Rebuilding
@nazukeiryuu
冒険の終わり
錆びた鉄のような臭いで目が覚める。俺はどのぐらい意識を飛ばしていたのだろうか。
「おい!セイは目ぇ覚ましたか!そろそろ限界も近いぞ!」
「あぁわかってる!セイ!意識は大丈夫か?今治療するからな!」
なんとなくわかるんだ。多分俺は助からないだろうなって。やり残したこともある。果たせない約束も。それでも俺は立ち止まるわけにはいかないんだ。
俺は腰の剣に手を伸ばす。
「…セイ?とにかく今は撤退するぞ!もう少しで転移の魔法も完成する。だから!」
「時間足らないだろ?今はセグラがなんとか守ってくれてるがそれももう突破されちまう。誰かが残って時間を稼がなきゃいけねぇ。だから俺が行く」
「無茶言うなよ!お前は今死にかけたんだぞ!片腕だってなくなっちまってる。そんなの」
「無茶でも誰かがやらなくちゃいけねぇことなんだよ!クライヴ!勇者のお前が死んだらどうなる!今まで死んでいったやつらを無駄死ににさせたいのかよ!…いいから早く先に逃げろ!大丈夫だあんな雑魚ぐらい早く倒して逃げてやるからよ」
——ドン…!!
「クライヴ!もうもたねぇぞ!」
「…わかった。セイ!俺たちは先に行って待ってるからな!」
「わかってるよ、先に行ってろ」
「クッソが!なんでこんな目に!魔族の協力者を護衛するだけだったはずなのに!おい、セイ!エレンも待ってんだからな!死ぬんじゃねぇぞ!」
その時魔法陣が完成し、クライヴたちがシュンという音とともに転移した。
「やっといったか…。さてと、セグラの結界ももう持たないし俺もいい加減動くか」
俺の左腕は魔族の攻撃で吹っ飛んじまった。血も止まらなくて動けてるのが奇跡みたいなもんだ。それを抜きにしても分が悪い。お相手はこっちが転移の魔法を完成させようとしている間、いたぶるように魔法で牽制して本命の魔法の準備をしていそうだったしな。もうここからが正念場だ。
「あぁ、ほんとくそったれな人生だった。まぁお前もそんなもんか?」
「gyaaaaaa!」
泣き叫ぶような咆哮とともに距離を保ちながら魔術を撃ってくる。俺は必死に走りながら回避に専念した。
「正気狂ってんのに理性の塊みてぇな手堅い戦い方しやがってよ!こっちは片手で剣振るしかできねぇってのにな!」
魔術を剣で切りながら必死に食らいついていく。
「てめぇはくだらねぇ奴に好き勝手されたままでいいのかよ!なんのために戦おうとした!」
「Ugaaaaa…!]
魔術が頬を掠める。傷口から周囲が黒く浸食されていき感覚が鈍くなる。
思い出すほどろくなことがなかった。守りたいものも最後まで守れず、願いも叶わなかった。それでも自分が何もないと認めたくなくて、諦めきれなくあがき続けた。
「魔族と人が手を取り合えると信じてここまで来たんだろうが!あんたの娘になんて伝えればいいんだよ!俺たちで復讐の連鎖は終わらせるんだろ!」
魔術の爆発で吹き飛ばされる。相対する魔族を見ると左手がキラリと光った。きっと魔術が完成したのだろう。俺も覚悟を決めなければいけない。
「…やりきれないよな。それでも誰かがやらないといけないよな」
魔王は勇者にしか倒せない。だからこそ人類はなんとしても勇者を守らないといけない。
「…俺だって勇者になりたかったさ。勇者に憧れた。誰かを守れるような、そんな人になりたかったんだ。まぁなれなかったけどな。でも最近になってわかったんだよ。『誰かを助けることに理由はいらない』、なんてバカみたいな台詞ほんとに言うやつがいてさ。ありきたりだろ?それでも俺は救われたんだよ」
魔術が閃光を瞬かせながら迫ってくる。剣を握る手に力を込めて飛び込んでいく。感覚を研ぎ澄まし剣を振る。
肉を切る感触とともに声が聞こえた。
「…あ……りが…と……う」
立つのもやっとだったがついに体が限界を迎え前にそのまま倒れていく。
「…皮肉なもんだよな。死ぬ間際にやっと気づいた。俺は夢を叶えたかったんじゃない、報われたかったんだ。今までの俺が無駄じゃないって。誰かに認めてほしかったんだよ…」
もう声もでない。ほんとに死ぬんだな。それでも満足だ。魔王討伐は勇者の仕事だからな。俺の冒険はここまでだ。
Rebuilding @nazukeiryuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます