第2話 空白を埋める笑顔
アパートを引き払うことにしたものの、翼の部屋にすぐに戻るのは気が引ける—そう思いながら、職場を出たところで携帯の着信音が鳴った。画面を見ると母からだった。
「もしもし瞳、高校から手紙が届いているから今日、家に来ない?」
「丁度良かった。実は翼と喧嘩したからしばらく泊まってもいいかな?」
「家にも翼さんから心配の電話があったところよ。瞳の気が晴れるまで家にいればいいわ」
実家に届いていた封書を開けると高三のクラスの同窓会の案内が入っていた。幹事は生徒会長の滝野龍だ。確か結婚してるって親友の水木涼子から聞いたけど、どうしてるかな?ふと懐かしくなって出席に○をつけた。
一ヶ月後—。
瞳は実家から通勤していた。翼から連絡はあったけど、お互い忙しいことを言い訳にして部屋を出て以来ずっと会ってなかった。このまま曖昧なままとはいかないだろうけれど、久しぶりの実家暮らしは気楽だった。
—翼とは同窓会が終わってから、一度、顔を合わせて話そう—。
そんなことを漠然と考えていた。
翌日の同窓会当日。瞳は青いロング丈のワンピースに白いカーディガンを羽織り、家を出た。案内に記されていた会場に入るとクラスメイトの一人南祥子が笑顔で近づいてきた。
「原さん、久しぶり」
「南さんこそ、久しぶり」
「そういえば、幹事の滝野君、結婚したんだってね」
「そうらしいね」
会場を見渡すと、会場の中央辺りで愛想を振りまいている滝野龍の姿が目に映った。
「原さんは滝野君と付き合ってたんだよね?」
「付き合ってたっていうか…、高校卒業して大学に入ってからはずっと会ってないし…」
「そうなんだ。今更だけど、私、原さんが滝野君と付き合ってると思ってたから滝野君のこと諦めたんだ」
「えっ、そうだったの!?龍と私は付き合った憶えは全くといってないけど」
「じゃあ、二人は付き合ってなかったってこと?」
「南さんは何を基準に付き合ってるって言うの?」
「うん。二人が一緒にいるところ、よく見かけたし、私はてっきり二人が付き合ってるんだと思ってた」
「まあ、生徒会で一緒だったからね。でもホントは私、そういうの内心めんどくさいって思ってたから、大学に入ってからは誘いがあっても断ったりしているうちに、龍ともだんだん疎遠になって…」
その時、いつの間にか側に来ていた滝野龍が声をかけてきた。
「やあ、瞳も南さんもようこそ!」
声の方に視線を移すと眩しいほどの笑顔の龍と不意に目が合った。
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