第二章

 朱里の勤める『四谷総合商事株式会社』は、品川の港区に本社を構える一部上場の大手総合商社であった。


 周囲の建物の中で、一際大きい複合オフィスビルの中に入居しており、十階から二十階が会社のフロアになる。


 朱里は、そこで受付嬢の仕事に従事していた。


 受付嬢のメリットとして、大勢の人間と関われることが挙げられる。それにより、食料を『見繕う』ことも可能だった。自分の容姿のお陰か、相手からプライベートの名刺を渡されることも少なくなく、簡単に獲物の候補は集まった。さすがに会社の人間はまだないが、訪れた客とは何度か、プライベートで会い、『食料』にしたこともある。


 受付嬢である利点は他にもあった。それは残業がほとんどなく、土日祝も休みが取れる点だ。一応はシフト制で、早番、遅番こそあるものの、総務課や営業部とは違い、自由な時間が確保でき、食料調達の障害になることはなかった。これも、当初からある程度狙って就いたものである。


 朱里は、満員電車に揺られながら、品川駅で降りた。似た格好のスーツ姿の男女に混ざって、コンコースを歩き、南口から外へと出る。


 途端に、十月の強い朝日が体を包んだ。


 朱里は眩しさに目を細めながら、目の前にある階段を下り、南口広場へ足を踏み入れた。


 ここは一昨日、男からナンパされた場所だ。その男の一部は、今現在、弁当の中に収められている。まさか、男もそのような形で、ここに舞い戻ってくるとは考えてもいなかったことだろう。運命とは数奇なものだ。


 朱里は、広場を抜け、港南区へと入る。


 ここから会社までは、およそ十分ほどだ。


 朱里は、会社へ向かう間、ずっと次の『標的』について考えていた。朝ごはんをちゃんと食べてきたにも関わらず、『標的』のことを考えだけで、お腹が減ってくる気がする。それほどあの『標的』は、美味しそうな肉体を持っているのだ。


 どんな調理をしてやろうか。いや、どんな調理があの子に似合うかな。


 人を殺して食うという行為は、紛れもない犯罪だが、これは食料を得るために必要なメソッドだ。食わねば生きられない。そのために他の命を奪うのは、生物なら当たり前にやっていることである。自然の摂理というものだ。だから、罪悪感も後悔も必要なかった。


 朱里は『標的』の調理方法を思案しながら、歩き続ける。そうしている内に、いつの間にか会社へと辿り着いていた。




 「そうなんですよー。あのエロ親父、私の足を触ったんですよ」


 受付嬢が使用している会社のロッカールームにて、艶やかなセミロングの髪を揺らしながら、同僚の駒形詩緒こまがた しおは、息を巻いていた。聞けば、新田勇次にった ゆうじからセクハラを受けたらしい。


 詩緒の常に媚を含んだような瞳が、困惑した形に歪んでいる。


 「でも気のせいじゃない? 新田課長、既婚者だし、そんなことしないと思うけど」


 朱里は新田を庇う振りをしつつ、新田の容姿を頭に思い浮かべてみた。


 新田勇次は、営業部の課長を務めている四十越えの中年男性だ。筋肉ではなく、脂肪による肉付きの良い体格で、髪も薄く、絵に描いたような中年男性的な容姿をしている。朱里としては、あまり美味しそうな体ではなく、ビジュアルも良くないので、ほとんど食指が動かない相手であった。仮に食べるのであれば、揚げ物や肉春巻きなど、ベトナム料理に似た調理法がいいかもしれない。


 魅力のない体の新田だが、顔付きはいかにも好色そうだった。実際、性欲旺盛なのか、朱里自身も何度かセクハラ紛いの行為をされたことがあった。そのため、詩緒の証言は、勘違いではなく、おそらく事実なのだろうと思われた。


 ちょっと前に、朱里のストッキングがロッカールームから消えたことがあったが、新田盗んだのではないかと踏んでいる。


 「既婚者とか関係ないですよ。男は奥さんがいようと、どんな立場だろうとエロいんですから」


 詩緒は唇を尖らせながら、主張する。


 股の緩い女が言うと、説得力のあるセリフだと思う。この女が発情した雌犬のように、営業部や企画部の男達を漁っていることは見聞きしているので、どれだけ尻が軽いかこっちはお見通しだった。新田のことを責められる立場ではないのだ。


 「そんなこと言わないの」


 朱里はたしなめる。そして、詩緒に悟られないよう、詩緒の肉体を観察した。


 新田とは違い、詩緒の体は、妖艶に肉が付いていた。男好きする体とは、こんな体型のことを言うのだろうと思う。いかにも好きそうな顔も含めて、男から性的に求められやすい存在なのも頷けた。


 それから、朱里自身も『食料』として、詩緒にそそられている事実があった。何せ、詩緒の肉は非常に質が良さそうなのだ。脂も旨みも適度に乗っていそうだし、若い女であるため、食感も柔らかいはずだ。角煮やモモ肉のポン酢和えが似合うだろう。


 普段から、詩緒に対し、そのような欲求を抱いているため、お腹が空いた時などは、詩緒が目の前を通るだけで、つい噛り付いてしまいそうになる自分がいた。


 さすがに、同じ部署の同僚を易々と狙うわけにはいかず、手が出せないでいた。現在、別の標的もいる。だが、機会があったら、ぜひ『ご馳走にしたい』相手であった。


 その後、二人はお喋りをしながら、受付嬢に支給されている指定の制服に着替えた。キャビンアテンダントの制服にも似た、華やかでありながら上品なデザインの服だ。やや、スカートがタイトで短いのは、社長の趣味か。


 制服に着替え終えた二人は、他の部署と交えた朝礼を済ませた。そして、勤務開始時刻になると、朱里は詩緒と一緒に、受付へと立った。




 時計の針が正午を指し、昼食の時間が訪れた。受付業務では、他の受付嬢と交代で休憩を取るようにしている。早番なので、朱里は先に詩緒と一緒に、弁当を持って十階にある社員食堂へ向かった。


 美術館のように小奇麗な食堂は、すでに沢山の社員で賑わっていた。空いている場所が少ないので、朱里達は、食堂の一角にある長テーブルの端に座る。


 朱里は、持ってきた弁当箱をテーブルの上に広げた。今日は普段より、一ケース多めに持ってきている。


 中身はウィンナーやミートボール、から揚げなど、弁当における定番の肉料理ばかりだ。それらの材料は、もちろん、あの時解体した男の肉である。


 「近内さん、今日はお弁当沢山作ってきたんですね」


 詩緒が、二つある朱里の弁当箱を見ながら言った。


 「ええ。ちょっと食材が沢山手に入ったから、奮発して作ったの」


 「お米は食べないんですか?」


 詩緒は、朱里の弁当箱に白米が入っていないことに気が付き、言及する。


 「うん。糖質ダイエット中なの」


 当然、真っ赤な嘘であった。お米なんて、匂いを嗅ぐだけで辟易してしまう。ここ数年、一粒も口に入れていない。人肉と一緒ならば食べることも可能だが、摂取する必然性はなかった。必要な栄養は他から補給可能だからだ。


 「やっぱり良いスタイルを持っている人は、そんな努力をしているんですね。尊敬しちゃいます」


 詩緒は、一昨日の夜、男が放った言葉と同じことを言う。


 「そんなことないわ」


 「私もやろうかなー」


 詩緒はぼんやりと言う。


 「あなたは必要ないと思うわ」


 だって、今の体型のままで、充分美味しそうだもの。


 「嫌味ですかそれー」


 「本当よ」


 詩緒は、再び朱里の弁当へと目を落とした。


 「それにしても、近内さんのお弁当、相変わらず美味しそうですね。本当に料理が得意なんだ」


 詩緒は感嘆の様子を見せる。お世辞ではなく、本気で言っていることが表情から読み取れた。


 「ありがとう。そうだ。どれか食べる?」


 朱里は弁当箱を差し出す。詩緒は首を振った。


 「お気持ちだけ頂きます。自分のお弁当以外に食べたら太っちゃう」


 朱里は詩緒の弁当箱に目を移した。ピンク色の弁当箱には、卵焼きや焼き鮭などが詰められている。おそらく、これは詩緒本人ではなく、母親が作ったものだろうと思われた。この女が、料理がからっきしなのは聞き及んでいたからだ。


 二人が弁当を食べ始めて少し経った頃、近くの席に誰かが座った。そしてすぐに、こちらへ声をかけてくる。


 「お二人とも今日も綺麗だね」


 朱里は、声の主の方へ顔を向けた。そこには新田課長がいた。部下を二人引き連れている。


 新田を確認した詩緒の顔が、露骨に歪んだ。新田はそれに気が付くことなく、意気揚々とさらに話しかけてくる。


 「お、朱里ちゃん、今日はお弁当沢山持ってきているね」


 新田は、目ざとく朱里の弁当に目を付けた。新田も奥さんの手作りであろう弁当箱を手元に置いているが、朱里の弁当の方が気になるらしい。


 朱里は言う。


 「はい。食材が沢山手に入ったので、気合入れて作りました」


 「美味しそうだね」


 「食べますか?」


 朱里は、弁当箱の一つを、新田達に差し出した。新田の顔が輝く。


 「いいの? こんな美女の手作り弁当が食べられるなんて光栄だな」


 新田は心底嬉しそうに言い、弁当箱の中にあるミートボールを箸で取った。それから口に入れる。そのミートボールは、男の臀部の肉を合挽きにして、団子状にした後、焼いたものだ。ソースはトマトペースト仕立てで、長時間煮込み、コクのある味に作っている。


 人肉から出来たミートボールを食べた新田は、ため息をついた。


 「美味しい。ほっぺが落ちそうだ」


 朱里は笑みを浮かべる。新田の褒め言葉が、素直に嬉しかった。危険な橋を渡って手に入れた食材を、丹精込めて調理したのだ。褒められれば、嬉しいのは当然であろう。


 そう。人肉はとても美味なのよ。ちゃんと味わって食べてね。


 朱里は礼と共に、新田に言う。


 「ありがとうございます。課長にそう言われると自信がつきます」


 朱里の言葉に新田は気を良くし、次はウィンナーを食べた。ウィンナーは男の小腸に、ミンチにした上腕二頭筋を詰めてある。


 「これも美味い」


 朱里は、他の男性社員二人にも弁当を勧めた。


 一人は、武谷啓たけたに けい。営業部のエースで、長身細身の男だ。軽薄そうで、何を考えているかわからない陰のある印象の男だが、顔は結構整っていた。『食材』としては、そこそこ美味しそうである。肉もそれなりに締まっているだろう。


 朱里の差し出した弁当を、武谷は食べる。彼は、から揚げを選択した。から揚げは男のもも肉を使ったものだ。


 から揚げを食べ終えた武谷も、朱里の料理の腕を褒めた。


 「うまいよ。良い肉を使っているんだね。わかるよ」


 武谷の感想は、偶然か、的を射ていた。朱里は肯定する。


 「そうなんですよ。沢山手に入って」


 「近内さんの彼氏は、いつでもこんな美味しい料理が食べられるんだね。羨ましいな」


 「そんな。彼氏なんていませんよ」


 武谷は、よく朱里に気のある素振りを見せる。他にもそのような男性社員は多いが、その筆頭と言える存在だった。


 朱里は次に、西阪将彦にしざか まさひこに弁当を勧めた。西阪は、地味で大人しそうな相貌をした男だ。オタク的な顔と言っていい。年齢は二十歳後半ほどと聞いた。身長は中背であるものの、体格自体はがっちりしているようだ。だが、肉はそれほど美味そうには見えなかった。朱里にとっては、守備範囲外の存在である。


 西阪は、朱里の勧めた弁当を一瞥すると、静かに首を横に振った。


 「僕はいいよ。近内さんの大切な弁当を食べるわけにはいかない」


 よくわからない理由で断られた。さっき武谷が言った、良い肉という部分に反応したのだろうか。


 「お前、こんな美人の手料理を断るとは無礼な」


 新田が、茶化すように文句を言う。西阪は肩をすくめ、自身の手元に置いてある食堂のうどんを啜った。


 それから朱里は食事に戻る。新田が現れたことにより、すっかりテンションが落ちた詩緒と一緒に、新田の話に付き合う。そうしながら男の肉で作った弁当を口に運んだ。


 食べ終わる頃、ふと誰かの視線を感じた。出所を見ると、西阪が、意味深な目線をこちらに送っていた。


 しかし、彼は朱里と目が合うと、すぐさま視線を逸らした。それ以降、西阪は一度も朱里の方へ目を向けることはなかった。




 一日の業務が全て終了し、通勤用のスーツに着替えると、朱里は会社を後にした。一直線に品川駅を目指す。


 ちょうどやって来た山手線の列車に乗り込み、ほっと息を吐く。


 帰宅ラッシュには少しだけ早い時刻なので、車内は比較的空いていた。朱里は出入り口に近い席に腰掛ける。


 本来は住居のある目黒駅まで向かうのだが、今日は違っていた。朱里が乗り込んだのは、逆方向の内回りである。東京、上野の方へ向かうルートだ。とある目的があり、自分の部屋へ直帰するつもりはなかった。


 朱里は列車に揺られながら、車外を流れる景色を眺める。


 雑多な街並みは夕闇に覆われようとしていた。その中を、大勢の人間が歩道を行き来している姿が目に映る。


 朱里は、次に車内へ視線を移す。比較的空いている時間帯とは言え、それでもほぼ満席状態である。都市部の人口過密状態を体現しているような様相だった。


 そこにいる人間達を、朱里はぼんやりと観察する。今の時刻は、制服を着た学生達が多い。その中で、一つの集団が目に付いた。


 高校生くらいだろうか、健康的に日焼けした男子学生が四名、楽しそうにはしゃぎながら会話を行っていた。多分、運動部と思われた。


 その中の一人に朱里は目を奪われる。小麦色の肌をした長身の男の子だ。スポーツマン特有の引き締まった手が、白い夏服からすらりと出て、つり革を掴んでいる。その浮き彫りになった筋肉が、ミケランジェロの彫刻のように、とても美しかった。


 あの手を切断し、丸ごと燻製にしたら、さぞかし美味だろう。


 男の子は、朱里の欲望など露知らず、友達と笑い合った。


 しばらくすると、男の子は、友達と挨拶を交わし、新橋駅で降りて行った。思わず、立ち上がり、尾行しそうになる衝動に駆られる。


 だが、朱里は堪えた。今日は重要な目的がある。寄り道する余裕はなかった。これから向かう先にこそ、本命が住んでいるのだから。


 よかったね。先約がいて。


 電車が動き出し、朱里は窓の外を歩く男の子の姿を見送りながら、心の中でそう呟いた。


 その後、しばらくして、電車は上野駅へと到着した。朱里はそこで電車を降りる。


 入谷口から外に出て、台東区方面へ足を進めた。


 時間帯はちょうどラッシュアワーに突入し、大勢の人間とすれ違った。スーツ姿の自分は、どこからどう見ても、会社帰りのOLに映ることだろう。中には、容姿に惹かれてか、こちらに目を奪われたり、振り返る通行人もいた。だが、これはいつものことで、ご愛嬌というものだ。仮に今日、自分の容姿を記憶されても、『計画』に支障はない。


 朱里は一旦、左衛門橋通り近くにあるブティックへ入り、少しだけ時間を潰すと、外に出て、交差点を渡る。しばらく歩き、住宅街に進入した。


 この辺りは表通りと比べて、とても静かだ。人通りも少ない。


 朱里は住宅街の中を十分ほど進んだところで、立ち止まり、一軒のアパートを見上げた。


 築三十年は経っているであろう、古ぼけたアパートがそこにあった。ドラマや映画に出てきそうな、絵に描いたようなトタン屋根の安アパートである。


 ここに、朱里の標的である『彼女』が住んでいた。今年大学に進学したばかりの女子大生で、名前は船崎由佳ふなざき ゆかという。ここからほど近い短大へ通っていた。


 うら若き乙女が、なぜ、こんな防犯意識の欠片もないアパートに住んでいるのか。そこには色々事情があったようだ。


 由佳の近辺を調べる段階で、いくつかわかったことである。


 長野県に住んでいた由佳は、由佳が幼稚園の頃、両親が離婚し、母親の方へと引き取られたらしい。その後、シングルマザーとなった母親が、女手一つで由佳を育ててくれていたのだ。だが、やはり女一人では相当きつかったのか、由佳が中学生になった時、母親は再婚をした。大手企業に勤める、母親より十以上も年が上の男。


 ある日突然、ろくに知らない男が由佳の父親になった。


 由佳は、その父親との折り合いが悪く、すぐにでも家を出たかったらしい、正確に言えば、その新しい父親から性的なイタズラを受けていたようだ。母親も母親で、ある程度勘付いていたものの、自分達の生活のためだと割り切り、特にアクションを起こさなかったらしい。


 そして、大学進学を期に、由佳の方から両親に仲違いを仕掛け、上京したとのことだ。そのため、仕送りはなく、奨学金とアルバイトのお金で、由佳は生活を送っていた。今時珍しい、健気な苦学生である。


 そのような背景があり、由佳は、現在の無防備同然の安アパートに住むことを余儀なくされているのだ。それが命取りだと知らずに。


 朱里は、由佳の容姿を頭の中に思い浮かべた。少しぽっちゃりとした、マッシュボブが似合う背の低い女の子。健康的に肉が付いており、非常に良質なタンパク質を保有していることは明白だった。


 初めて由佳を品川駅で目にしてから、一目惚れをし、後をつけて住居を突き止めたのだ。それから入念に身辺調査を行い、『計画』を立てた。


 何度か、由佳が働くコンビニにも訪れたことがある。レジでお釣りを手渡す由佳の手と触れ合うだけで、エクスタシーにも似た快感が体を突き抜け、むしゃぶり付きたくなる衝動を抑えなければならなかった。


 朱里は唾を飲み込むと、由佳の薄暗い安アパートを眺める。一階の端にある由佳の部屋は、まだ明かりが点いておらず、部屋主が不在であることを証明していた。アパートが全体的に暗いのは、住人が少ないからだ。由佳の部屋の隣も、今は無人である。


 朱里は通行人の振りをしつつ、由佳が帰ってくるのを待った。元々、近隣には人の気配がなく、朱里が若い女性であるため、朱里を怪しい目で見る者は全くいなかった。


 日が落ちた頃、ようやく由佳が帰ってきた。今日も学校終わりに、バイトをしてきたようだ。


 確か由佳は今日、午前のみの講義だったはず。だから、バイトは午後丸々入っていたことになる。そのせいか、由佳には、徹夜明けのような疲れた気配があった。


 由佳の姿を確認した途端、朱里のお腹が大きく鳴ってしまう。夕食がまだなので、由佳の体は刺激が強かった。


 由佳は、朱里が監視していることを悟ることなく、部屋の中へと入っていった。由佳が部屋の扉を閉めた直後、台所に明かりが灯る。


 朱里は、周りに誰もいないことを確認し、猫のように、そっと由佳の部屋に近付く。そして、玄関の扉前から、中の音に耳をそばだてた。


 このアパートの間取りは完全に把握している。IKの狭い部屋だ。


 部屋に入ってすぐ横にある脱衣所の扉を開ける音がした。おそらく、これからシャワーを浴びるつもりなのだろう。


 玄関扉の隣にある窓の中が風呂場である。つまり、このままいけば、由佳の豊満な肉体を拝むことが可能だ。おそらく、出荷直前のの和牛のように、プリッと身が引き締まっていることだろう。


 風呂場に照明が灯り、中に入ってくる音がした。朱里は覗こうと窓のサッシに手をかける。


 だが、済んでの所で思い留まった。あまりにも積極過ぎだと思った。今日は様子見の日なのだ。もうそろそろ引いた方がいいかもしれない。人通りが極端に少ないとは言え、下手をすると、誰かに目撃される恐れがあった。


 朱里は、ゆっくりとアパートから離れる。それから、振り返り、風呂場の窓に映る由佳の裸体のシルエットを見た。


 摺りガラス越しの裸体は、なおさら想像力が掻き立てられる。ここから見ると、服を着ている時以上に、由佳は豊かな肉体を持っている気がした。アフロディーテのように、神秘さを秘めた体だ。


 由佳の肉を調理するイメージが、頭へと広がる。脂が程よく乗った肉。上品な甘みがあるだろう。ステーキとして食べてもいいかもしれない。


 朱里は食欲に塗れた妄想を振りほどき、由佳の住むアパートに背を向けた。ずっと見守っていたかったが、あまり長居すると、誰かに目撃されるリスクが増してしまう。そろそろ潮時だった。


 次に由佳の姿を見る時は、犯行の直前になるだろう。


 また今度ね、由佳。


 朱里は心の中で、由佳にそう声をかけ、駅に向かって歩き始めた。


 その時だった。


 人の視線を感じた。蛇のような、粘り気のある視線。


 朱里はアパートの方へ振り返った。てっきり由佳が見ているのかと思った。


 だが、由佳はまだシャワーを浴びている最中のようだ。由佳ではない。


 周りを見渡す。しかし、通行人がほとんどいないこの通りは、こちらに視線を投げかける人間すら存在しようがなかった。


 気のせいだろう。そう思った。犯行を計画している最中の上、空腹である。美味しそうな食材を見た後でもあった。神経が昂ぶってしまった結果なのだろう。


 だが、上野駅に向かう間も、ずっと、その粘りつくような視線を背中に感じ続けていた。




 由佳のアパートへ赴いてから、二週間ほど経った。その間も着実に手に入れた男の肉は減り続けている。なにせ、様々な物を食べる普通の人間とは違い、一つの食材に消費量が偏重しているのだ。減り方は半端ではなかった。


 まだ余裕はある。だが、もうそろそろ新しい肉を調達しておくべきだった。生命線なのだ。人肉がなくなったら、自分は何も食べる物がなくなってしまう。


 朱里は、決行日を四日後に定めた。ちょうど週の真ん中の平日で、夜に出歩く人間が少ないためだ。また、台東区の燃えるゴミの指定日でもある。それに由佳のスケジュールを調べても、その日は早めに家に帰る予定となっていた。


 決行日まで、朱里は悶々とした日々を過ごす。


 やがて、決行日の夜が訪れた。朱里は会社から帰宅すると、早めの食事を済ませた。


 時計の針がちょうど十九時を指した頃だ。朱里は全裸で鏡の前に立っていた。少し前にシャワーを浴び、全身を清めてあった。


 朱里は手に持ったスイムキャップを頭に被り、纏めてある髪が完全に収まるよう綺麗に覆った。それから、茶色に染まったショートボブのウィッグをその上から被る。


 朱里は、鏡の中の自分を眺めた。普段と違う髪型と色になると、相当雰囲気が変わる。さらに、そこにスクエアタイプの伊達眼鏡を掛けた。赤い色でフレームが太いものだ。


 眼鏡を掛けたことで、さらに雰囲気が変化した。これだけで、おそらく知り合いとすれ違っても、すぐに自分だとは気付かれないだろうと思う。


 朱里は眼鏡を外し、次に化粧を行った。普段はナチュラルメイクだったが、今日は変装のための厚めのメイクを施す。


 化粧が終わり、再度眼鏡を掛け、改めて鏡の中の自分を確認した。もうほとんど別人と言っても差支えがなかった。この顔で会社に行っても、誰もが新人の若い女だと思うことだろう。


 そして、朱里は下着を身につけ、スーツを着た。このスーツは、普段会社に通勤する時に着用するスーツではない。この時のために購入したパンツタイプの黒いリクルートスーツだ。着用後の姿を見ると、外回りの営業ウーマンのようにも見える。


 変装用の装いを整えた朱里は、次に玄関へ行き、そこ置いてある巨大な青い箱のようなものを見下ろした。


 これは旅行用のキャリーケースだ。大型だが、この姿の自分が引いていても、他者の目からは、出張中の女性会社員としてしか映らないはずだ。


 キャリーケースの中には、解体用の道具一式が入っている。家で使うよりも、小さくて取り回しが良いものを用意した。


 キャリーケースをチェックし終えた朱里は、その横に置いてあるローファーを履く。このローファーは、ユニセックスの市販品でどこにでもありふれているものだ。サイズはツーサイズ上を選択しており、内部にインソールとトゥーシューズパッドを仕込むことで、支障なく動けるよう工夫していた。


 このローファーで、標的の部屋の中に入るので、証拠として足跡を取られたとしても、自分本来の足のサイズとは明らかに違う上、どこでも買える男女兼用の靴なため、捨ててしまえば、後は自分まで辿り着くことは困難となるはずだ。


 靴を履いた朱里は、改めて準備の漏れがないか指差呼称で確認した。そして、キャリーケースを引き、部屋を出る。


 誰からも見られないように注意しながら、マンションから出て、素早く離れる。


 マンションさえ後にしてしまえば、多少怪しまれようとも、特段、自分の家まで嗅ぎつけられる心配はなかった。


 朱里は目黒駅近くの居酒屋まで行くと、そこで、予め公衆電話を使って呼んでいたタクシーを待つ。今回も、例のタクシー会社を利用した。


 いくら変装しているとは言え、犯行当日に、駅の防犯カメラや、別のタクシー会社の車載カメラにわざわざ証拠を残す真似は避けたかった。念には念をである。


 タクシーがくると、ドライバーがキャリーケースをトランクへ積み込んでくれた。


 その後、タクシーに乗る。布地以外のものには、極力触らないよう朱里は心掛けた。指紋を残したくないからだ。


 朱里は、行き先を上野駅近くのアパートに指定した。それからタクシーは、出発する。朱里にとっての狩りの凱旋だった。


 流れ行く目黒の景色を眺めつつ、朱里は頭の中で犯行計画を再度シュミレートした。


 夜間の電力調査員という体で、相手の住居を訪ねるつもりだった。そのための偽の社員証も作成してある。


 もしも朱里が男ならば、相手は警戒心を抱き、玄関先で追い返していることだろう。しかし、こちらは若く、しかも容姿端麗の女なのだ。相手はまず、警戒をほとんど抱くことはない。これまで誰もが朱里の肩書きを信じ込み、自分の住居へと快く招き入れてくれていた。


 これは、狩りをする時に使う常套手段だった。


 そして、相手の住居に見事侵入を果たした後は、用意した改造スタンガンを使用する。


 そのスタンガンは、タイタン製の強力なスタンガンであり、手を加え、さらに出力を向上させていた。また、電極に二本の長い角のような金属片をつけ、直接皮膚へと電流を流し込めるよう作り変えていた。電流は通常、皮膚の上を流れて威力が半減するが、直接相手の体に刺して流し込めば、ほぼ抵抗なく相手の体を電流が襲い掛かるのだ。その威力は凄まじく、大柄な男も即座に昏倒できてしまう程強力である。


 その後で、身動きがならなくなった状態の相手を絞殺する。だが、ただ絞め殺そうとしてはいけない。相手の首にロープを掛けた後、背負い投げの要領で締め上げるのだ。ちょうど二人で行う準備運動の『かつぎ合い』のように。


 これをやれば、相当体格差がある人間でも、簡単に絞殺が可能だった。


 相手の殺害に成功したら、もうこっちのものである。手袋を付けた後、死体をバスルームに運び入れ、素早く簡易的な解体を行う。


 最小限の解体を終えると、風呂場を洗浄し、必要な部位は、キャリーケース内の袋へ保管する。それから必要のない部位は、密封容器に入れ、規格のゴミ袋へそれと判明しないように収めた後、ゴミステーションへ廃棄すれば済む。指定日である翌日の朝、ゴミ収集車が回収してくれることだろう。


 この犯行は、人体消失トリックのようなものなので、被害者は行方不明として扱われる。この時点では、まず警察はろくに動くことはない。せいぜい捜索願いを受理する程度に留まるだろう。


 仮に動くとしても、早くて数日先だ。そこでも、いちいち何の痕跡もない風呂場を調べるような真似はしないし、調べても出るのはルミノール反応程度だ。すでにその頃には、とっくに被害者の残骸はゴミステーションからごみ焼却場に移され、この世界から消滅していることだろう。ルミノール以外の証拠はないのだから、警察が朱里の元へ嗅ぎ付ける要素はゼロといえる状態だ。


 最後は、警察の職質に警戒しながら、再びタクシーを使い、部屋に戻れば犯行は完遂である。


 慣れ親しんだ、狩りの計画だ。これまで、失敗したことは一度もなかった。


 タクシーは、上野まで着くと、指定の場所で停車した。


 朱里はお金を払い、自動で開いたドアからタクシーを降りる。それからキャリーケースをドライバーの手から受け取った。


 タクシーが走り去った後、朱里は由佳のアパートへ向かって歩く。キャリーケースを引きながらなので、少し手間を取ってしまう。


 夜の上野は、活況の様相を呈していた。平日の夜にも関わらず、祭りのように人混みで溢れている。


 朱里は、その中で、何人もの人間とすれ違った。もしもこれで自分の姿を通行人に記憶されても、それは変装している姿なので、何ら問題は生じなかった。ましてや、自分の本当の容姿を看過できる人間など、超能者でもない限り絶対に存在しないだろう。


 朱里は、亡者の群れのように歩く人々を見て思う。まさか目の前の女が、これから人を殺して、その肉を食う目的を持って歩いているとは思いもよらないだろうと。


 由佳にしても同じことが言える。今まさに、食人鬼たるアルミン・マイヴェスが、自分の肉を狙いにやってきているのだ。そんな悪夢のような現実、想像の埒外にあるのは当然である。これから自分が殺されて、肉を食われるなど、信じろという方が無理なのだ。


 やがて、朱里は先日訪れた由佳の住むアパートへ辿り着いた。通行人はおらず、相変わらず静かだ。


 由佳の部屋をチェックする。台所の窓から光が漏れており、由佳が在宅であることは把握できた。


 朱里は周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると、キャリーケースをアパートそばの側溝の中に隠す。ここなら、周囲から死角になるし、いつでも容易に取り出すことが可能だ。


 そして、朱里は由佳の部屋の前に立った。その場で、深呼吸を一つ行い、ポケットの中に忍ばせてある改造スタンガンと、絞殺用の綿ロープに触れた。


 本番だ。これより狩りの時間に突入する。


 朱里は、ハンカチ越しにインターホンを鳴らした。その後、しばらく待つ。


 好きな人に告白する時のように、心臓が高鳴っていた。これから夢にまでみたと二人っきりで相対できるのだ。緊張しない方がおかしかった。調理した後、吐き気がするまでお腹に収めてやりたい。


 インターホンを鳴らして少し経った。朱里は眉根を寄せる。


 出てくるのが遅いな、と思う。一瞬、風呂に入っているのかと考えたが、浴室はすぐ近くの窓の中なのだ。そこから光は漏れていないので、違うとわかる。


 朱里は再びインターホンを押した。玄関扉越しに、インターホンの音が聞こえる。壊れているわけではなさそうだ。寝てるのだろうか。電気を点けたまま。


 しばらく待っても、由佳は出てこなかった。明日も大学の講義はあるし、照明も点いているため、中にいるのは確かである。やはり眠っているのかもしれない。


 朱里は悩む。このまましつこく鳴らせば、由佳は起きるだろう。しかし、そうすると、反感を買って、無用な警戒心を引き出してしまう恐れがあった。


 かと言って、このままこの場所にいても、通行人やアパートの住人に目撃される危険が増えるのみだ。変装しているとは言え、姿を見られるのは避けたい。


 朱里は逡巡した後、辺りを見回した。静まり返った住宅街が夜の闇に沈んでいるだけで、人影はない。


 朱里は素早く手袋を付けた。それから、ドアノブを回して引く。


 玄関は何の抵抗もなく、あっさりと開いた。防犯チェーンも掛かっておらず、とても無用心だと思う。それに、まるでついさっき、誰かが出入りしたような気配があった。


 朱里はそっと中を覗く。目の前は、台所だ。点いたままの煌々とした明かりが眩しい……。


 そこで、はっとした。


 臭いを感じた。古い民家の古木のような香りに混ざって、ある臭いが色濃く漂っていた。


 これは、これまで幾度となく嗅いだことのある臭いだ。血と臓物の臭い。


 朱里は扉を大きく開け、ローファーのまま、部屋の中へ足を踏み入れた。


 台所から先は、部屋が一つある。確か和室だったと思う。朱里は、その部屋に近付いた。うなじがチリチリと逆立っている気がする。嫌な空気を肌が感じ取っていた。


 朱里は引き戸に手を掛けた。そして、開く。


 目に飛び込んできたのは、赤色だった。最初は赤い絨毯が敷かれてあるかと思った。だが、違った。畳に血が広がっているのだ。


 由佳が目の前にいた。それが由佳だとわかったのは、顔が残っていたからだ。胴体は内臓を抜かれ、付いていたはずのふくよかな肉もほとんど削ぎ落とされていた。まるでライオンに食い荒らされたシマウマの残骸のような有様で、畳に置かれてある。


 手足も同様だった。それぞれ胴体から切り離されており、残された腕骨や脚の骨が剥き出しになっている。


 由佳の死体は、見事なまでに綺麗に解体されていた。


 それら胴体と手足の上に、切断された由佳の顔が、供え物のように置かれてあった。


 朱里は手で自身の口を覆う。これは、一体どういうことだ。解体するために狙っていた由佳が、なぜ自分が手を下すよりも先にバラバラにされているのか。


 答えは単純だ。先を越されたのだ。別の捕食者に。


 どこのどいつかはわからないが、偶然にもその捕食者は、朱里と同じく、由佳を標的にしていたのだ。おまけに、その人物も、由佳の肉が目的であることがわかる。もう後から取れる部分がないほど、由佳の肉は完全に削ぎ落とされているのだ。これが単にバラバラ死体だけだったら、ハイエナのように残った体から肉を奪えるのだが、この状態では不可能である。


 そして、この現状。風呂場ではなく、この部屋で由佳を殺して解体した犯人は、自分と違って、証拠隠滅は図らなかったらしい。これでは、確実に由佳が殺害されたことが明るみに出てしまうだろう。こちらが証拠を消してやるにしても、畳にこれほど血と肉片が撒き散っていれば、もはや現状回復は困難だった。


 ここにいるのはまずい。朱里はそう確信した。下手をすると、殺害犯にされかねない。


 逃げ出さないと。朱里は、急いで和室から出た。そして玄関へと向かう。


 玄関扉に手を掛けた時、朱里は振り返り、由佳の切断された頭部を一瞥した。由佳の愛嬌があるぽっちゃりとした顔は、苦悶の表情に歪んでいる。突然、肉食獣に襲われ、恐怖を感じたまま食い殺された――そんなメッセージが、由佳のデスマスクからは伝わってくる気がした。


 朱里は静かに玄関を開ける。そして誰もいないことを確認して、由佳の部屋を後にした。


 それからキャリーケースを回収し、上野駅へと向かって歩く。


 頭の中は、真っ白だった。先を越され、獲物を奪われたのだ。これで、数週間の苦労は水泡と帰した。


 そればかりではない。新たな人肉の入手に失敗したということは、食料が不足する可能性が出てきたということだ。以前僥倖で手に入れた男の肉は、随分と減ってきている。これから人肉を入手するのであれば、また一から標的を探し、計画を練らなければならない。その間も、着実に肉は減少するだろう。もしも、その計画すら失敗すれば、食料難に陥ってしまう。


 上野駅に到着する頃には、朱里は随分と冷静さを取り戻していた。それに反比例するかのように、ある感情が湧き上がってくる。


 強い敗北感だ。どこかの誰かが、偶然と言えど、自分の獲物を奪った。これは、万死に値する。野生の狩りで獲物を横取りすることほど、罪深い行為はないのだ。


 朱里は犯人に対し、強い怒りを覚え始めていた。




 由佳の死体がアパートから発見されたというニュースは、翌日の昼、朱里の耳へと入った。


 昼休み、社員食堂へ一緒に行った詩緒からその話を聞いたのだ。勤務中、ずっと一緒にいたのに、どこからその情報を仕入れたのか不思議に思ったが、どうやらちょくちょくスマートフォンを弄っていたようだ。ネットのニュース欄は、その事件のことで持ちきりらしい。


 「殺されてたのは若い女の子みたいですよ。女子大生とか」


 詩緒は、ゴシップ記事に興奮する主婦のように、テンション高めに言う。近隣の地区で事件があったのが、よほど琴線に触れたようだ。


 「そう。ひどいわね」


 朱里は、そっけなく答える。


 「死体の状況もひどかったらしいですよ。バラバラにされていたって」


 知ってる。私はその現場にいたのだ。それも最初の発見者として。どれほど無残な状況なのかは、つぶさに見ていた。


 「犯人は捕まったの?」


 朱里の質問に、詩緒は首を振る。


 「まだみたいです。警察が捜査を開始したとしか書いてないから」


 「そう」


 なんだ、と朱里はがっかりした。


 その後、二人は、食堂のテーブルに着いた。弁当を広げ、男の肉が入った弁当を食べ始める。


 しばらくすると、食堂に天吊りされているテレビが、正午のニュース番組を映し出した。


 ちょうど、由佳の事件がトップニュースだった。センセーショナルな音楽と共に、人気の女性アナウンサーが、スタジオで原稿を読み上げる。


 ニュースによれば、こうだった。


 今日の朝十時頃、東京上野区にあるアパートの一室で、近くの短大に通う女子大生が遺体で発見された。その日は朝から女子大生が出るはずの講義があり、欠席したことを心配した友人がアパートを訪ねて、遺体を発見したとのこと。


 アパートには鍵が掛かっておらず、室内は電気が点いた状態だったらしい。そして、女子大生は、そこでバラバラにされて殺害されていたようだ。抵抗した形跡もないため、顔見知りの犯行の可能性もあるという。


 報道では詳細は伏せられていたが、遺体の損傷が激しいと言っていたので、警察やマスコミも、肉がそぎ落とされていたことは着目しているようだ。


 一緒にニュースを観ていた詩緒が、声をひそめながら言う。


 「ネットやツイッターのニュースで出てましたけど、女子大生の肉がほとんどなくなってたみたいですよ。犯人は食べるために女子大生の肉を切り落としたんじゃないかって」


 「まさか。レクター博士じゃないんだから、そんなことする人いないでしょ」


 とりあえず、否定してみる。


 「レクター? なんですかそれ」


 詩緒は、不思議そうな顔をした。レクター博士を知らないのか。朱里は面食らった。詩緒が無知なのか、それともこちらが特殊なのか。どちらだろう。


 「知らないならいいわ。でもさすがに人の肉を食べるなんてそうそうないんじゃない? 肉をそぎ落としたのは、証拠隠滅のためだと思うわ」


 朱里は、男の肉で作ったウィンナーを口に運びながら、嘘の持論を伝える。


 詩緒は蠱惑的な顔を歪め、首をかしげた。


 「でも、ネットじゃあ、食べるためって説が有力ですよ。何でも、警察の分析の結果、女子大生の肉を切り取った凶器が、動物専用の解体用具? みたいなものらしくて」


 なるほどと思う。確かに現場を訪れた朱里の見地からしても、由佳の遺体には、解体用の刃物が使われていたことは間違いがなかった。しかし、それをすでに警察が把握しているのは意外だった。なかなか優秀ではないか。この調子なら、犯人逮捕も時間の問題かもしれない。


 「そう。怖いわね」


 何はともあれ、後で自分もニュースをチェックしてみようと思う。証拠は一切残していないし、靴もすでに処分した。こちらに容疑がかかる心配は今のところないが、情報は得ておくべきだった。


 だが、なによりも重要なのは、自分の食料である。このまま着実に、人肉が減っていくのを放っておくわけにはいかない。今日にでも動き出すべきだった。


 朱里は、弁当を口に入れながら、詩緒と会話をしつつ、頭の中で計画を立てる。


 ふと、誰かがこちらを見ている気配がした。これは、以前も感じた視線だ。


 そちらを見る。四人掛けのテーブルに、男性社員達が座っており、その内の一人がこちらに視線を向けていた。


 冷たい風を浴びたような感覚。その人物を確認した朱里の肌に、粟が生じた。


 西阪将彦だ。ねちっこい、欲望に満ちたような目でこちらを見ている。


 男から性的な視線を向けられることは多々あるが、それとはどこか異質な気がした。


 少しだけ恐怖を覚える。朱里は西阪から目を逸らし、弁当を口に運ぶことに集中した。


 次に朱里が西坂を見た時は、朱里へ向けていた視線が、何かの間違いであったかのように、彼は同僚と親しげに会話を行っていた。


 もう見られていないとわかっても、朱里は西阪の方へ再度視線を向けることができなかった。




 由佳が殺害された日からすぐに、朱里は次の標的を探した。だが、ただ単純に朱里好みの標的を見繕うだけではなく、居住環境や、家族構成も考慮する必要があった。


 これについては、毎度ながら難儀させられた。美味しそうな標的を見つけても、いざ、その近辺を調べてみると、狩るのにはとても不向きな環境にいることが多かった。そうやすやすと、運命の相手は現れないということだ。


 以前のように、ナンパされての狩りの方法もある。だが、その場合は、リスクがより増大する。計画を立てて、自ら動くよりも不確定要素が多く、時と場所次第では、一発でアウトになる場合もあった。よほどのことがない限り、ナンパ待ちによる狩りは取りたくないのだ。


 やはり、狩りは自分から追うのに限る。


 朱里は強固な意思の元、決してめげることなく、自分好みの標的を探し続けた。


 同時に、由佳の殺害事件のニュースについても目を光らせていた。詩緒が以前伝えてきた通り、警察やマスコミは、カニバリズム事件として扱っているようだ。精肉された動物のように、肉が削ぎ落とされていたことと、室内が物色された形跡がないことが決め手になったらしい。犯人は、肉を得るためだけに、由佳を殺害したのだと。


 マスコミは、今回の事件を『令和の食人事件』と銘打ち、日夜、熱烈な報道を行っていた。


 ネットでもテレビでも話題沸騰であるものの、今のところ、捜査は進展がなく、犯人逮捕の目処はついていないようである。


 朱里は世間が猟奇殺人に沸き立つ中、必死に次の獲物を探していた。そして、いよいよ保存してある人肉が残り少なくなってきた頃、ほぼ理想通りの相手を見繕うことができた。


 目黒に住む独身のOLである。可能であれば、近郊の目黒は避けたかったのだが、背に腹は変えられない。この際、強行突破を行おうと思う。


 標的のOLは、名前を柊彩夏ひいらぎ あやかといい、二十四歳の独身女性だ。恵比寿にある物流会社で、総合事務として働いている。


 彩夏は、目黒の南端に位置する三田地区のアパートに居住しており、生活環境は、ほぼ由佳と変わらなかった。防犯の薄い部屋に、一人で暮らしているのだ。


 彩夏は、美人教師のような凛とした容姿をしている。胸も大きく、決して太っているわけではない、むっちりとした肉体が素敵な女性だ。スカートから伸びる肉の付いた生足が、何とも食欲をそそられた。


 彩夏を標的に定めた後は、朱里は準備に傾倒する。もう失敗は許されない。もしも今回、人肉が手に入らなかったら、今度こそ、食料が尽きてしまうだろう。すなわち、その先にあるのは餓死なのだ。だから、これが最後のチャンスである。


 入念に準備を整え、朱里は三日後を実行日に定めた。その間にも、当然だが、男の肉は食べ続けた。


 男の肉が、タッパー一つ分ほどまで減った頃、決行日がやってきた。




 キャリーケースを引きながら、朱里は目黒の歩道を三田方面に向かって進んだ。今回の服装は、カジュアルなセットアップスーツを選択した。リクルートと比べたらラフな印象があり、パッと見ると宝塚にでも出てきそうな出で立ちであったが、ビジュアルとしては悪くなかった。少なくとも、警戒心を抱かせることはないはずだ。


 夜の目黒は、少し冷たい夜風が吹いていた。もう十一月に突入しているのだ。豊穣の季節である。市場には、野菜や米が溢れているものの、自分は食糧難である。早く人肉を溢れんばかりに手にしたかった。


 しばらく歩くと、少し汗ばんでくる。秋の夜とはいえ、大きなキャリーケースを引いているのだ。当然の現象である。タクシーを使うことも考えたが、歩いていける距離である以上、無理にリスクを負う必要はなかった。


 自分のマンションを出発して、二十分ほどで、朱里は彩夏のアパートへ到着した。

 コンパクトを使い、化粧が崩れていないか確認した朱里は、周りを見渡し、キャリーケースをアパートの塀に隠す。


 それから朱里は、一階にある彩夏の部屋の前へ立った。ゆっくりと深呼吸を行う。


 緊張で体が強張っていた。大丈夫だと自分に言い聞かせる。次こそは成功するはずだ。なぜなら、自分には幸運の女神が付いているのだから。


 朱里はいつもの如く、ハンカチを使ってインターホンを押した。蹴れば壊れそうな安普請の玄関扉越しに、インターホンの音が聞こえる。


 しばらく待つ。彩夏の凛々しい顔が覗くのを期待した。


 だが、いつまで待っても彩夏は扉を開けなかった。ゾクリと、不安が虫のように首筋を這う。もしかして。


 唾を飲み込み、再びインターホンを押す。今度はしつこく、何度も鳴らした。寝ているだけに違いない。だから、今すぐ叩き起こしてやる。


 しかし、彩夏は出てこなかった。寂として、動きはなし。夜の三田地区の静謐な空気が、漂うばかりである。


 中に彩夏が居るのは、間違いなかった。明かりは漏れているし、平日のこの時間は、ほぼ確実に部屋で寛いでいるはずだ。


 不吉な予感に襲われた。朱里は手袋を付け、ドアノブを掴んだ。静かに回す。鍵は掛かっていなかった。玄関扉を開け、中を覗く。内部はダイニングキッチンだ。


 デジャブを覚えた。部屋の中からまた『あの臭い』を感じたからだ。食欲を刺激する血と臓物の匂い。


 朱里は部屋の中に体を滑り込ませた。ダイニングキッチンに足を踏み入れ、朱里はそこから、奥の寝室へ向かう。そして、目の前にある開き戸を開けた。


 強い眩暈に襲われた。つい、小さく呻き声を上げてしまう。まただ。また、それが起こっていた。


 部屋の中は、血の海だった。元は灰色だったのだろう、敷かれたカーペットが赤く染まている。


 その上に、彩夏の頭部が無造作に置かれてあった。胴体は解体され、内蔵や残骸が肉屋のゴミ箱の中のように、傍らに積まれてある。骨も切り離され、バラバラの状態で重ねられていた。骨の数が少ないのは、おそらく、肉が付いた部分は持ち去られたからだろう。あばら骨もほとんど残ってなく、骨付きリブとして、取り去ったようだ。


 腕と足も同じだった。残っているのは、手首や足首より先の部分だけで、他の部位は存在すらしていなかった。


 朱里は、しばし茫然自失となる。体が麻痺したように硬直し、息が詰まった。


 これではっきりとわかった。この犯人は、間違いなく、こちらの獲物を意図的に狙っている。由佳の時は偶然と考えていたが、二人目となると、それはまずあり得ない。犯人は、朱里の犯行や計画を完全に把握しているにも関わらず、警察に伝えることも、脅迫することもなく、朱里の標的を奪うことを選択しているのだ。


 朱里の頭に犯人のイメージがよぎった。標的を殺した後、肉を解体し、まるで勝ち誇ったように、人肉を貪り食う。


 その光景は、犯人からの挑戦状に思えた。


 目的はわからない。だが、確かに言えることがある。これから先、獲物を見付けて、狩りに赴こうとも、これまでのように妨害は続くということだ。もう一人の食人鬼は、決して、朱里へ人肉を渡すつもりはないのだろう。


 つまり、食料調達が封じられたことを意味している。


 朱里は、しばらくの間、彩夏の血と肉片に塗れた部屋で立ち竦んでいた。




 どこをどう帰ったのかわからないが、気が付くと、朱里は自室へ戻ってきていた。


 キャリーケースは、ちゃんと持って帰ってきており、手袋もポケットに入っていたことから、証拠を残すことなく、彩夏のアパートを後にしたことは読み取れた。


 朱里は、ベッドの上で毛布に包まり、病人のように震えていた。犯人の存在が恐ろしかった。こちらは相手に対し、見当すら付いていないのに、相手はこちらのことを全て把握しているのだ。その事実が、まるで悪魔や妖怪の類と対峙しているかのように、得体の知れない恐怖を朱里に与えた。


 それから食料の懸念。


 人肉しか食べることのできない自分が、人肉を得られる機会を失うのであれば、もう餓死しか道はなかった。点滴と栄養剤での補給もあるが、それだけではもちろん、人間は生きてはいけない。


 目の前に、ぽっかりと餓鬼道への穴が空いている光景が見える。これから自分はそこへ落ち、亡者と成り果て、ガリガリにやせ細って死ぬのだ。


 飽食のこの時代に、餓死など笑い種である。だが、悲しいことに、自分の運命はその危険を背負っていた。それを前向きに受け入れ、生きてきたのに、それすら邪魔をする者が現れた。何の因果だろうか。自分には幸運の女神が付いているのではなかったのか。


 朱里は、夜が明けるまで、ずっとベッドの上で震えていた。玄関の方で物音がすると、心臓が跳ね上がり、冷や汗が滲み出た。今にも犯人が野生の熊のように部屋に押し入り、自分を食い殺す。そんなイメージが、頭の中を占領していた。


 やがて、カーテンの外が明るくなり始め、雀の呑気なさえずりが聞こえてくる。いつもと変わらない爽やかな朝。だが、自分の心は暗く淀んだままだった。


 少し時間が経つ。時計の針は七時を回っていた。もう出勤の準備をしなければ、仕事に間に合わない時刻だ。


 会社へ行きたくなかった。というより、何もしたくなかった。体が重く、魂が抜けたように、虚脱感が全身を支配しているのだ。


 今日は会社を休もうと思った。受付嬢の当日欠勤は厳禁だが、仕方がない。この状態では、仕事どころか、人前に出ることすら不可能だった。


 朱里は、三十分以上かけ、スマートフォンを手に取ると、会社に欠勤の連絡を行った。幸い、相手は、朱里の死人のような沈んだ声を聞き、本当に体調不良だと思ったらしく、大した疑問を抱かずに欠勤を受け入れてくれた。代役を立てるという。


 会社は休みになったが、朱里は無気力に過ごした。ずっと毛布に包まったまま、鬱病患者のようにぼんやり壁を見つめる。


 昼前になり、朱里はようやくテレビを点けた。まだ、彩夏の死体が見つかったというニュースは流れていなかった。


 昼を過ぎると、お腹が鳴り始める。心は沈んでいても、腹は減った。だが、残り僅かな人肉を食べると、もう食べ物はなくってしまう。おいそれと、気軽に消費することはできなかった。


 午後二時を回った頃、とうとう彩夏の死体が発見されたというニュースが流れた。見覚えのある目黒の三田地区が、上空からの撮影によって映し出されている。窓の外からかすかに、ヘリコプターの音が聞こえてきた。


 にわかに、目黒は騒がしくなり始めたようだ。


 朱里はただ、茫然とニュースを眺める。ニュースは、二件目の猟奇殺人事件に沸き立っていた。彩夏のアパートを背景に、アナウンサーがこの世界で最も大切なことのように、事件のあらましを必死にまくし立てている。


 事件が発覚したのは、無断欠勤を行った彩夏の様子を、上司が確認しにきたためらしい。施錠がされていない部屋を、上司が大家と一緒に確かめたところ、死体を発見したようだ。警察の発表によると、彩夏は抵抗した形跡もなく殺され、体の肉を完全に取り去られていたとのことだ。


 以上の共通点から、警察は上野の事件と、今回の事件を同一犯の仕業と見做し、連続猟奇殺人事件として扱うようだ。そのため、警視庁に捜査本部が設立されるらしい。これからさらに、捜査は大規模なものとなる。


 やがて、ニュース番組は、スタジオの映像に切り替わった。そこで、有識者やコメンタリティーによる犯人像が、実しやかに推定された。それによれば、犯人は二十代から五十代の男性らしい。理由は、一人の人間が人を解体して運ぶのならば、相当な腕力が必要なためだ。


 また、被害者両名とも抵抗した様子を見せず、さらに寝込みなどを襲われた形跡もないまま殺害されていたことから、予め犯人が被害者宅に侵入して殺した線は薄く、知人や友人などの顔見知りが油断させて犯行に及んだのではないのかとの見解だった。つまり、被害者両名に共通の知人がおり、その人物こそが犯人である可能性が高いとのことだ。


 その推測を聞きながら、朱里は淀んだ心の奥底で、一笑に付した。生き物を解体するのに、腕力など必要ない。なのだ。大切なのはあくまで要領である。それに、顔見知りの犯行というのも、てんで的外れだ。由佳と彩夏が殺されたのは、自分が彼女達をターゲットにしたためだ。理由はわからないが、『令和の食人事件』の犯人の狙いは、あくまでも、朱里の獲物を先に殺し、食うことにある。


 スタジオでは、次に犯人がなぜ、このような猟奇殺人を行っているのかの動機の推測に移った。


 スタジオの人間が出した結論は、あまりにも有り体なものだった。漫画やアニメに影響を受けた末の犯行――。大柄な男性が漫画やアニメの真似事をして、知人の女性達への殺害に及んだ。これがマスコミが描く犯人像だった。


 人を殺して、その肉を削ぎ落とし、食べる。そのような常軌を逸した所業であるため、妙な結論に至るのは致し方ないかもしれない。


 ここでふと、微かな疑問が、朱里の頭をよぎった。朱里も犯行現場の状態から、犯人は自ら肉を食うために由佳や彩夏を解体したとばかり思っていた。だが、本当は違うのかもしれない。もしかすると、他に何か理由があるのではないだろうか。犯人は肉を食うのではなく、別の目的で二人の肉を削ぎ落とした。いや、――もしも、そうならば、それはなぜなのだろう。


 そして、そこには、朱里の犯行に先んじて、獲物を奪う目的にも繋がっているような気がした。


 やがて、ニュースは、別の話題に移る。結局最後まで、一人の女が、犯行直後に現場へ侵入したことは、一切触れられていなかった。今のところ、こちらに容疑の目が向くことはなさそうだ。


 ニュースが終わってからも、朱里はベッドの上から動けなかった。降りるのはトイレに行く時のみ。水はその際飲むくらいで、空腹は極限にまで達していた。


 悄然としたまま、夕方の陳腐なメロドラマを観ている時だった。静かに、だが確かな感情が生まれてきた。地の底から滲み出たマグマが、やがては大きな亀裂を生み、大地の上へ吹き出すかのように、その赤い感情は朱里の中を埋め尽くし始めた。


 それは、怒りである。


 由佳を殺された時にも、感じたものだった。人の獲物を奪った不埒な輩。卑怯なことに、影でこそこそ動き、こちらの狩りの邪魔をしている。楽しみにしていた由佳と彩夏の肉を食えなくなり、その上、現在飢餓に襲われているのだ。


 どこにいるかもわからない、くそったれ野郎。お前のせいだ。お前が私の肉を奪ったせいで。


 怒りのマグマは、大地を焦がし、森を焼き、やがて、全てを飲み込んだ。灼熱地獄と化した世界で、一匹の竜は奮い立つ。


 朱里は、ベッドから床に降りる。それから、冷凍庫に向かった。


 それまで感じていた恐怖は、どこかへ吹き飛んでいた。代わりに、焔のような怒りが、全身をたぎらせていた。


 朱里は冷凍庫を開け、タッパーを取り出した。そして、中に入っている男の肉をフライパンへ載せ、調理を開始する。単純に塩胡椒のみの味付けだが、香ばしい匂いが、空っぽの胃を強く刺激した。


 男の肉は、残り僅かだが、精を付ける必要があった。もう出し惜しみはしない。


 この事件が、犯人からの挑戦状というのならば、なるほど、いいだろう。受けて立つ。お前を排除しないと獲物を得られないのならば、必ず探し出してやる。必ず。


 何より、自分が生きるために。


 朱里は、完成した男の肉料理を食べながら、心の中で犯人へと宣戦布告を行った。

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