第2話 【序章 2】

 いきなり、ばたんと椅子を倒して、濃い紫色の服の男性が立った。

「こんな調子で、何がまとまる? もはや問答無用だ」

 立った男性はこう叫びながら何かを投げつけた。

「うっ」

 濃く鮮やかな赤紫色の服の男性が、椅子に座ったまま後ろに倒れて、落ちた。腹に、小刀が深く刺さっている。

「何という事だ」

 倒れた人から目を逸らさずに、濃く鮮やかな橙色の服の男性が言って立った。

 それとほぼ同時に立った、淡い赤紫色の服の男性が、何かを投げた。

 それは、掌より長い針だ。数本の針が、濃く鮮やかな橙色の服の男性の腕に刺さる。悲鳴を上げて、この男性も倒れた。

 議員達は響めいた。

「やってられるか」

 桜色の服の男性が叫んだ。どこからいつ取り出したのか、小刀を握っている。切っ先が黒く濡れた小刀を、放った。

 その的はリコーテだ。リコーテは座すまま、その小刀を避けた。

「やはりお前の企みか」

 黄土色の服の男性が言って、濃い桃色の服の男性と共に立って、椅子と机を蹴った。

 その途端、他の議員達も全員が立ち上がった。

 始まったのは、凶器の舞であった。

 あちらもこちらも、人は小刀や大きな針を袖や裾や襟から現せては、人に向かって放つ。大会議室の中を動き、備品や筆記用具が蹴散らされる。

 止める者は、いない。ここはもはや戦場だった。

 また1人、倒れた。淡い若草色の服の男性だ。

 ガラス壁の方を、リコーテは移動していた。彼を、2人の中年男性が追う。

「してやったな、リコーテ」

 追う人の1人、濃い桃色の服の男性が言って小刀を投げた。間一髪、リコーテは避ける。

「謀りおったな、リコーテ」

 もう一方の、黄土色の服の男性が言って小刀を投げた。これもリコーテは身を翻して逃れた。

 その間にも、1人、また1人、と議員等はたおれていく。

 シルギは、壁伝いに移動し、濃い茶色の巨大な扉まで来た。その扉には、取っ手が無い。――この扉は、内側からは開かないのだ。

「誰か」

 扉の隙間に、小声で呼びかけるも、返事も反応も、その扉の向こうからは無かった。

 小刀と針が同時に飛んできて、シルギは扉から離れざるを得なかった。

 絶えずリコーテは、狙われ続けている。しかし、彼は何も持たず、投げていない。

 同様に、シルギも武器を出してはいない。

 既に10人以上の議員が床に倒れている。殺し合いは、まだ続く。

 リコーテが、シルギを見た。シルギも、同じ瞬間に、リコーテを見た。

 その時、リコーテが袖から何かを取り出した。――針だ。リコーテはその針2本を、シルギに向けて放った。

 針はシルギの喉に刺さった。シルギが、うつ伏せに倒れる。

「シルギ」

 と叫んだ、淡い橙色の服の男性は、背に小刀を受け、倒れた。

 シルギが、上半身だけを起こした。袖から手に、針を滑らせて出した。シルギは針1本を、リコーテに放った。

 その針はリコーテの腕に刺さった。だが、リコーテはよろけるものの、まだ立っている。もう一方の腕から針を出し、別の男性に対して投げた。

 シルギはもう1度身を起こし、再度針を放った。

 それもリコーテの腕に刺さった。リコーテはがくっと崩れ、仰向けに倒れた。

 さらに数人が倒れて、立っている者は2人だけとなった。淡い水色の服の若い男性と、渋い橙色の服の中年男性だ。

 この2人の目が合う。

「フュリウ、覚悟!」

 渋い橙色の服の男性が叫んで、小刀を投げた。

 ほぼ同時に、淡い水色の服の男性も小刀を投げていた。が、飛んできた小刀を避け切れず、腹に受けて、倒れた。

「ううっ」

 もう1人も、小刀が胸に刺さって、ばたりと倒れた。

 もう、誰も立ってはいない。

 そのまま、暫し時が過ぎた。

 北側から、がちゃんと音がした。と同時に、あの巨大な扉が一気に内側に開いた。

 慌てたように、1人の女性が飛び込んできた。手に、沢山の鍵を通した環を握っている。

 女性は、ノースリーブの生成色きなりいろのドレスを着て、足は布靴で包んでいる。

「ああっ!」

 女性は、眼前の光景に多大な衝撃を受けた。

 30人の人は、全員が倒れている。椅子と机と書類が散乱している。板張りの白い床は、所々に血が飛んでいる。

「そんな……まさか……」

 その女性は石の如く硬直した。

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