六歌仙
「
「
紀貫之が十二歳で、初冠を急いだ
紀有常が死ねば、
紀氏は、鬼を静める才ある子が生まれず、才ある者は老いて死んでゆくばかりだ。
「そういえば、有常は、
「東下りを語り始めたら、ここから追い出すぞ、業平」
「
「五節の師がっ」
声を上げたのは、
遍昭も、忌むべき僧の身で、貫之の初冠の祝いの宴には出ていない。
惟喬が、すさまじき
「先に驚かれると、驚きづらいんだよね…」
「すみません……――
「子の
身を乗り出して遍昭が聞くと、望行は両袖を重ね合わせ、顔を覆う。
「
恥じて赤む顔で貫之は言う。
紀望行の
「五節の師」と呼ばれるのは、
「
「美しかったことだろうね」
言って惟喬は、遍昭の方を見る。
「
雲の
乙女の姿 しばし
紀貫之は見る。
天の風よ 雲の通り道を 吹き閉じておくれ
天女の姿を
この地に もう少し
「その歌はっ」
遍昭が
業平は、
「五節の舞姫だった君の母君に、遍昭が詠みかけた歌なのだよ」
「ちがう。詠みかけたのではない。
遍昭が
望行は、ますます重ね合わせた両袖で顔を覆う。
「母は、遍昭様と…」
「ないっ。」
「ないっ。」
歌を詠みかけたということは、母と遍昭が
「
騒ぎ
「はい…」
貫之は、惑う
遍昭は身を乗り出して、言い
「私は、もう
剃り上げた頭を、広げた手のひらで掴むようにして、言い継ぐ。
「この頭に、
今の
「
「『歌を詠め』とは、誰も言っていないぞ」
「あの歌は、
業平に言われて、遍昭は言い返す。
「五節の師に詠みかけたのではない」
「あなたの言うことは、いつも
遍昭に言われて、業平は言い返す。
「人を
惟喬は墨染めの袖で口覆いして、
仏の教えで、
「
惟喬にも、業平は言い返す。
「
「
惟喬は墨染めの衣で口覆いして、後ろめたい(心配する)眼差しで見やる。
「絵に描いた女になど、
遍昭に言い返されて、ますます惟喬は後ろめたい眼差しで見やる。
「と言うことは、噂通り、僧となっても、
「業平っ。お前が、あやなきこと(わけのわからないこと)を言うからっ」
遍昭は業平に向かって
業平は、
遍昭は長く
「
遍昭に言い返さず、業平は言い出す。
「
「わざわざ考えてやったんだから、何か言い返せっ」
「康秀って、今、
遍昭は
「この前、歌会で会いましたよ」
業平の答えに、惟喬は驚く。
「
「相変わらず、
「相変わらず
惟喬は苦笑する。
「騒ぐ」にかかる
業平は言い出す。
「文屋康秀は、
惟喬は物思う顔をして、思いついて、言い出す。
「
遍昭も物思う顔になる。
「
真済。紀氏の僧。――「喜撰」は、惟喬を喰おうとした鬼を封じるため、
「歌のことじゃなく、
「歌は。」
「私も、よく知らない」
業平に問われて、惟喬は言い閉じた(断言した)。
「この後、喜撰の
惟喬は、また物思う顔をして、思いついて、言い出す。
「
「どうして、ここで小町が出て来るのですかっ」
「思い出したから。」
小野小町。
業平が応える。
「小野小町は、
「歌のことではなく、小町自身のことを言っていないか…」
遍昭が言う。
遍昭は僧となってからも、小野小町と宿を共にし、歌を詠み交わしたことが、知れ渡っている。――
「
「私ですかっ」
惟喬が言い出して、望行は大慌てする。
「
「歌を、
在原業平が言う。
「
有朋は言いながら、通り過ぎて行った。
浮気な歌は、女に詠みかけたり、書き送ったりして、すぐに消えてしまうためだけに
「ふふふ」
業平は
「
誠実な者の所には、花薄の穂のように出て人目につくはずもない。
(令和訳・「有朋は、むっつりスケベだもんね」)
紀有朋の後に続いた
雪のように桜の積もった
紀貫之が、顔を上げ、眼差しを向ける。
眼差しの先、紀有朋が、
紀有朋は、弟・紀望行の方へ向かう。
有朋の背(背後)にいた、空の懸盤を持ち、顔を伏せた小さやかな
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