証
「
父は、
その経は、
父が経を読み終わるのを待っていたが、いつまでも続いて、俺は声をかけてしまった。
「
父の経を読む声が止まった。護持僧の声は続く。
「誰だ」
顔を上げる父と、
「
俺は笑い出す。
父は、俺が我が子だと、分からないのだ。
ちがう。
数えるほどしか、見合ったことがないのだ。
父君は、俺の顔なんて知らないのだ。
俺の
何を、父と子である
惟喬と
母は、子を
しかし、父は、何の証もなく、
「今日は、
いつもは、昼も夜も俺から離れないくせに、
俺は、母と寝たこともない。
父は
俺は、母に似ているばかりで、父に何も似ていないのだそうだ。
俺は知りたかった。真の父が帝なのか、在原業平なのか。
強く欲すると、鬼と成り、
鬼と成っても、何の意味もなかった。
俺が
「誰か。誰か。」
ついに、
「あなや(あらまあ)、
女房は言いながら、御簾の前に立っている俺を、袖で
「誰の子だろうか」
「さて(さあ)。」
寝おびれた(寝ぼけた)女房は、はしたなく(
「暗くて、探せませんから、明けたら、探しましょう。――
「頼む」
帝は言うと、また護持僧の声に合わせて、経を読み始めた。
女房は、俺を袖で
「お渡りもしないで(
あくび混じりに女房は、
――父も、同じことがあったのだ。
父である
父(文徳天皇)と母(
父は、御簾の前に立っていることも気付いてもらえなかった。
俺は、立ち止まった。
「どうした」
女房が、俺の前、しゃがみこんだ。俺は言った。
「のどが、かわいた」
「
父が俺の名を呼ぶ声が、駆け寄る足音が、聞こえる。
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