雑貨屋『ルークス』

第19話 異世界に転移してお金に困るなんて思わないじゃない? お金とか関係なく夢を叶えるのが異性界チートってものじゃないの? 聞いてるの運営さん?

 ふらふらと歩きながら荒巻火憐はふと言った。


 「宴会場に行く前にさ、アイテム屋さんに寄って行かない?」


 「どうした急に」


 「だってさ、大宴会ってこれから何回もあるイベントじゃなくない。だから大宴会の様子を配信したら再生回数はめちゃくちゃ取れると思うんだ」


 「それは……」御領ごりょう峯音みねねは返事に困った。


 情報統制されてるから稼ぐのはもう無理やで、と本音を言っても良いのだろうか。


 誰が幸せになるねんな。そんなことを言って。


 「ええね。行ってみようか」


☆☆☆

☆☆☆


 アイテム雑貨屋『ルークス』。


 「いらっしゃいませ。お好きなものをお選びください」


 「あの。動画配信用のドローンとか売ってありますかね」


 「もちろんありますよ。最近は動画配信される方が増えてきましたからね」


 案内されるわけでもなく、ただお姉さんの目の前にポンっと商品が現れた。


 「こちらは無音小型配信用ドローンになります。性能はオートで良いカメラアングルと思われる位置にAIが判断して飛んで行きます」


 「おーすごいすごい。でおいくらでしょうか」


 「一万ドルになります」


 「おー一万ドルね。え。ドル」


 「モ、『モノトーン』はこういうドローンとか作れんの?」


 「……ごめんけれど数分で壊れると思う。自分の身から離れたら特に。本当にすぐに」


 「一万ドルですかー。レートでどれくらいの円で買えますかね」


 「百五十四万……今変わりまして百五十三万八千三百二十四円です」


 「レバレッジ取引とか出来ませんかね」


 「何のお話でしょうか」


 「あーすいません。この常識とか全く無いもので。……ちょい、三人とも作戦会議や」


 配信用ドローンを買うための作戦会議が始まった。


 「百五十万って何なの。洒落にならない金額じゃん。めちゃくちゃリアルな金額じゃん。何これ。異世界に夢を持って来た人を奈落に突き落とすような金額じゃん。こういうアイテムって軽く手に入れられるのが異世界の良いところじゃないの。『英雄』さんとか色々持ってたよ。何さ百五十万って」


 「……僕たちの手持ちを見せ合おう」


 「そういえばさ。始まりの森をクリアしたんだし何か報酬金とか無いの。流石にあるでしょ」


 「……一人あたり三十万円だね」


 「安っす! はあ! 運営馬鹿にしてんのか! 現実と変わらないじゃないか。むしろ現実のボーナスのほうがよっぽど貰えるよ。何なのさ。何なのさこのクソゲーは!」


 「……最近は金策にも手を掛けているゲームも多いから」


 「なんで『モノトーン』が知ってるのさ」


 「……ただの予想だよ。お金のりが楽しいって人もたくさんいるだろうからね」


 「はあ。じゃあ、三人で九十万か」


 「……それが四日経ったけれどまだ振り込まれていないんだ」


 「はあ! 運営何やってんだ! マジでクソゲーじゃないですか! というかコンプライアンス違反ですよ。契約した金はちゃんと払え馬鹿運営! 何やってんだよ。え。じゃあ何。私たちの手持ちのお金はゴブリンSMLを倒した金額くらいしか持ってないの」


 「……ゴブリンS、M、L。それぞれに倒した金額は、一円、二円、三円だね」


 「クソゲーがあ!」


 「……みねやまちゃんねるしか当ては無いね」


 はっと御領峯音は顔を上げた。ずっと下を向いて考えこんでした。


 「せやな。『英雄』さんが火憐たちに初めて旅団で来た動画が結構バズったからな。それが一ヶ月前でようやく振り込まれたらしくて六十万くらいか」


 「……だいぶ凄いな。一つの動画で六十万か」


 「私の瞬間移動ホームランゲームとかどうだったの」


 「いや、あれはもうちょい振り込まれるまでに時間は掛かるし」


 「……それに全然バズって無いんだよな。かれんちゃんねるからみねやまちゃんねるに引っ越してから。どの動画も」


 「えー。じゃあこれからもあんまり採算取れないのかなあ」


 あーっと頭を抱える三人達。頭を抱えながら荒巻火憐は一言こう言った。「クゥさん」


 「なんや」


 「お金を貸してください師匠」


 「いやや」


 「そう簡単に否定せんでもよかろうに」


 「オレの口真似をするな。いややというかオレも本当に金は無いんや」


 「それなら力尽くで。おりゃー。こちょこちょこちょこちょ。財布を落とせこの紫烏色しういろの猫」


 「な、何すんねん。あ。あ。あかん。落ちる」


 財布がぼとんと落ちた。どこから落ちたかはよく分からない。空間からぼとんと落ちてきた。


 「ちょいっと借りまーす。どれどれ」


 財布の中には一万円札が三枚。


 マジかこの猫。


 「だから言ったやろ。オレとて金欠なんや。というか、『アイーダ』の財布は別のやつが握っとるんや。オレはお小遣い制でひいひい言いながら暮らしとるんやで」


 「大人にはなりたくないものだねえ」


 三人と一匹の会議の中では「もう配信用小型ドローンを買うのは無理じゃない」という空気が漂っていた。


 どう足掻あがいてもお金が無い。


 お金が無い時はお金はない。


 「私の『望んだ世界』の力を示すときが来たようだ。幸運ラックスキル、『望んだ世界』! 私は億万長者になりたいんだー! お金よ増えろ! ……増えないよねえ! 分かってた!」


 終わった。茶番も終了か。


 「……実はね僕、お金は持ってるんだ」


 「早く言わんかい。幸運系スキルを軽々しく使うところだったじゃないか」


 「……でもね。僕が全額払うのは嫌なんだ。火憐も峯音も出せる分だけで良いからお金を出し合おうよ。峯音は六十万だね。その額の半額は出してほしいな。火憐はいくらくらい持ってるの」


 「リアルに五万円」


 「オレのこと言えた口ちゃうやんけ」


 「……じゃあ、火憐は三万円は出してほしいな。元々は火憐が配信用ドローンが欲しいと言い出したんだし」


 「六十パーセント取られるわけですか。いや良いんですよ。私が欲しいと言い出したのは確かですし。良いんですよ良いんですよ。ところで『モノトーン』さんは残りの……ええ、百五十万引く三十三万は……百十七万円か。百十七万は出せるのでしょうか」


 「……良いよ。取りあえずみんなお金を僕に渡して。送金ボタンで僕に渡せるから。数人で分割してアイテムを買うのはちょっと面倒らしいから」


 峯音から三十万円。火憐から三万円が送られてきた。


 入金を確認してゆったりと店員さんの下へと『モノトーン』は歩いて行った。


 「……この無音小型配信用ドローンをください」


 「一万ドルになります」


 アイテム屋の店員さんの前で右手をかざす。


 「確かに。一万ドルを確認しました。お買い上げありがとうございます。良い旅を」


 「あっさり買っちゃったよ。『モノトーン』どっからお金出てんの?」


 「ウチらに無申告は禁止やで」


 「ああ。言わんで良い。『モノトーン』、分かった。そうやな。お前流石や」


 「実はこっそり投資とかしてたんか」


 「あほな娘さん二人はほっといて。ちょっと『モノトーン』、耳を拝借」


☆☆☆

☆☆☆


 「なるほどなあ。『モノトーン』。お前は最弱だから微生物とかも倒した数に入るんやな。それで、報酬金として手に入る最低のお金が一円。その一円のお金を息を吸うたびに貰っとるようなもんなんやな」


 「……実はもう勝手に五千万は超えている」


 「『モノトーン』。気を付けてや。この世界は火憐も言いよったけれど、何かとこの世界、お金はリアルな物価になっとる。特に税金とかちゃんと払わんと知らん間に痛いことなるんや。そこだけはしっかりしいな。二人の少女の大黒柱は『モノトーン』や」


 「……税金は世界で生きるためのプレイ料金だよ。ちゃんと払うし申告もするさ。貯金の大切さも僕は知っている。こんな不安定な世界で何だかんだ物を言うのはお金の時がありそうだからね」


 「二人の少女を裏方でしっかりと守るんやで。『モノトーン』」


 

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