花と姫
「何か、叫んでいないか」
読んでいた経を止め、
「
望行は、霞の向こうを睨み、
「鬼だったのか――鬼じゃないよな――鬼じゃない鬼じゃない鬼じゃない」
自分で自分に言い聞かせているような望行を見て、遍昭は、貫之が鬼を静める助けになろうと、
霞の向こうでは、置き忘れられた桜の
片手に桜の一枝を持ち、もう一方の手で
けれど、姫も、
迷ったのだ。
霞に
けれど、惑いも怯えもなく紀貫之は、霞の向こうへ桜の木の間を、歩いて行く。
間もなく、
「無事だったか」
遍昭は
「遍昭様、
「少しは、鬼を静める助けになればと思って、
遍昭に聞かれて、貫之は小さく頭を振った。
「いいえ。鬼はいませんでした」
貫之は、父・望行の方を見た。
「父君のおっしゃる通り、鬼はいませんでした。咲き
「そうかそうか。
遍昭が貫之に言い、望行は笑いをこらえる。
「姫君がいらっしゃいました」
「姫君ぇっ」
望行が驚いて声を上げる。
「
貫之は慌てて、桜の一枝から顔を上げ、父に言う。
「お顔は見てはいません。ただ後ろ姿を見ただけです。一人ではなく、
また桜の一枝を見下ろす。
「花を
手に持つ桜の一枝を見下ろし、うなだれているような子を、父は
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