7th Dead 『"戦闘型悪役令嬢"の名に偽りなし』

 俺の名前は、北川ナガレ。


   『『『『『『ヴオオオオガアアアアアア!』』』』』』

   『『『『『『ヅウウウウゲエエエエエエ!』』』』』』


「……お話しさせて頂くのは、もう暫く先になりそうですわね」

『ま、しょうがねえよ。寧ろ今までが異例だったまであるだろ』


 楽しみにしてた"助けた女との事情聴取おしゃべりタイム"を邪魔されご立腹な、ゾンビの化け物だ。

 髪と名前がとにかく長くてスタイル抜群な"自称・悪役令嬢"の女……如何にも面白そう、言っちまえば『面白さに脊髄生やしたようなヤツ』なだけに、話を聞くのが延期になっちまったのは惜しむべきだが……ともかく気持ちを切り替えよう。


『姉ちゃ……じゃねえや。えー、確かヨランテ・キュラソー……』

「常識の範囲内でなら好きに呼んで下さって構いませんわよ」

『そうかい。じゃあ"お嬢"……オメェさん、戦闘型を名乗る以上"れる方"かい?』

「ええ。これでも"元居た世界"では同業者の中でもトップクラスの成績でしたの。正直、戦闘システムがしっかり動きさえすれば北川様のお手を煩わせるまでもなかったと自負しておりますわ」

『武器さえありゃリビングデッド狩りは朝飯前ってか』

「ええ。ゾンビそのものを相手にした経験というのはありませんけれど、雑兵の大隊を前にしては敵なしと称されたものですわ」

『そいつァいいや。ならものは試しだ、俺と一緒に戦ってみねぇか? あんたにお誂え向きかもしれねぇ、いい武器が届いたんでなァ~』

「あら、それは魅力的ですわね……ええ、良くってよ。是非ご一緒させて下さいな。期待以上の働きをしてみせますわ」

『おーぅ、頼もしいねえ。その意気だぜ』


 戦闘型悪役令嬢ヨランテの強気な発言は、如何にも傲慢で己惚れてそうな字面に反してやけに爽やかで、そして頼もしく聞こえた。

 それでこそ武器の貸し甲斐があるってもんだと、俺は彼女に空輸で届いた武器を幾つか手渡す。


『とりあえずはその三つだ。暫く俺が何とかするから、説明書をよく読んで自分に合いそうな武器を選んでくれ』

「わかりましたわ。では、宜しくお願いね?」

『任せな』


 てなワケでヨランテが説明書を読み込む間、俺は彼女の護衛を引き受ける。

 とは言え、幸か不幸か屍人どもは(数に浮かれて慢心でもしてんのか)威嚇するように呻きながらゆっくり歩いてくるだけだったし、お嬢の飲み込みもやたら早かったもんで護衛らしいことは殆どしちゃいないがね。


「お待たせしました。説明書の内容を理解できましたわ」

『おっ、いいねえ。何使うか決まったかい?』

「はい。わたくし元々状況や相手によって装備を変えるタイプな関係上結構何でも扱えるので逆に迷いまして……とりあえず三種類全部装着する形で落ち着きましたわね」

『……マジで正気じゃねえなあ。だがお嬢のそういうトコ、嫌いじゃねぇぜぇ~』


 なんて具合に準備を整え、新メンバーを交えての"刈り"が幕開ける。



『『『『『ム〝ォ〝リ〝カ〝ク〝ェ〝ェ〝ェ〝ェ〝エエ〝!!!!』』』』』

『『『『『ザグラ〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝!!!!』』』』』

『喧しいったらねーなァ~……必殺「敵対政党ディスってばっかの無能どもが政権取れるわけねーだろボンバー」!』

『『『『『ゼヅメ〝エ〝ゼギニ〝ィィィィイイイイイイ!!!!』』』』』

『『グァイザァァァァァァ!!』』『『『ジニイイイイイイイイッ!!』』』


 ニュースの国会中系によくいるウザい税金泥棒どもの出す雑音みてーな鳴き声の屍人どもを纏めて吹き飛ばしたのは、つい何分か前に空輸で届いた対屍人仕様の擲弾発射器グレネードランチャー"強欲警官グリードポリス"……南アフリカはアームスコー社製のダネルMLGを参考に、つーかほぼ模倣パクって作られた代物(製造者公認)で、装弾数は本家と同じ六発な上軽量化と反動軽減のお陰で扱いやすくなっているが、その反面有効射程は約220メートルと本家の三分の二以下にまで落ち込んでしまっている(と言って、屍人どもは大抵こっちを見るなり突撃してくれるので射程の短さはさほど気にならねえが)。


「技名長っ!? 長すぎる上にネタ結構古くありませんこと!?」

『技名はともかくネタに関する文句は屍人あいつらに言ってやりな。まァ~死後結構経ってるだろうしネタの鮮度が落ちててもしょうがねぇよ』

「それとこれとは関係ないでしょ――

『『『『『ニイイイノオオオオオオオ! ドオオオオシテエエエエエ!』』』』』

『『『『『ナアアアンデダヨオオオオ! ガアアッキイイイイイイイ!』』』』』

『『『『『『『『『グェッゴンヅァンデェ! ズィデヴォジグザガッダアアアアア!』』』』』』』』

「んもう、他人様(ひとさま)の話を遮っての登場とは感心しませんわねぇ」

『一発教育してやんな、高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュってヤツでよ』

「ええ、そうしましょう。さあ食らって消し飛びなさい、

 奥義『芸能人の結婚報道を実質訃報扱いしてお通夜ムードは滑稽ですわよストリーム』!」

『『『『『ヴァリゲネエエエエエエエエ! ヴィドメザグレエエエエエエエ!』』』』』

『『『『『ズォンザニヴォアゼゴンバアアアア! ダッザドリゴンジズェェェェェ!』』』』』


 ヨランテの両掌から放たれた極太の光線は、眼前の屍人どもをその耳障りな呻き声ごと消し炭にした。


『……早速使いこなしてるようだな』

「ええ。この武器、気に入りましたわ。一家に人数分欲しいくらいには」

『ほーぅ……』


 "一家に一台"通り越して"人数分"だと? 面白ぇ……やっぱこの女を助けたのは正解だったようだぜ。

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