大宴会場『モールス』

第20話 はい来ました大宴会! これぞ異世界、私は勇者!

 「始まりの森ダンジョン攻略おめでとうございます!  さま! 御領ごりょう峯音みねねさま! 荒巻あらまき火憐かれんさま!」


 「うっわー! 本物のメイドさんだよ! うっわー! うっひょー!」


 「こら火憐。何にでも抱き着くくせやめんか」


 「……僕もそろそろ名前を付けようかな」


 荒巻火憐一行が大宴会場『モールス』に着いた時には、既に宴会の準備は整っていた。


 レッドカーペットの左右に並ぶメイドのお辞儀。来ることの出来た始まりの森ダンジョン攻略者、攻略OBOG。始まりの森攻略の主人公のうちの三人、『モノトーン』と御領峯音、荒巻火憐もその祝賀の中に入って行った。


 「うっわー! 見てよ見てよ! ターキーだよターキー! どっから採ってきたのこんな大きいの。ええっとナイフありますかー! 取りたいんですけどー」


 「こっちはサーモンや! 鮭や! 魚の中では鮭が一番美味いんや。え? 一人一匹もええんか? これは御馳走ごちそうやで」


 「……あったかいビーフシチューとフランスパンが僕にとっては一番の御馳走かもなあ。生もの僕苦手だしなあ」


 三人は思い思いにテーブルに乗せてある食料を自分の皿につぐと、三人固まってテーブルのある席に着いた。


 立食パーティーではない。歓迎される側にはちゃんと椅子が用意してあった。


 荒巻火憐がバイキング中に丸々一匹皿に乗せたロブスターを食べようとしていたところ、一人の青年らしき人物が近付いて来た。


 「『若き神』荒巻火憐! 僕も貴女のパーティに入れてください」


 「パーティは今やっている最中じゃないか。みんなで楽しもうよ。でね峯音ちゃん」


 「冒険のほうのパーティです。どうか僕も荒巻火憐さまのパーティに入れてください。始まりの森をクリアしたけれど、僕はもう一人なんです。どうにか一緒に旅をしていける仲間を探していまして」


 「私たち『鑑定』のスキル持ってないから君が何のスキルを持っているかも何も分からないんだ。ごめんね。でね峯音ちゃん」


 「すみません。僕のスキル名は Baking Hearts です! 炎を使って攻撃します。僕はやり使いです」


 「あー勇敢な心か。強そうなスキルだねえ。でね峯音ちゃん。ロブスターにじゃんけんで勝つにはどうしたら良いと思う。グーを出せばいいって最初は思うかもしれないけれど、グーを出す必要も無いんだよ。掛け声で『最初はグー』って宣言したらロブスターはチョキしか出せないからロブスターは反則負けするんだよ。ロブスターに対しては勝負することなくじゃんけんでは勝てる。ロブスターはじゃんけんというゲームのプレイヤーになることがまず出来ないんだよ。可哀想だよねロブスターは」


 「……僕が聞こうか。まず名前を言わないと。名前の無い僕が言うのもあれだけど」


 「貴方は『モノトーン』さん! 『火憐のモノ』で有名な『モノトーン』さんじゃないですか」


 「……いや、その悪ノリなんで有名なの。クゥさん以外から聞いたの初めてなんだけど。今、知らない人から聞いて心臓が飛び出そうになったよ。もしかしてそれ僕の二つ名とかで広まってるとかないよね。無いって言ってくれ。名前も知らない君だけど」


 「名前ですねえ。本名はデイリージョーンズですね。ただ相棒が付けてくれたニックネームは虎哲こてつでしたけれども。スキルと合わせて炎城ほむらぎ虎哲こてつって呼ばれてました。虎哲がいいですかね。それかジョーンズ」


 「……ジョンさんのスキルは見せてもらってもいいのかな。本当に仲間に入りたいならばそれくらいは」


 「もちろんですとも。これが僕のステータスです」


☆☆☆

 Dailly Jhones:Lv588 

 称号:『炎上の槍使い』

 スキル:『Baking Hearts』

 サブスキル:『年齢不詳アンチエイジング

 魔法:1032

 攻撃:332

 防御:112

☆☆☆


 「……うーん。よくこのレベルで始まりの森をクリア出来ましたね。一万回の討伐とかどうだったのですか。本当にやったのですか」


 「効率良くゴブリンSだけを狙って……。それが始まりの森のボス戦への条件クリアの最速の方法では」


 「……レベルだけ見ても実は火憐はもう既に六千を超えているんだよね」


 「流石は『若き神』。言葉のごとくレベルが違いますね。しかしながら僕も負けない唯一の特徴を持ってはいるのです。スキルとかは関係ないのですが身体能力で。僕は物凄く眼が良いのです。眼の中でも動体視力なのですけれども」


 「……だよね。何かしらの特徴が無いとボスには勝てないだろうし。ところでその『若き神』って何。僕も初耳なんだけど。っていうか言ってい良いの、火憐の前で」


 「知りませんか。DfGっていう動画」


 「……ごめん僕はスマホを持っていないんだ。流行りとか分からなくて」


 「みねやまちゃんねるに三日前ほどにアップロードされた動画なのですが。え。何で上げた貴方たちが知らないのですか」


 「……上げてないよ」


 「見てくださいよ。DfG──『Dance from God』」


 「……ふーん、え。あれ。火憐じゃん。あれ。光ってる頃の火憐じゃん。あれれ。何これ」


 「私にも見せてちょ」火憐が横から入ってきた。


 火憐は見ちゃいけないのじゃないの。


 「えー。あーれー。私じゃん。私が光ってるじゃん。うーわー。超笑顔。目から小さな炎がめらめらと出ているし。うわ。他人から見たらこんななってたの私は。うわ。『C'mon-Tornカモントーン』だって。勢いで言ってたけどちゃんと『モノトーン』って呪文が通ってたね良かった良かった。っておい。何だこの動画は」


 「火憐さまが撮らせた動画ではないのですか」


 「火憐さまって言うのをやめなさい。荒巻さんでいいから。撮ってないよこんなの」


 「……クゥさんが。いや、まさか。しかもあの距離だったし撮れるわけが」


 「なんや。うーわー。あらら。火憐の『世界はそれでも終わらない』モードやんけ。誰が撮ったん。『Dance from God』って。火憐のこと神と誤解する奴増えるんちゃう? というか火憐、これ見ちゃ駄目やで」


 「何でさ峯音ちゃん」


 「ショックとか受けない?」


 「私も再生回数に貢献できて非常に光栄に思えますね」


 「貴女がた三人とも誰もこの動画を撮っていないのですか」


 『モノトーン』、御領峯音、荒巻火憐。三人とも同時にうなずいた。


 「おかしいですねえ。世界は『Dance from God』──通称DfGでもりに盛り上がっているのですが」


 「盛り上がってる? 何でや。火憐は現世ではシャドバンされとるんやで」


 「え? そうだったの。火憐ショックです」


 「そうですよ。火憐ショック──ちまたでは God Shock 。日本では火憐ショックとそのまま言われていますが、この動画が Tube 全体に衝撃を与えています。新たな神の参上だと、惨状だと言う声で溢れかえっています」


 「……情報統制は」


 「誰が言いだしたのかは分かりませんが。民衆ですかね。民衆が集団で『国が情報操作するのを止めろ』ってデモ行進が起きまして。法律上の問題でも、個人情報保護法や表現の自由などで引っ掛かるのではないかと反発がおきまして。国が情報統制が出来ない状態が何故か続いているというか、始まってしまったのですよ」


 「……国は無視して情報統制していれば良かったろうに」


 「それが無視できないことが起きまして。なぜかNKTなどのサーバーがことごとくエラーが起きたとか起きないとか。都市伝説レベルの話なのですが、なぜか情報統制が上手くいかなくなってしまったらしいのです。


 特に荒巻火憐の『世界はそれでも終わらない』でしたっけ。『Dance from God』は世界に衝撃を与え続けて再生回数も三日で五千万を超えました」


 「……今僕たち、小型ドローンでお遊び感覚でライブ配信しているのだけれど、もしかして物凄い人達に今の食事の風景とか見られているのかな。うわ。うわ。僕うつってる。うわ。三十二万人が視聴中? うわ。三十二万人に見られてるのか。うわ。火憐と峯音から離れて魂にでもなって消えようかな。ビーフシチューしか食べてないのに吐き気がしてきた」


 「私が有名になるのは一向に構わないけれどさ。近付く人も増えちゃうね。ジョンさんみたいに。さてさてどうしようか」


 「荒巻さん。荒巻火憐さん。僕と勝負してください。僕が勝ったらパーティに入れてください。僕自信があります」


 「やめときなよ。せっかく若いんだからもうちょっと異世界を楽しんだらいいのに。わざわざ私に勝負を挑む必要性なんて無いだよ。DfG見たら分かるでしょ。私に勝てそうにないのを」


 『Dance from God』では『英雄』が荒巻火憐に串刺くしざしにされているシーンが映っていた。なぜこのような血の流れる動画が Tube で配信停止にならないのかは、全くの謎だった。


 「この動画を観て思ったのですよ荒巻火憐さん。僕なら貴女に勝てますよ」


 「なら勝負しようか。殺し合いにならないように注意したほうがいいよ」


 「殺さず勝てば僕は仲間に」


 「はいれましょう」


 荒巻火憐は手を腰に置いてにっこりとデイリー・ジョーンズに向けて笑みを浮かべた。


 何も知らない天女てんにょのように。

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