第2話  赤い靴

申し遅れましたが、「GUTTU」のリーダーデザイナー兼CEOの私の名前は、竹久夢美といいます。


その日も、仕事を済ませた私は、デスクを片付けて、オフィスの外に出ました。

小雨催こさめもよいで、空は鉛色でした。

大きなトンボ眼鏡、 レインコート、傘、手袋にブーツ。その日も、オシャレな私は、全身を自社ブランドの最高級品、それも真紅ばかりでコーディネートしていました。

さらに女社長というイメージに合わせて、真っ赤な〇クサスに乗っていて、内装は特注で、運転手にはシャレで燃えるような赤毛の外人の、それもF1レーサーを雇っています。

「社長?まっすぐ向かいますか?」

たどたどしい日本語で、彼が尋ねました。

「イエッサー。Go straight !」

「OK」


ついでに言うと彼は名前もクリムゾンと言って、これは全くの偶然ですが、あだ名を名乗っているのかはよく知らない…


待ち合わせの時間と場所にジャストに着いた。いい香りがしていまし.た。東洋風のバーで、初めて来る場所です。鼻につんと来る渋い香り。これはお香を焚き染めているのでしょう。


…待ち合わせの相手と目が合って、私は軽く手を振り、向かい側に着座しました。

 「はあい。ピッタリね。」

「待った?…随分オシャレなインテリアと雰囲気のところね。凝ってるわ」

 「いいでしょう?『 利休』ていう最近出来た「茶室バー」なのよ。オーナーが裏千家の師範で…」

 待ち合わせの相手の”理子”が説明してくれました。

 『利休』は、お茶室を模したつくりで、希望者は茶道の作法を実地に体験できて学べるという新趣向で人気のお店なのだそうです。

 坂本紫穂さんという名高い和菓子作家の作品も食べられるらしい… 


…理子はいつも通り可愛いお嬢様でした。

小柄で、くっきりとした顔立ち。

いわゆる❝ リケジョ❞で、喋り方も内容も冗長さを嫌う几帳面な性格を反映して論理的で明晰で、つまり理知の勝ったタイプ。

「エントロピーが大きい(小さい)」などという物理学の用語を日常的に好んで使うようなところがある才女でした。

 エントロピーというのは”冗長度”の指標で、そう言えば、理子はまあ、すべてにおいて「エントロピーが小さい」、極めて効率的で機能的、エネルギーの循環燃焼等に無駄がないタイプ?という感じでした。


 単に元気でパワフルというより…存在としての純粋さや濃密さが総体的に高い?理子からはそういう印象を受けます。


 私と理子は、3年来の愛人関係で、私は「両刀使い」、理子はプロパー?のレスボス趣味でした。

 私は恋多き女でほかにも男女の愛人がいたが、理子にはいませんでした。


 いわば若いツバメというか可愛いカナリアというか?をひとり「囲っている」格好だったのです。



<続く>

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