2nd Dead『振るえ"灼熱の白刃"』

 俺の名前は、北川ナガレ……


『待ってな姉ちゃん、すぐにこいつら片付けてやっからよ~』


 ……突如目の前に現れた謎の女を避難させつつ敵陣へ向かう、ゾンビ刈りの化け物だ。




『よっしゃ、これでいいだろう』


 寝かせた女の周囲へ、ゾンビ避けを並べていく。

 この"ゾンビ避け"は半径1メートル範囲に奴らが不快に感じ逃げたがる電波を放つ代物で、専用アプリで遠隔操作もできる優れものだ。


(まあバッテリエグいほど食うから四半日しか持たねえが……この規模でも流石にそこまで長引きはすめぇ)


 ただ念のため仲間に連絡、無人機ドローンでの物資補給を頼んでおく。

 元々持参していた装備は防具やスマホ、財布やゾンビ避けなんかを除くと武器二つ(うち一つは実質使い切り)に手投げ爆弾が五つばかり……あの規模の大群を相手取るにはどう考えても心許ない。

 しかも爆弾は既に二つ、女を助けるのに使っちまってるから余計に火力が足りねえ。


(そりゃ~サイヤ人とか悪魔超人とかプリキュアみてぇなプロの殺し屋集団ならいざ知らず、こちとら民間人カタギにチェーンソーかレールガンが生えた程度のもんでしかねぇからな。

 やっぱ面倒な現場に挑む以上は相応の装備を整えなきゃあ……――ィよっ!』


 ある程度女と距離を取った所で、俺は立ち幅跳びの要領で跳躍……群れで突き進むゾンビ共の前へ躍り出る。


『っと。

 よぉ、クソ劣等ども……

 今夜は絶好の"刈られ日和"だぜぇ?』


 "颯爽と立ちはだかる"、なんててめえで言うのもアレだが、実際我乍ら中々様になってる登場ができたと思う(セリフは致命的にスベっちまったが)。


『ヴアアアアア!』

『ヴゴオオオオッ!』

『ヴァバガグゥッ!』

『ゴギョエエエエエッ!』


 目の前に堂々と現れたからだろう、俺の存在を認知したゾンビどもは立ち止まり、口々に俺を威嚇する。

 

『いいねェ~……智のねえ劣等なら"それらしく"問答無用で襲いに来りゃいいものを、わざわざ威嚇までして雰囲気出してくれるなんてよぉ……』


 相手ヤツらに理解される筈のない嘲りを添えて、俺は武器を抜く。

 SFじみて重厚な"誘導棒のグリップめいた装置"を構え、柄末端カシラ部のピンを引けば青白い伸縮式の"刀身"が顔を出す。


『実に、実に有り難え……』


 すかさず柄の下半分を捻れば、一辺2.5センチの角柱型で刃渡り90センチの"刀身"は、青白い光を放ち凄まじい熱を宿す……無機と有機の区別なく案外色々焼き断つ"必殺外道剣 プラズマ・ノダチ"の出来上がりだ。


『ほんとお前らには感謝しかねえからよォ~

 とりあえず礼がてら──

 刈られといてくれや、なアッッ!』

『ブジュウウウウッ!?』

『ガエエエアアアッ!?』

『バゲエエエエエッ!?』


 景気付けがてら横一文字に"薙いで"みれば、最前線のゾンビが三匹ほど斬り飛ばされている。

 焼き斬られ焦げた腐肉が悪臭と体液を撒き散らしながら宙を舞う様はいっそ滑稽で、俺の精神を昂らせ更なる破壊行為へ誘う。



 ◇◇――≪っちまえよ、北川ナガレ。それがお前ってモンだろう?

      何も躊躇うこたあねえ。

      奴らは人間ヒトなんかじゃねえ、ただの"物体モノ"だ≫――◇◇


 ふと脳裏に響く、今はなき友の声。

 間違いなく、幻聴だろう。

 だが幻聴それこそが、どんな声援や激励より俺に力を授けてくれる。


 ◇◇――≪刈り尽くして、破壊つくせ。

      所詮は塵に過ぎねえならば、残らず塵に還元かえすだけ。

      何せ奴らはお前の仇敵かたき……お前の彼女オンナを無意味に殺した屑どもだ。

      屑は屑らしく、崩壊くずすに限る……

      なあそうだろう、死越者エクシーデッド

      死に抗いて、死を越えて、昼夜の差なくを刈る怪物モノよ……≫――◇◇

(ああ、そうだ……その通りさ"虚空に消えた姿なき友"よ……

 俺は"死越者エクシーデッド"――屍人コープスを刈る"ゾンビ超人"……

 つまりは"ゾンビを超えし者"であるからしてっ、こんな連中如きに遅れを取ろうハズがねえんだッ!』

『ガアアアアッ!?』

『ヴエエエエッ!?』

『ヴォゲエ!?』

『ブバガッ!?』


 脳内に留めるつもりの独白を思わず口走りながら、俺はプラズマ・ノダチを振るう。


『シエエアッ!』

『ゴブゲッ!?』

『ギビッヅウ!?』

『ゴボガ!?』

『バヴグズウッ!』


 武器を手にしてから習い始めた付け焼刃の"剣道"と、映画の真似事を高い身体能力で補強した"無駄に本気のチャンバラごっこ"を雑に混ぜたそれは、

 言っちまえば"ド素人流・出鱈目剣術"とでも呼ぶべき見るに耐えねえ酷ぇ代物だったが……


『ブチかれろ、ガトツ・ゼロッタァイ!』

『ドゥブエエエエッ!?』

『ヅガアエアアアッ!?』

『ブチ壊したらァ、ヴッタィエノ・キッヴァーミィ!』

『『『『『ウ〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ア〝ッ〝!?』』』』』


 格下の雑魚相手かつ、圧倒的身体能力とインチキ性能な武器のお陰もあってゾンビどもは順調に不揃いな焦げた腐肉片へと変換されていく。

 だが……


『ヴアアアアアアアアッ!』

『ヴエエエエエエエエッ!』

『ブボウッ! ボボボバウッ!』

『ギュイギギャギギャギィーッ!』

『ヴォンドォルルァラララギッツァンディッカァァァ!』

『ボドドッボッドッボドボッドボドボドボッドッダァッ!』

『クサムッコロロロロロロロロロロロロロロォッ!』

『ヴォレラザイッギョオダアアアアアア!』


 散々切り刻んでやったハズだが、ゾンビどもは尚も大群で押し寄せてくる。


(やっぱ近接武器ノダチだけじゃ限界かー)


 いつも通りなら支援物資到着はそろそろだが、といってそれでも待つには長え……


『出し惜しみなんてせず、ガンガン使ってくかァ~』


 気が滅入りそうな大群を前に、一先ず落ち着こうと身を潜めた俺は心を昂らせ"この難関をこそ楽しむ"べく気持ちを切り替える。


『さてさて、やっちまうとしますかァ~』


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