23th Dead 『死をも超える肉体と、託された使命』
俺の名は、北川ナガレ。
――≪時間がねぇから巻きで行くぞ。
まず北川ナガレ……
今のオメーは所謂"ゾンビ"っつーか"リビングデッド"っつーか、
要するに死して尚動き回る屍のバケモンと思ってくれりゃいい≫――
『肉が削げて骨さえ見えても痛み一つ感じないのはそのせいか』
脳内に響く謎の声の主"エクスプレイナー"こと通称"エックス"の話に耳を傾ける、元サラリーマンのリビングデッドだ。
――≪ああそうだ。痛覚はほぼないもんと思え。
あと死体なんで体温も低めだぞ≫――
『神経が機能してないってことか?』
――≪そこまでじゃねーし、痛覚も完全に消えちゃいねえよ≫――
エックスは俺に、リビングデッドの身体について詳しく教えてくれた。
曰く、痛みや温度を感じる神経が鈍っていたりと若干の身体機能は落ちていて、見た目も世辞にも美しいとは言えないくらい崩れてしまっているらしい。
筋力なんかは生前より格段に上がっていて身体の頑丈さも桁違いだが、その分機動力や柔軟性は落ちてしまっているとのことだ。
『……すごいなエックス。本当に詳しいんだな、リビングデッドのこと』
――≪そらそうよ。何せお前をその姿にしたのは外ならぬ俺だからよ。
まあ、システムまで作ったわけじゃねーが……
それでも幾らかは詳しいんでな、
気になることがありゃ気軽に聞いてくれ≫――
『気になること、か。じゃあ聞いてもいいか、エックス』
気前よく陽気に振る舞うエックスに、俺はずっと気になっていた疑問を投げかける。
『あんた、なぜ俺をリビングデッドとして蘇らせたんだ?
なぜそこまで俺に良くしてくれる?
死人を蘇らせるなんて並大抵のことじゃないなら、ただの慈善事業ってわけじゃないんだろう?』
――≪察しが良くて助かるぜ。
……ああ、そうだともよ北川ナガレ。
俺がオメーを蘇らせてゾンビ化させたのは、単にお前を助けたかったとかそういう理由じゃねぇ。
お前にやってもらいてえことがあるからだ≫――
『やって貰いたいこと? なんだ、伝説の剣で大魔王を倒せとかそんな感じか?』
完全に冗談で言ったつもりだった。
エックスはきっと直後に『バカ言え、そんなワケねーだろ』とでも返してくるだろうと、そのぐらいにしか思っていなかった。
だが……
――≪またまた察しがいいじゃねーか、"
なんだよオメー、ガキの時分に鑑識か探偵でも目指してたクチかぁ?≫――
待ち受けていたのは、余りに予想外の展開だった。
『冗談のつもりだったんだがな……
それと、俺の幼い頃の夢は"稼いで金貯めて世界旅行"だったぞ。
もっと言うと推理とかはそんなに得意ってほどでもなくてな』
――≪なんでぇその微妙に現実的でなんか年寄り臭えよーな夢は。
子供つったらもっとロマンとか追い求めたりするだろ普通は。
……まあいいや。今はオメーにやって貰いてえこと……任せてえ案件の話だ≫――
『ああ、「伝説の剣で大魔王を倒せ」ってか?』
――≪大まかにはそんなトコだ。
より厳密には『一連の化け物騒動を解決しろ』てカンジだが≫――
『化け物騒動?』
――≪そうだ。
時に北川ナガレよ。ちっと嫌な話をするようで恐縮だがオメー、てめえが一旦死ぬまでの出来事は覚えてるな?≫――
『ああ、忘れようもないぜあんな惨劇。
……あの化け物ども、俺はともかくとしてよくもマナミを……絶対ェ許さねぇっ……!』
俺は怒りに震えた。
奴らさえいなければ彼女はあんなことになんてならず、きっと幸せに生涯を全うできた筈なのに。
――≪"俺はともかくとして"って何だよ、そこはてめえ自身殺された件にも怒れよ。
多分だけど立場逆だったら十中八九マナミちゃんもキレてんぞ?
……まあいいや。ともかくあの件を覚えてて、連中への憎しみもしっかりあるってんなら好都合だ。
選考に選考を重ねてお前を選び抜いた甲斐があるってもんよ≫――
『そりゃどうも。で、具体的な仕事の内容は?』
――≪態々説明するまでもなくお察しだろーが、奴ら……オメーとオメーの婚約者をブチ殺した劣等ゾンビどもの駆除と、可能なら裏に潜む黒幕の始末だ。
あの劣等ゾンビども……俺らの間じゃ"
ありゃつい先月中頃にベネズエラで沸いて以来あちこちで被害が相次いでてなァ≫――
『具体的には?』
――≪パプアニューギニアに南アフリカ、アフガニスタンやホンジュラス、メキシコ、ブラジルにコロンビア、グアテマラにジャマイカ、エルサルバドル、アメリカ……≫――
『治安の悪い国ばっかりだな』
――≪ほんとにな。で、それが広がりに広がって、今となっちゃ目撃情報のない国を探すのが難しいぐらいになってやがる。
原因が何であるにせよ、奴ら……"
そんでその為の切り札こそ"
つまり死を乗り越えリビングデッドになったオメーってワケだ≫――
『エクシーデッド……中々いい響きじゃないか、気に入ったよ。
ともあれ俺にとっても奴らはマナミの仇だ、慈悲なんてかけてやるつもりはない』
――≪その意気だぜ北川ナガレ。
基礎的な身体の機能やらはさっき説明した通りだが、
こと戦闘に関して補足するなら頑丈で再生力も高ェんで真正面からの殴り合いに強え。
具体的に言やあ、最盛期の"路上の伝説"や"霊長類最強女子"、"キックボクシング史上最高の天才"辺りとやり合ったって負けは有り得ねえレベルだ。
奴らが五体満足でお前を殺るなら最低でも散弾銃にスラッグ弾八つはねーとキツいだろうぜ≫――
『アスリートには詳しくないんだが』
――≪特撮は?≫――
『10年代初頭からなら』
――≪よしきた。
ならお前が見始めた辺りの三大特撮主人公初期形態と正面からやり合って辛勝、
中間強化形態と互角で引き分け、最終形態には辛くも及ばずって感じと言やあ伝わるか?≫――
『雑な例えだが、なんとなくわかったよ』
――≪ま、あくまで参考程度だがな。
ただ、
『ほう、特攻か』
――≪ああそうだ。あの駐車場に現れた程度の雑魚連中五十人前後に取り囲まれたとて、
オメーがその気になりゃ瞬きする間に
『そこまでかよ』
――≪当然、多少の慣れは必要だがな。
想像してみろよ北川ナガレ、どこぞの小汚ぇ"業界の鮫"だかいうジジイの金づる偶像どもが一気に屍人化しようが、
グループ一つずつ相手にしてきゃ瞬き三十回足らずで全滅させられるんだぜ?≫――
『その絵面はあんま想像したくねーな……』
――≪奴らのうちの一人が引退後結婚してから味わった地獄に比べりゃ可愛いもんさ。実際そういうゲームだってあるしな。
で、次はオメーが奴らを狩る上で得られるメリットについて話そうと思う≫――
『死越者の身体で暴れ放題な上に婚約者の敵討ちまでさせてもらえるってか?』
――≪いんやあ、もっとわかりやすいヤツさ≫――
エックスが言うには、死越者と屍人は本来食う食われるの関係……つまり今の俺は奴らを狩って食える立場にあるというのだ。
――≪無論人間だった頃と同じようなもんだって食えるが、研究によると屍人狩りの方がより効率的にエネルギーを摂取できるようでな。
といっても、必ずしも奴らをバラして口に入れなきゃいけねーって事はなくってよ、
奴らを殺す……より厳密には外側を破壊して活動を止めると、
その時点で内部に循環してる魂みてーなエネルギーが外側へ漏れ出して宙に浮く光の玉みてーになるんだわ≫――
『その光の玉を食うってか?』
――≪ああそうだ。身体のどこで触れてもいいらしいから、食うってより吸収するって方が正しいかもしれねェ。
そんでそうやって屍人を狩り続けてっと、どうやら身体能力が上がったり傷の治りが早くなったり、
はたまた不思議な技が使えるようになるかもしれねーなんて話もあってな?
ま、その辺りは憶測の域を出ねえし、話半分程度に聞き流しといて大丈夫だとは思うがよ≫――
『そうだな。期待せずに待つことにするよ』
エックスの話を聞きながら、俺は来る戦いに想いを馳せ覚悟を決める。
(待ってろ
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