父と子
「
袖の内に俺を
その声を聞き、
「
全子は、支えられた
「どうか鬼を、お静め下さい」
「
鬼を知っているから、鬼を見分けられるだけで、鬼を静める
「
山賤の男は慌てて、惟喬に寄り、腕に巻いた墨染めの袖を
「鬼に襲われたのですか」
全子が赤む顔を隠すことも忘れて、惟喬を見上げる。
「
山賤の男は答えて、慌てて
「鬼に襲われたって、
惟喬は、山賤の男に言う。
「
「鬼は、何処。」
聞かれても、惟喬は答えず、言った。
「お前も東の対へ行きなさい」
東の対にいた
「そんなこと言われたって…」
山賤の男は言いながら、惟喬の墨染めの袖を引き上げ、腕の傷を見る。鷹の爪が喰い込んだ傷から甘い血が、
「浅いけど、獣に付けられた傷だから、洗わないと、腐る。水を持って来るよ」
「
「鬼がいたって、傷を放っておけないだろ」
山賤の男――喬男は言い返して、向き返った。
「あんたは、
山賤の男は、座り込んでいる全子を見下ろして聞く。目を合わせて全子は、恥じて、顔を伏す。
「負っておりません」
「それならいい」
山賤の男は、
山賤の身で、惟喬を「父」とも呼べず、「
「
惟喬は言って、俺を袖の内に捕えている
「兄に何もさせないように。」
「ぅぶっ――かしこまりました」
思わず笑ってしまって弟・望行は応えた。兄・有朋は、顔に寄す皺を深くして、袖の内から
やっと袖の内から出られて、俺は言ってやった。
「
皆が、
今の
「幼いのに、昔のことをよく知っているね」
畏れる顔様を惟喬は、笑み顔に作って(作り笑いで)、わざわざしく(わざとらしく)、おおどかに(のんびりと)言う。
有朋の
「むぐっ」
「これほど、よだり(よだれ)を垂らしていては、そう思う」
袖で、俺の口を
「
「何も…何も…何も…」
「
「えっ」
惟喬に言われて、望行は驚く。
「有朋は、私の言うことを聞かないから」
惟喬は、はちぶく(文句を言う)。
「かしこまりました」
望行は笑いをこらえて受ける。
「
「はい」
父・
「
「はい」
望行が下ろした鶯歌の前に、貫之は
「えーぼーしー」
「やめっ、鶯歌っ」
鶯歌は両手で、貫之の烏帽子を掴み、取り上げようとする。貫之は、ひたぶるに(必死に)両手で、烏帽子を押さえる。
「ぅぶぶ頼んだよ」
笑いをこらえきれず
望行が、俺を有朋の腕から抱き取る。
兄弟は
「西の対へ行きましょう」
言って、紀望行が歩き出しても、俺は
俺の
「
望行は内から出て、
「許す」
「頼んだよ、望行」
「
「
「父を『父』と呼べないのか」
俺は言っていた。
喬男は、望行に抱き上げられている俺を、
「
愚かな
「俺が言っているのは、」
「
言いかけた俺を、紀望行は
思い違いを正さなかったら、愚かな山賤に、俺は物を知らない
俺は腹立ち、
「
望行に言われるなり、俺は体が動かなくなった。
「っひ」
思わず吸い込んだ息が、喉の奥、浅ましい声(みっともない声)を上げる。
息を吐き、口は動くことに俺は気付いた。言ってやる。
「いいのか。
「あなたの
「
「鬼に歌を詠むことができないのだな。歌を詠めば、鬼を殺してしまうから」
「そうなんですよねえ。この
ふくらかな顔は、思い悩む
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