3rd Dead『哀れ悪嬢"爆ぜて散る"』
俺の名前は、北川ナガレ……
▽△――『なにナガレ? 「敵の数が多くて気が滅入る」?
それは敵との闘い、ゾンビ刈りを「大変だ、楽しくない」と思うからだよ。
逆に考えるんだ。
「ゾンビ刈りは楽しい」「より多くのゾンビを刈れるなんてラッキーだ」と……』――△▽
脳内に急遽召喚したナイスミドルな英国紳士のかけてくれた優しい言葉を
『さあ
『フギャアアア――
『甘えっ』
『グガッ!?』
いざ物陰から戦闘開始って空気の中……不躾に飛び掛かってくるゾンビの首を、俺はノールックで掴んで離さない。
『ガッ! グウアッ! ガッギギ! グガゥッ!』
(やけに軽いな。まあ肉が腐って落ちてるからだろうが……)
見ればそいつは学生服を着た小柄な女だった。
声からして若い女とは思っていたが、こんなに小さいとは……
『グウウウッ! グガグウウッ!』
(体格だけ見りゃ小6か中1……だが着てる制服は恐らく高校、それも結構学費取るタイプの私立の……
つーか、美人の割には如何にも性格悪そうな顔だなぁ……)
あちこちでゾンビを見慣れたせいだろうが、俺は顔面に主要パーツとある程度の皮膚や筋繊維さえ残ってりゃ、そいつの生前の顔立ちやよく浮かべてた表情、果ては大まかな性格さえわかるようになっていた。
俺に飛び掛かろうとしてあっさり首を掴まれた女学生ゾンビ……死後日が浅く腐敗も他と比べさほど進んでいないそいつの生前は(あくまで推測だが)小柄乍ら顔がよく、それでいて傲慢でクソ生意気な、他人を見下し煽って楽しむ性悪のクズってとこだろう。
(なんだったかなぁ、サブカル界隈にこんなのがいるって聞いたことあるんだが……
確か、常日頃から他人、特に
『グギャゥ! グゥッ! グガガグゥッ!』
騒ぐゾンビを掴んだまま考えること暫し、俺はようやっと"当該生物(それ)"を思い出す。
『ガッ! ギギィ! グガグゥッ!』
(そうだ、"メスガキ"だ! "メスガキ"だよ!
いやあ、スッキリしたぜ。思う存分寝て起きた、窓からいい感じの陽光が差し込む春休み初日の朝みてぇによぉ~……)
序でによく見りゃ手首には無数の切り傷、手触りから察して首筋には太い縄みてえなもんが巻き付いて"死ぬほど強く圧迫したような跡"がある。
とすると……
『
若くて顔も良くていい学校通わせて貰えてたってのに、勿体ェねーことしやがって……ンの
『ガアアアアッ! グガアアアッ! ゴッガガアアッ!』
死因絡みの憶測を至近距離で煽るように述べてやれば、メスガキゾンビはぶちギレたように激しく暴れ騒ぎ立てる。まるで俺の憶測が図星で、しかも奴がその内容をあたかも理解したみてぇに。
『なんだぁ、わかりやすくキレ散らかしやがって。まさか図星かぁ?
……メスガキが大の男に煽られてキレてんじゃねえよ。ウジ虫が死体に食われるようなもんじゃねえか』
『グエエエエギガガガアガアアアギギャガゲギギャガアアッ!』
サービスがてら追い撃ちをかけてやれば、メスガキゾンビは更に怒り狂い暴れまわる。
この劣等ゾンビどもに生前の記憶や知性があるなんて考えたこともなかったし、今でも到底そうとは思えちゃいねぇが、然し有り得ねえって確証がなきゃ否定もできめえ。
(そもそも俺とて「生前の記憶や知性を引き継いだゾンビ」なワケだしな……程度の差こそあれ同類が居ても不思議じゃねぇ、か)
『ガグギャ、グギイッ! ヴァガズェ! ガザヴェエッ! ゴボダゾバァッッ!』
まァ~同類だろうが何だろうが敵って事実に変わりはねぇし、極論『だから何だ』の一言に尽きるがな。
『つーかいい加減五月蝿ぇし鬱陶しいンだよオメーよ。何時までそうやって騒いで暴れてる気だ?
幾ら
『グガキャガァァァアアアアアッ!』
いっそ黙らせようか、とさえ思う。幸いこいつらの構造は至極シンプルだ。
何せ体内のどこか(十中八九頭か胸、または腹ん中)にある駆動中枢を破壊すりゃ再起不能ってんだからな。『水戸黄門』のオチかってぐれーのシンプルさだ。
『このまま放置しといたってメリットねぇしなあ……いや、待てよ?
いい案を思いついたぜぇぇェェ~……!』
『ガッッ、グギィィッッ……!?』
メスガキゾンビの首を掴む手に力を込めてやると、奴は全身を痙攣させながら擦れ声で悶絶し始める。その反応が物語るのは……
(よし、ビンゴ。こいつの駆動中枢は頭蓋骨ん中にある! ってことは……)
『ッラァ!』
『グギャッ!?』
俺はメスガキゾンビの首を掴んだままその
『ガ、アグ……グウガア……!』
『おいメスガキぃ~。オメー、どうせ周りに迷惑かけまくったまま死んだクチだろ? なら最後の最後の最後ぐらい、誰かの役に立ちながら華々しく散ってみろや』
『アガ、グガグッ! グウガガアッ!?』
『おお、そうかそうか。誇り高い最期を迎えられてそんなに嬉しいか。
待ってろよ~準備が終わったらすぐだからなァ……』
まだ意識のあるメスガキゾンビは当然抵抗を試みるが、まあ無駄なことだ。
俺は一旦奴の首から手を放し(序でにプラズマ・ノダチもその辺の地面に突き刺しておく。持ったままだと動き辛ぇし)、遮蔽物の向こうで蠢くゾンビの大群目掛けてある物を放り投げる。
手投げ爆弾を円筒形に引き延ばしたようなそれは上手い具合に放物線を描いて飛んでいき、開けた場所の上空で炸裂……軽い破裂音を伴い、細かなラメっぽい輝く粉を撒き散らす。
『ヴァアア!?』
『ヴエエエエ!』
『ヴァエエエエ!』
するとあら不思議、輝く粉の撒かれた辺りに次々劣等ゾンビどもが寄り集まっていくではっ、あぁ~りませんかっ! ってなもんで、まばらに散らばってた奴らを一網打尽にする準備が整うわけだ。
『さあ準備完了だぜメスガキ。とりあえずお口あ~んしようなァ?』
『アガ、グガア、ガアアッ!?』
駆動中枢へのダメージで筋肉が程よく弛緩しわりと簡単に開いた奴の口腔内へ、俺は残る三つのうち一つの手投げ爆弾を捻じ込み無理やり飲み込ませる。
『ほい、"ごっくん"しよーなぁ~。そーれごっくんこ~~』
『ングウ!? ンン゛、ッッッン゛ン゛ーッ!?』
『おぉ~エラいなァ~。上手に"ごっくん"できたなぁ~』
続け様に俺は仲間から支援物資として贈って貰った"砂糖とバターを溶いたガソリン"の入った硝子瓶を奴の身体に幾つか括り付け、余った瓶の中身を奴の身体に塗りたくり、頭髪や衣類に染み込ませ、奴自身にも飲ませてやる。
『じゃあなメスガキ、
『グガッガ! グギャギイイイイ!』
更にこれまた支援物資として届いた組立式の
『あばよ~メスガキ~』
『ガッ、グギャア!? ギャギゲガアアアアアアッ!?』
組立式とは言え投石機の出来と性能がいいからだろう、発射されたメスガキはそりゃあもう見事な放物線を描いて飛んでいき……そのままゾンビどもの群れのど真ん中へ落下。
そして
『ズァァァァァァッグォォォォォォォオオオオ!?』
『ヴエアアアアアアア!』『ヴァアアアアアア!』
『ゴボバアアアアア!』『ブベエエエッ!』
落下の衝撃を感知した体内の爆弾が作動……
『ギャッヴァアアアッッ!』『ジャリブアッ!』『ジャギッガアアアアアア!』
『ヂャッヅビョオオオ!』『ズビル、ボアアアアア!』『ヴェダルヅアアアア!』
『ヅィラッギャ!』『ヂッヴァアアアア!』『ヴィンズ、ベッゲエエエエ!』
爆炎と爆風はメスガキを木端微塵にしながらゾンビの大群を吹き飛ばし……
『ズォルブゲエエエエ!』『ヴェックジ、ボラッボオオオ!』『ジャッバアアアアアゾオオオ!』
『ブルズバアアアア!』『ヴィバイッダアアア!』『ガッブ、ボオッ!』
『ビゴボ! ガブ! ズァッブウウウ!』『ボゴラッヅウウ!』『ゴヴォヅオオオオオ!』
硝子瓶の中身――本来は火炎瓶の燃料として用いる"砂糖とバターを溶いたガソリン"――が燃えながら飛び散ることで、"炎を纏った肉片"や"半固体の炎"と化してゾンビどもに襲い掛かり、高温で粘り気のあるそれは奴らに纏わりついたままその腐肉を延々と焼き続けるだろう。
『おー、いいねえ。いい感じに燃えてやがるぜ……人を襲い、獣を傷付け、街を荒らす……見た目に違わず悪さしかしねえ劣等どもとて、最低限"有機物らしい役立ち方"はできるらしい』
これぞ資源の有効活用……実に有用な
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