第6話 月島の思惑
体育館の中。
俺は剣道の胴着を着用し、静かに竹刀を持つ。
深呼吸をして目をつむる。
そして、目を見開き、相手の隙をついて一本を取る。
俺の県大会優勝が決まった瞬間だった。
団体戦でも好成績を残し、昇段試験も無事に突破した。
自分の実力がどれほどのものかいまだによくわからないところがあるものの、まぁかなりの実力者になったはずである。
江島の方は残念ながら県大会の予選で敗退してしまったらしい。
江島は少し落ち込んでいた。
なんでも練習をおろそかにしていたチームメンバーのせいで足を引っ張られ、思うように実力を出せなかったのだとか。
俺のやっている高校の剣道部ではそれなりにやる気がある奴らが集まっていた。
俺は刀を使う有名なキャラクターに憧れて初めて、結構筋が良かったのでそれでのめり込んで今に至るというわけ。
中間テストも終わり、全国統一テストも無事終了した。
自分の中ではかなり手ごたえがあった方だと思う。
そうして迎えた夏休み前の最後の登校日。
俺は勉強と部活の疲れもあってどこかボーッとすることが増えていた。
「佐伯」
モブ男子学生から声がかかる。
俺が返事すると、誰か女子学生が俺のことを呼んでいるらしい。
「一体誰が俺に?」
そんな当然の疑問をスルーして教室前に移動するとそこにいたのは月島だった。
「月島?」
「う、うん」
「どうした、俺になんかようか?」
「あのね、生徒会の用事で人手が足りないから手伝ってほしいの」
「なんで俺なんだ?一年の他の奴らに頼めばいいだろう」
「あの…………」
しどろもどろになっているところを見るにこいつ、かなり人望がないらしいな。
俺は溜息を一つ吐く。
「放課後少しだけだぞ」
「あ…………うん、わかった。資料を運んだり、生徒会活動用のパンフレットを作るのにちょっと手伝ってもらうだけだから」
「ふぅん」
なんか嬉しそうだな。
面倒ごとを押し付けられる相手がいるのはさぞかし気分がいいだろう。
なんか釈然としないな。
まぁ惚れた女の頼みだ。
一度くらいなら別に人助けだし、別にいいだろう。
放課後、俺は月島に言われた通りの場所にいって、資料を運んだ。
紙の資料と、本の冊子の資料、後以前作られた生徒会のパンフレットとか画用紙を持って俺は指定された場所に運ぶ。
その後、簡単なイラストを描いたりしながら月島と一緒に作業をする。
なぜかはわからないが、俺のほかに生徒会のメンバーはおらず、俺と月島の二人だけ。
まぁ少し違和感は感じるが、気のせいだろう。
その後、俺は反省会をする江島をよそに一人で帰ることにした。
—————はずだったのだが。
「なんで、お前、ついてきているんだ月島」
「いいでしょ、別に、お礼よお礼」
「お礼ねぇ」
「そ。一年の中でも特に人気の高い女子である私と帰れるなんて誇っていいんだから」
「それ自分で言うか?」
「…………むぅ」
「なんだ、怒ったのか?」
「別に」
そういってそっぽを向く月島。
女心と秋の空というか、よくわからない奴だ。
「…………てっきり動揺したり、もっと慌てふためくものだと思ったのに」
「なんで?」
「だって……!」
「だって?」
「だって、あなた、私に告白したんでしょう!?」
「お、おう」
急に距離をつめてくる月島。
近い、近いって。
「男子なんて告白したらなかなか立ち直れないって聞いたし、それに……私からアプローチをかけているんだから何か反応があってしかるべきでしょう」
めんどくさい女だな。
「…………今私のことめんどくさい女だと思ったでしょう」
「正直な」
「まぁいいわ、部活…………優勝おめでとう」
「おう」
「その…………かっこよかったわ」
「え?」
「なんでもない!」
その後、俺たち二人は無言で歩く。
「あんた、私のどこに惚れたのよ」
「うーん、なんか凛々しくて強いところ」
「そうかしら」
「今は別にそうは思わないな、いろいろと不器用だし」
「わ……悪かったわね」
「別にそういう一面もあるんだなと思って一緒に帰れてよかったよ」
「そ……そう…………あ、あのさ!」
「うん?」
「また、生徒会の活動、手伝ってくれる?」
なんで上目遣いで若干泣きそうになりながら俺の反応を伺う月島。
そんな顔もできたんだなと俺は感心した。
「まぁ、気が向いたらな」
そういって月明りに消えた月島をみて俺はつぶやく。
「ちょっと未練がましいな」
そうして俺達の夏休みが始まる。
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