第6話 いそいそ名刺交換

 瞳と乾杯のグラスを交わした南祥子は周囲をキョロキョロと見渡した。


「ねえ、私、あそこにいる野球部のグループに合流するけど、原さんも一緒に行かない?」

「えっ、どうしようかな、南さん、一人で行ったら?私はここで食事でもしてる」

「そう、じゃあ、私、行くね。もし気が向いたら、原さんも来てね」


 南祥子はさっとその場を離れ、少し離れた野球部のグループにいそいそと合流した。その姿を見送るように眺めていると、ピアニストの田村佳織がおもむろに瞳の側に近寄ってきた。


「原さん、今日は水木さんが来てなくて残念ね」

「ええ、涼子は今は海外勤務なの」

「そうらしいわね。私、五年前の同窓会の時、水木さんと連絡先交換して、時々、演奏会にも招待したりしていたから。今回も同窓会があるってわかった時、水木さんにも連絡してみたら、海外にいるから行けないって返事だったから知ってる。そうそう、水木さん、瀧野君とも別れたんだってね。コロナ前に演奏会に来てくれた時はいつでも二人一緒だったから。五年前の同窓会の時も仲良さそうだったのにね」

「五年前の同窓会は私、欠席だったから」

「うん。だから原さんとは連絡先、交換してなかったんだけど。今、連絡先、交換してもいい?原さん、クラシックコンサートの演奏会とか興味ない?」

「そういえば、涼子からも以前、誘われたことあったけど、行けなくてごめん。でも、そうね、クラシック音楽も私、好きよ。YouTubeで気ままに聴いてるけど、田原さんのYouTubeチャンネルも調べておくね」

「わ〜良かった、クラシック興味あるのね。じゃあ、来月のリサイタルのチラシ渡しとくね。連絡先も名刺渡しておく。YouTubeのURLもここに書いてあるから、よろしくお願いします」

田村佳織は鞄からいそいそとチラシと名刺を取り出し、瞳に渡した。


「わ〜リサイタルなんて素敵ね!じゃあ、私も名刺に連絡先が書いてあるから、念のため渡しとくね」

瞳は渡されたチラシと名刺を鞄に仕舞うと、自分の名刺を取り出し、田村佳織に渡した。


「わ〜美術館の学芸員さんなの!?凄いね」

「大学院まで行って、就活頑張ったからね。コロナ騒ぎも落ち着いたし、頑張った甲斐あったかな。専ら資料整理ばかりだけどね」

「うんうん、コロナ禍で三密だった頃はほんとうに大変だったよね。音楽活動もけっこう制限されたから、どうなることかと思った時期もあったよ」


田村佳織と瞳はしみじみと頷いた。




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