邂逅
女だけではない、
牛車から降りるなり、
俺も
「待ちなさい。待って。待って……」
「鬼が来ます。
「分かった」
小野宮・
「鬼に喰わせるために、わざわざ、その身を肥えさせることもないだろう」
懸盤を持って立った遍昭を、業平は
「鬼に喰われる時、腹が減ったままでは悔いが残るじゃないか…」
「
遍昭に、惟喬は墨染めの袖で口覆いして言う。
戯れ言を言っている足元で紀貫之は、惟喬と遍昭が出て行けるように、
「と、――
有朋に言われて、立ち上がる女を、
「姫君は、
誰よりも
女は答えることはできなかった。
「――
「
紀貫之は、
内に桜の
「有朋。その
在原業平が声を上げる。
「何だって」
紀有朋は、うろたえるが、捕えた俺を離しはしない。
「
惟喬が業平に聞く。
「
業平が答える。
有朋の袖に
「歌を詠むな、有朋。
惟喬に言われて、有朋は心惑う
「離しなさい」
惟喬は繰り返す。
「
有朋の袖の内で俺は言ってやった。有朋が袖の内の俺を見下ろす。
「ほら、苦しがって、物語してるじゃないか(もごもご、言ってるじゃないか)」
「ちがう」
「奥に行け、有朋、春宮様を
うちつけに惟喬が叫んで、内から駆け出す、
俺には見える。――大きな鷹が翼を広げ、俺を狙って、低く
「おいで」
鷹は、惟喬の腕に止まりながらも、眼は
「すごーい。こんなの、みたことなーい」
「をぢぎみ(小父君)、あれ、さわりたい」
鶯歌は鷹を指差し、望行に言う。
「つつかれると、とても痛いよ」
「こわーい」
惟喬に言われて、鶯歌は望行に抱きつく。
「
有朋が言う。
鷹は、その鋭い爪で俺を掴み、鋭い
「皆、私を
惟喬は言いながら、鷹の胸を撫でる。鷹は、眼を俺から離さない。
「
鶯歌が、鋭い爪と
「あ、飛んで行っちゃった」
腕から鷹が飛び立ち、惟喬は声を上げる。
「あ~っ」
鶯歌は声を上げ、見上げる。
鷹は
「
山賤の男にも、惟喬がわざと腕から鷹を飛び立たせたことが分かったのだ。
「男」と言っても、背は、そびやかだが(すらりと高いが)、まだ十四歳。
甘い香りがした。
「
惟喬は走り寄り、
全子の名を聞き、女が内から走り出て、足を止める。
誰の
「えっ。傷を負っているのか。どこだ。」
山賤の男は、全子の顔を覗き込む。全子は上げた袖で覆った顔を、そむける。
「
全子は、
甘い香りに、
惟喬の手の甲に、血が伝っている。鷹の鋭い爪が、腕に巻き付けた墨染めの袖を
これほど甘い香りを放っているなら、どれほど甘い味がするのだろう。
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