第9話 哀愁に満ちた横顔
田原佳織からもらったピアノリサイタルのチラシをポケットに仕舞うと龍は少し離れたグループの方へと移動した。瞳は吹奏楽グループの輪に入り、一緒に食事を楽しんだ。
「宴もたけなわになってきたところですが、会場の時間制限もあるので、最後に三本締めで会を一旦、締めたいと思います。では、皆様、お手を拝借、いよ~おっ!」
パパパン パパパン パパパンパン
「よっ!」
パパパン パパパン パパパンパン
「もう一丁!」
パパパン パパパン パパパンパン
「今日はありがとうございました!では、この後の二次会は皆で誘い合って自由にお願いします!出口はこちらです」
龍は会場の出口に立つと、会場の外へ向かう同窓生たちに見送りの挨拶を始めた。
瞳も三原真弓や南祥子からの二次会の誘いを断り、会計の近くで同窓生たちの列を見送った。皆が会場を出た後、龍は会計を済ませ、瞳と一緒に会場を出た。
「じゃあ、久しぶりにスタバでコーヒーでも飲もうか」
二人きりになったせいか、どっと押し寄せてきた緊張感に包まれながら、瞳は徐に龍の後に続いた。
すぐに近くのスタバに着き、それぞれ注文したコーヒーを受け取ると二人は横並びの席に着いた。
「こんな風に一緒にコーヒー飲むの、卒業式以来だな」
「そうだね。今日はお疲れ様でした。みんな元気そうで楽しかったね」
「今回は瞳も来てくれて良かった。五年前の同窓会に来なかったのは俺のせいじゃないかって気になってたんだ」
「都合がつかなかっただけ。まあ、卒業式の時のことは気になってたけど」
瞳は不意に言葉を詰まらせた。
「あの日瞳に振られて、ガックリして家に帰ったら涼子から電話がかかってきて、会って告られて付き合うことになって、大学もサークルも同じだったし、コロナ禍も乗り越えて、上手くいってると思ってたんだけど、仕事に就いた途端お互い忙しくなってね。涼子の海外勤務が決まった時、俺、待ってるから頑張れよ!って励ましたら、海外なんて行かないで俺と結婚してくれって言って欲しかったって言われて、俺、黙ってたんだ。そしたら、高校時代も本当は瞳が好きだったんでしょって言われて。瞳には振られたからって言ったら、怒っちゃって」
「それは怒るよ。私は涼子にはあの日のことは一切、言わなかったのに」
「とにかく久しぶりに瞳の顔を見たら、無性に話したくなってね」
隣りで肩を落としている龍の横顔はさっきまで愛想笑いを振り撒いていたのが嘘みたいに哀愁に満ちていた。
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