七年後の同窓会

中澤京華

第1話 扉の外を映す小窓

 同棲中の上田翼と喧嘩した原瞳。


 売り言葉に買い言葉の勢いで散々怒鳴り散らした瞳はスーツケースに衣類を詰め込み、翼と一緒に暮らしていたアパートの部屋を飛び出した。その当日ビジネスホテルに泊まった瞳は、翌日、休日を利用し、一時的な宿泊先として職場から近い場所にある安アパートを借りて住むことにした。


 それまで一人暮らしなんてしたことなかった瞳はそのうち翼のところに戻る可能性も視野に入れ、電気もガスも水道も入れず、近くのホームセンターで布団一式と充電式ランプを買い揃え、部屋に運び込んだ。布団にカバーを付けた後、携帯が充電切れをしないように手頃なカフェに行き、軽食を採った。念のため充電器も揃え、ファミレスで本を読みながら翼からの連絡を待ったが、翼からは何の音沙汰も無い。なんとなく草臥れた瞳は翌日の仕事に差し障りがないよう瞳は部屋に戻り、畳んでおいた布団を敷くと、そそくさと潜り込んだ。こんな生活いつまで続くのだろうと思うと些細なことで互いを罵り合って、翼と暮らしていた部屋を出てきた浅はかさを後悔した。


 携帯を気にしながらうとうとし始めると、カンカンカンカンと階段を昇る足音が聴こえてきた。足音がだんだん近付くに連れてその響きも大きくなる。じっと気配を窺っていると、足音は隣りの部屋付近で止まり、ガチャガチャと鍵を開ける音の後にキィー、バタンと扉が開閉する音がした。


 —隣に誰か住んでいるのかな?


 と瞳が思った瞬間、ビビッと携帯の発信音が鳴った。LINEを開くと「今どこにいるの?」と翼から連絡が入っていた。少しは気にかけてくれていたんだとホッと胸を撫で下ろし目を閉じた瞬間、キィー、バタンと再び扉が開閉する音がした。


 —こんな真夜中にどこに出かけるんだろう?


 と瞳が思った瞬間、家の扉をドンドンと叩く音がした。


—こんな時間になぜ家の扉を叩いてくるのだろう?


 不思議に思いながら布団に蹲っているとドンドンドンドンと騒がしいので、立ち上がってドアの小窓を覗くと、血走った目がギョロッとこちらを覗いている。


「キャアーー!!」


 瞳が大声で叫ぶと、カンカンカンカンと足音が再び響き渡りだんだん遠のいていった。その夜瞳は怖くて一睡もできなかった。


 翌日、大家さんに昨夜のことを報告すると、「ごめんなさいね、五年前にお隣の部屋で殺人事件があったの、知らなかったかしら?」と言われゾッとした瞳は一先ずそのアパートを引き払うことにした。

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