第21話 この世は金金金。嫌な世の中ですなあ。

 「何!? パーティーのお茶代が三万円!? 聞いてないんだけど!? 新人さんをもてなすパーティーというのはサクラだったか。私は外に出ますね。な!? 何をする! は、放せや! 放せや! うわわああああん! あんまりだ! 未成年への恐喝だ! ぼったくりだ! 私このままじゃ一生大宴会場から出られないよ! うわわああああん!」


 「か、火憐。確か二万持っとったから一万円貸すから。そう泣かんといてや」


 「ママの教えその一『借金はしてはいけない』。だから立て替えて貰えれば嬉しいなあと」


 「このメスガキ……」と御領ごりょう峯音みねねは言いかけたが、特に自分が言えた身分でも無かったので言うのを躊躇った。


 御領峯音だって十七歳の未成年だ。


 「『モノトーン』持っとるんちゃうん?」


 「……火憐を甘えさせたらいけないと思うんだよなあ」


 「何? 何で『モノトーン』が仕切っているの。お金を持っているやつは強いのか。うわ。ちょっと笑ってるじゃん。いや。にやけているよ。勝ち組の顔をしている。うわあああああ! あんまりだ! 『モノトーン』まであんまりだ! 誰か助けてくれえ!」


 「未成年と仰いましたか」


 「何? 何ですかジョンさん」


 「ちなみにお年はおいくつくらいで」


 「十一歳だよ。てか動画のファンなら私の年齢くらい知っているでしょう。ちゃんと言っているよ動画の中で」


 「どうやって異世界へ転移されたのですか」


 「三万円立て替えてくれるなら話しても良いけれど」


 「あかん! 火憐! 貧乏に嫌気がさしてプライドが安すぎる! 三万円で自分の過去を売るんじゃない!」


 「……でも火憐も楽しんでいたしなあ。三十万円もそのうち入ってくるしなあ。一万円を借金するくらいは人生の教訓として持っておくものだと思うけれどなあ。わはは」


 「最後とうとう笑い声が出とるで『モノトーン』」


 「三万円くらいならば立て替えましょうか。カードもありますし」


 「ああ。いやいや。これはうちらの問題でして。ええ。大宴会場に三万円の費用が必要だとは聞いておらんかったもんで。へい。宴会場に入る前に百五十万円する小型ドローンとか無計画に買ってしまったもので。いや。うちらはちゃんと全員分払えるお金は持ってはいるので。その。火憐が極端に貧乏なだけでありまして。極貧パーティとかでは無いんですよ。恥ずかしながら」


 「ちなみに貴女はおいくつで」


 「十七歳です。高校生やっていました」


 「あの少年はおいくつで」


 「……僕の年齢は記憶にございません」


 「全員恐らく未成年……。いやはやあの火憐さんの動画を観て若いなあと思っていましたが、想像していたよりもずっとお若いですねえ。十一歳ですか」


 「お金を……」


 「火憐!」


 「……わははははははああああああああ」


 「『モノトーン』! お前まで狂うな! 笑いこけるな! 資本家が見下しとるようにしか見えんで!」


 「貴女が団長みたいですね。このパーティの」


 「いや、名目上は荒巻あらまき火憐かれんのはずなんですけれどね。いかんせんまだまだ子供……私が言えた義理ではありませんが」


 「本当に立て替えましょうか。荒巻火憐への挑戦権として」


 「あら。それなら良いじゃない。ほら。私がガキだって感じが無くなるじゃないですか。ほら。ちゃんとした取引。ジョンさんありがとう! じゃなくて、しっかりお受けしました。お受け、OK。アメリカだけに」


 荒巻火憐はデイリー・ジョーンズに三万円丸ごと立て替えてもらって、大宴会場『モールス』を出ることが出来た。四人共に『モールス』を出た。


 『モノトーン』は前を歩く女子二人から少し距離を取ってジョンに話し掛けた。


 「……もしもしジョンさん」


 「何ですか少年。私も『モノトーン』さんと呼んでも良いのでしょうか」


 「……少年でも良い気がします。何歳なのか自分でも分かりませんし。それよりも先程立て替えてもらったお礼。五万円を送金します」


 「二万円は一体何のおつもりで」


 「……火憐を静めてもらったお礼です。僕があの時立て替えたら火憐は一生僕から離れられなくなるでしょうから。ちゃんとした理由を以て火憐に恵んでくれたのは感謝しています」


 「あの娘はまだ十一歳でしょう。本来ならばまだ親に色々と手伝ってもらう年齢でしょうに。まだ中学生にもなっていないと言うのに」


 「……神さまですからねえ。神のスキルを持つ少女ですからねえ。もう最初から普通じゃないんですよ。だから年齢も関係なく厳しいこの異世界に葬られたんじゃないかって思うんですよね。思ってるだけですよ。実は僕も峯音も火憐の過去についてはまだ全く知らないんですよ。


 火憐の本当の姿をまだ知らないような気がしてならないんですよ。僕は。多分、峯音も」


 「どうして十一歳で異世界に来れたかももちろん知らないで」


 「……はい。でも出来るなら知りたくないような気がしますね。神のスキルを持つことに興味を示すのは他人がやることであって、命を懸け合う仲間同士で詮索することじゃないとは思うんです。火憐は火憐のままで。僕らに出来ることは何でもかんでも知り合うのではなくて、今のお互いの姿を認め合って、支え合うことこそパーティが仲間たる所以ゆえんだと思ってはいるのです」


 「今を楽しむパーティですか。三人なのにしっかりしていますね。いや、少数だからお互いの気持ちを尊重する雰囲気が保たれるのか。未成年だからと言って舐めてはいけませんねこのパーティは」


 「……だって神さまが団長ですから」


 「明日が楽しみです」


 「……こう言っては何ですけれどもくれぐれも火憐を殺さないでくださいね。うっかりでも駄目です。もしかしたら『サイクス』が消えてしまうかもしれない。ああ。言い忘れていましたが。火憐が言い忘れていましたが、殺しかけてもいけませんよ。本気の殺意は持たないでください。御領峯音のスキルで貴方が死んでしまう」


 「御領!? 御領!」


 「……僕だけ凡人なんですよ。このパーティは。僕くらいですよ。ちゃんと冷静に相手に説明してあげられるのは。これでも挑みますか? 結構危ない戦いになりそうですけれども」


 「挑まないとどっちにしようと僕は死んでしまいますからねえ。僕は死ぬのが嫌と言うよりも、僕のスキルが消滅したら異世界にとっても損失になるんじゃないかと思うんですよね。せっかく『Baking Hearts』って言う良いスキル貰ったと言うのに。ここで死んだら神に失礼な気がしてなりませんよ。神に挑戦するわけなんですけれども。


 覚悟を持って臨まないといけませんねえ。前を行く彼女たちには覚悟の心は必要なさそうですが。僕くらいの人間では」


 「……頑張ってください。応援していますよ。男仲間が一人でも増えたら嬉しいですから」


 「私は素直に応援の言葉として受け取りますよ。ポジティブなので。一般的なアメリカ人そのものなので」


 「……頑張ってください」


 中秋の名月。夏は終わり深まる秋。明るい夜中を少女二人は談笑しながら歩いていく。少年と青年はそんな二人を見ながら、月夜の光に照らされる神々しさは、そのうち二人が神になるのに相応しい情景だと感じていた。


 静かに鈴虫の声が鳴っていた。




 

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