政略結婚は碌なことにならないけれど、恋愛結婚はもっと碌なことにならない。

水鳥楓椛

第1話

 私の今世の両親はロミオとジュリエットみたいだった。


 けれど、ロミオとジュリエットにはなりきれなかった。


 何故なら、両親の駆け落ちは成功してしまったから。

 多分、2人の人生はこの瞬間から狂い始めていたーーー。


▫︎◇▫︎


 私の今世の両親は政敵同士の家系の貴族子女だった。

 仮面舞踏会で出会って、意気投合して、お付き合いをして、そして互いが敵のお家の子供同士であると知ってしまった。


 けれど、2人は諦めなかった。


 両親を説得して、結婚をしようとした。

 結局は互いに別の婚約者を宛てられて、それから逃げるように2人は幾重もの困難を2人で乗り越えて駆け落ちをした。


 世紀の大恋愛!!

 めでたしめでたし。


 そこで終わるのが前世で私が愛していた歌劇というもの。


 けれど、そこで終わらないのが現実というもの。


 貴族の坊々として真綿に包むように大事に大事に育てられた父は、工場勤務に耐えられず、私が3歳の頃に肺を患って死んでしまった。

 同じく貴族の娘として蝶よ花よと可愛がられて育てられた母は、父の死と貧乏すぎる生活に耐えられず、私が4歳の時に自殺。


 うん。本当に碌なことになっていない。


 政略結婚というものは家同士の契約。

 それを保護にしてまで行った恋愛結婚の結末は非業の死。


 世の中ってままならないよねぇ。


 そんな両親が死んでしまった天涯孤独の私こと、水瀬みずせ莉乃りの、否、ルルアはよくある歌劇のように奴隷商人に売られる………、ことはなかった。

 両親が死んですぐに母方のの父親が迎えにきて、私を引き取ったからだ。


 祖父はとても厳格な人だった。

 金の巻き毛にペリドットの瞳を持つ私は母にそっくりだったらしく、ものすごく警戒して厳しく育てられたが、前世は中学生だった私は、もうある程度物事の分別がつく年齢だったから、問題なかった。


 ちなみに、父方の実家は母方の実家に政権争いで負け、家族で心中したことによってこの世から消え去ったらしい。

 家がなくなった1番の原因は父の駆け落ちらしいから、あの男は本当に碌なことをしていない。


 10歳となった私は、もうこの世界の教養をほとんど全て受け終わってしまった。


 好きで続けているダンスのレッスンを受ける傍ら、いつも私の脳内を占めるのは前世で憧れていた歌劇の音楽学校。

 小さい頃からたくさんの習い事をさせてもらっていた私は、高校生になったら、そこに通う予定だった。

 もう叶わぬ夢だと思うととても辛いけれど、歌劇の舞台の上できらきらと輝いていた女優さんたちが演じていた世界の中で生きていると思えば、そこまで辛くはなかった。


 中世ヨーロッパのような街並みに常識の世界観。

 歌劇好きの私には幸せな転生だ。


 16歳、私は政略結婚をした。

 お相手は4歳年上のお方で、私のことが嫌いなようだった。


 義務感からの結婚は当然うまくいかなかった。

 けれど、私はちゃんと後継ぎを設けられた。


 焦茶の髪に黄色の瞳が美しい旦那さまは、私が20歳になったその日に、私に家督を譲って私と息子を捨てて出て行った。

 噂によると、超絶美人な旅一座の踊り子さんに惚れ込んで2人で駆け落ちしたらしい。

 そして、旅一座は1番の稼ぎ手である踊り子に手を出されてものすごく怒り、旦那さまを3枚おろしにしたとかなんとか。


「本当に、政略結婚は碌なことにならないけれど、恋愛結婚はもっと碌なことにならないわね」


 3歳になる可愛い可愛い金の巻き髪に琥珀の瞳を持つ息子ライアンを抱き上げた私は、10歳の頃から私の従者として私に仕え続けてくれているアランにそっと笑いかけた、薄茶の髪に琥珀の瞳を持つアランは、私から手渡されたライアンを慈しむように抱き締めると、私の願うままに椅子に座る。


「ふふふっ、旦那様ってお馬鹿よね。こういうことはもっと上手にやらなきゃねぇ」


 息子の頭を撫でるアランに向けて艶やか微笑んだ私は、元旦那さまから受け継いだ伯爵としての地位を盤石にするために、今日も社交界に繰り出す。


の憂いを取り払うためにも、今日も張り切ってくるわね、アラン」

「いってらっしゃい、ルルア」


 政略結婚は碌なことにならないけれど、恋愛結婚はもっと碌なことにならない。

 でも、私は両親が道を踏み外したことによって生まれたし、夫が不倫したことによって今現在とっても幸せ。


「まあ、一概にダメとはいえないわね」


 可愛い息子の頭を撫でた私は、みんながいるであろう青空に片手を伸ばした。

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政略結婚は碌なことにならないけれど、恋愛結婚はもっと碌なことにならない。 水鳥楓椛 @mizutori-huka

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