その婦人、"戦闘型悪役令嬢"につき
6th Dead 『助けた婦人は”名が長すぎる"』
俺の名前は、北川ナガレ。
(……なんとか逃げ切れたか。立て直すなら今だな)
屍人どもを撃退しながら暗い山道を進むこと暫し、山の麓へ出た俺たちは多少開けた場所――麓にあるらしい廃村――に差し掛かった、ゾンビを刈りながら暮らす化け物だ。
『ふむ、何のかんの逃げ回ってたら林を抜けたか。ここは……農村か?』
抱えた女をゆっくり下ろしつつ、俺は周囲を観察する。民家らしき木造家屋や草刈機や耕耘機といった農具の類からして、嘗てこの一帯が民間の百姓たちが暮らす集落だっただろう事実は想像に難くない。
ただあばら家と化した家屋や見るからに動かなさそうな農機具、雑草にまみれ荒れ地や沼と化した田畑を見るに、住民たちはとっくの昔にこの地を捨ててどこかへ姿を消したんだろう。
「相変わらず不気味な雰囲気に変わりはありませんわね……建物はあるのに人の気配がないだなんて、なんて不気味なのかしら」
『廃村だな。過疎化が行くとこまで行っちまって誰一人"まともな"住民が居なくなってンだよ』
「そんな……一応集落である以上どこかの自治体の管理下にあるなら、廃墟なんてすぐ取り壊されてしまうのではなくて?」
『ああ、普通ならそうなるハズだが……実際どこの組織も手ぇ出そうとしねえんだな、これが。廃墟ぶっ潰すにもカネはかかるが、つぎ込んだ分回収しようにもアテがねえ。下手すりゃ浮浪者なんかが住み着いちゃ「ここは俺ン
「最悪ゾンビたちに襲われる危険性もある、と」
『そういうこった。
「なんてこと……」
裏社会の住人……特に
即ち必然、領土と良民を守らねえって判断は組織の崩壊、ひいては構成員の死にも直結する。
『俺自身ちっとワケありなもんで"そういった方々"との付き合いもあるが……彼らに曰く「シマは極道の生命線。命に代えても守るもの」だそうでよ。ただでさえ昔から暴対法に締め付けられながら他組織や
「……紛れもなく"地獄"ですわね。法に背き、社会に仇なして生きる悪党たちに同情など本来してはならないのでしょうけれど……」
『けれど、なんだ』
「そんな
『……優しいなあ、姉ちゃん。あんたみてーな
「まあ、"普通の令嬢"でしたらそうでしょうね」
『ほう。つまりあんたは"普通の令嬢"じゃねえってか』
「ええ、それはもう。何を隠そうこの
オイオイ、妙な単語が出て来やがったぞ。なんだよ"戦闘型の悪役令嬢"って。
確かにこの女、見た目や喋りからして"悪役令嬢"じみてはいるが……それにしたって"戦闘型"は流石に理解が追い付かねえぞ(それ以前に「自ら悪役令嬢と名乗る女』の時点で前代未聞だが)。
『一体何だよそりゃあ。聞いたことねーぞ』
「あら、そうですの? ではお話しさせて頂きますわね……折角ですし、あなたの身の上も聞かせて下さらない? こうして行動を共にできているのも何かの縁なら、お互いについてある程度知っておくのも悪くはないと思うのですけれど」
『ああ、いいとも。お互いまだ名前すら知らねえもんなァ……』
てなわけで――当然、屍人どもの襲撃に警戒しつつではあるが――俺たちは自己紹介序でにお互いの身の上を打ち明け合うことになった。
『改めて名乗らせて頂こう。俺は北川ナガレ。泥得サイトウ地区の自警団に所属するただの日雇い、ってのは表向きの話。その本性は
「ゾンビの化け物"エクシーデッド"……ああ、だからご自分を"既に死んでる"などと……」
『ご理解頂けたようで何より。さあ、次はそっちの番だぜ』
「ええ、勿論ですわ。
あんま聞かねえ上になっげえ名前だな……ってのが、第一印象だった。
『……なるほど確かに"普通の令嬢"じゃねえワケだ』
「ええ、如何にも。いっそ"歪んでいる"とか"狂っている"と言って差し支えないほど"普通ではない"でしょう? 」
『ああ。予想の斜め上をジェット噴射で飛んでくような……ダブルクロス版の「忍び寄る気配」で「
「驚かれるのも無理ありませんわ。その例えは
『そりゃ悪かったな。じゃあ次の話題と行こうか』
「ええ、そうですわね。お互いに何が起こり、如何にして今に至るのか――
『『『『『『ヴオオオオガアアアアアア!』』』』』』
『『『『『『ヅウウウウゲエエエエエエ!』』』』』』
「……お話しさせて頂くのは、もう暫く先になりそうですわね」
『ま、しょうがねえよ。寧ろ今までが異例だったまであるだろ』
全く、どこに隠れてやがったんだか……タイミング良すぎだろーがよォ。
==========
●世界観解説
『山間部の廃村』
さる西日本の田舎に嘗て存在した農村。現在は廃村と化しておりまともな住民は一人も居ない。
昭和後期までは様々な作物が栽培されており、多くの百姓たちが和気藹々と暮らしていた平和な集落であった。この手の辺境地の集落にありがちな悪習の類もなく、かえって村民たちは外来の者を丁重に扱い、麓の市町村とも友好的な関係を築いていたようである。
然し元号が変わり平成に差し掛かった辺りから百姓の高齢化に伴う後継者不足や、異常気象を原因とする災害の多発、疫病の蔓延、害虫の異常発生、農作物の不作などの不幸が相次ぎ、村は過疎化が進んでいき平成末期には完全な廃村と化してしまった。
村を管理する自治体は当初この廃村をどうにか有効活用できないものかと頭を捻ったが、放置された建造物や農機具の処分を実行するほどの予算もなく、廃村そのものを観光資源として提供しようにも建造物の老朽化が著しく安全面の観点から断念。手の施しようがないため放置せざるを得なくなり、猛獣や毒虫、浮浪者といった危険生物が住み着くようになったため申し訳程度の対策として立ち入り禁止の看板を立てることで安全を確保しようとした。
そして時は経ち現代、猛獣毒虫や浮浪者よりも輪をかけて危険な屍人がうろつくようになったこの村は、心霊スポットとして話題に上がることさえない隠された魔境と化すのであった……。
『北川ナガレ、ひいては泥得サイトウ地区と暴力団の関わり』
本作時空に於ける暴力団は戦後二度の改元を経て尚渡世を管理する闇の治安維持機構・暴力装置としての機能を保っており、総じて紛れもなく"非合法な活動に手を染める悪党"ではあるものの、一方では警察や司法などの国家機関では対処しきれない問題の対処・解決に尽力するとともに、闇金・特殊詐欺グループの指揮などの
このような活動内容であるが故なのか、渡世に於いて必然的に上位に位置するの暴力団は莫大な資産・人員を有し、武力に秀でた組織が多い傾向にある。また必然、構成員は諸事情により表の社会で生きられなくなってしまった者が多く、この関係から人間以外の魔物や、或いは生理学・遺伝学上でこそ人間であるが実質的に魔物と相違ない力を有する異能者の構成員が正体を偽り(或いは組織内にのみ正体を明かした状態で)所属するケースも多い。
昨今の屍人発生は渡世の者たちも危険視しており、本編でナガレが述べたように、支配下にある
当然の話であるが、他組織と抗争などしている場合ではないのは言うまでもない。
ナガレが身を置く泥得サイトウ地区もヒエラルキー上位の暴力団複数と友好的な関係を構築しており、自警団を含む住民たちに与えられる日々の職務も暴力団から斡旋されたものが多い。
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