや進学で人間関係は強制シャッフルされ、常に刺激にさらされてきた。

 また社会に出たばかりの時も刺激は大いにあった。新社会人としての生活変化だけではない。働き、納税し、自立することで、自分の将来について現実的に考え始めた時期でもあった。この仕事をやっていけるのか。自分の人生はこれでいいのか。不安で眠れない時もあった。もう刺激でいっぱいいっぱいだった。


 だが、人間は慣れる生き物だ。

 仕事ではコツを覚え何となく回せるようになり、人生にも徐々に見通しがたってくる。新人の頃は大変だったことが『何でもないこと』に変わり、新鮮な日々が『当たり前の日常』になる。それは決して悪いことではないだろう。


 ただ、私はそこで止まってしまった。

 安定した日々に胡坐をかき、生活は完全にルーティーン化した。

 更に悪いことに、コロナ禍の影響で唯一外出する趣味だったライブすら観に行けなくなり、刺激はどんどん減っていった。

 その結果、平穏な日々をただただ高速で消化するだけのおじさんになってしまったのだ。


 これではいけない。

 人生には刺激が、思い出が必要だ。せめて「ああ、あの年の時は何々をしたな」とのちに振り返られるぐらいには。

 そして、いい加減おじさんも思い知ったのだ。

 刺激は向こうからはやってこない。自ら求めていかなければならぬ、と。




 ということで新たな刺激を求め、私はVR体験の出来るヘッドセットを購入した。

 そこそこ高いやつである。


 もっと外出するようなものも考えたのだが、コロナもまだ予断の許せぬ時期だったこともあった。それにVRについては動画配信で見て興味があったし、パソコンも新調したのでタイミングも良かった。当然、エロへの興味もあった。当たり前である。


 ただ、実物が届いたあとにひとつ問題が生じた。

 メガネが非常に邪魔なのだ。


 私は目が多少悪い。裸眼だとギリギリ普通免許が受からない程度に悪い。家などの慣れた場所ならメガネ無しでも生活できるが、基本的にメガネ人間である。

 しかし、それは元からわかっていたこと。

 私はちゃんと購入前に調べ、メガネ使用時に必要なパーツも購入していた。


 こんな無駄に幅広なメガネ買ったの、誰やねん。


 もちろん私だった。

 私のメガネは、ちょっとかっこいいスポーツ向きのデザインをしている。購入時に色々と店員さんから話を聞き、耐久性や軽さ、フィット感、鼻や耳にかかる負担から選んだのだ。しかしそのせいで、通常のメガネよりも横幅が広めになっていた。

 ついでに色は白。赤との二択だったが、赤は風水的に金運に良くないと聞いたので白にした。貯金は特にたまっていない。

 そんなメガネがきつい。入らないわけではないのだが圧迫感がありとても気になる。メガネ自体も若干曲がって変な癖がつきそうだった。


 さて、どうしたものか。

 その後少し調べてみたが改善できそうなオプションパーツは見つけられず、結局私に与えられた選択肢は3つだった。


 VR体験を諦めるか。

 VRヘッドセット専用の度付きレンズを買うか。

 VRヘッドセット用に新たなメガネを買うか。


 VR体験は諦めたくない。そこそこ高い買い物だったし、エロも諦めたくない。

 専用の度付きレンズとは、ヘッドセットのレンズ部分に直で付け足すものだ。それをつければメガネが無くても見えるようになる。ただしレンズの度があっている必要があるため、事前にメガネを購入した店で情報を得なければならない。

 このレンズについては迷ったが、購入手続きをしてから手元に届くまで1か月以上かかる見込みであり、見送った。おじさんはそんなに我慢できない。


 よーし、おじさん、新しいメガネ買っちゃおうかな。メガネを安くなったし、凝ったものじゃなければ時間もかからず手に入るだろ。

 

 と、社会人らしく金にものを言わせようと思った矢先、おじさんに天啓が降りた。



 人生初の、コンタクトレンズに挑戦してみるのはどうだろうか。

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