第30回身体読書日本選手権優勝者インタビュー

@matsuri269

第1話

ーーそれでは第三十回身体読書日本選手権で見事優勝したアヤノハ・エリ選手におはなしを伺っていきたいと思います。アヤノハさん、今のお気持ちは?

「とてもうれしいです。こんな名誉なことはありません。これまで応援してくださったファンのみなさん、ミズキコーチ、そして日々の生活を支援してくれた家族に感謝しています」

ーー今回の優勝スコアは読書スピードが毎分1000字、脳内残存情報量が87%と、極めて高いものでした。世界を狙っていく予定はありますか?

「そうですね。今のところは多言語対応はあまり考えていません。日本語、というか日本文字の文字の並びが好きで、それを追っているので。海外言語を日本語に訳したものを読むこともありますが、やはり情報の通り方が違いますね」

ーーこれからも日本でご活躍されることを祈っています。身体読書を始められたきっかけは?

「父の影響です。父は本がーー物理書籍が大好きで、書斎を持っているくらいでした。子供のころから物理書籍の多い環境にいたので、自然と本をめくるようになりました。本(物理書籍)を読んでいる父の背中を追って、読書(身体読書)を始めたんです」

ーー子供のころから本(物理書籍)を!重たくなかったんですか?

「たしかにハードカバーの本(物理書籍)は重たいんですけど、それ以上に、自分の手で物語を読み進められるという楽しさがあったので、まったく気になりませんでした」

ーー読書そのものがお好きなんですね。

「普通の読書も好きなんですけど、やはり手と目を使って行う身体読書のほうがわたしには性に合っていますね」

ーーそこから身体読書競技に進まれたのはなぜですか?

「高校生のころに、身体読書部に入りました。そこでインターハイにも出場し、身体読書の楽しさを知りました。眼精疲労にもなりましたが……大学のサークルも身体読書を選び、源氏物語を身体読破したりしていましたーー読書じゃないので、内容を忘れてしまったところも多いんですけど、大事な思い出です。卒業してからは趣味として身体読書を続けていこうと思っていたんですが、趣味で読んでいてもやはり、張り合いがないなということで、地元の大会から出場していったら、いつのまにか全国にいたという感じです」

ーーやはり、最初は苦労も多かったんじゃないですか?

「はい、読書(身体読書)は物理ページをめくる手の筋力のみならず、文字を正確に追う目の筋力も必要です。目を鍛えるのは大変でした」

ーーそうですか。日々のトレーニングは何をしていますか?

「朝練として、空白ページめくりを30分。それから文字列トラックを30分行っています。やりすぎると疲れてしまい、筋肉がつかないとコーチに言われているので、たまに緑を見て目を休めたりもしています。また、料理も手を使って行うようにしています。ランニングも大切ですね。長時間座っている全体的な筋肉も必要なので。このあたりの練習メニューはミズキコーチと一緒に考えました」

ーーミズキコーチは今日もたくさん応援してましたよね。特に心に残ったフレーズはありますか?

「ハーフタイムにおっしゃられた、『身体読書は目じゃなくて、心で読むんだ』ということばです。やはり、身体読書は目を使うという特異性がありますが、それに注力しすぎて内容が疎かになってしまわないように、というメッセージだと思いました」

ーーずばり、今回の勝因は何だったと思いますか?

「そうですね、500ページを超えたあたりで、今回の本(物理書籍)には100人以上の登場人物がいて、かなり難易度が高い、ということが身にしみたんですけれども、そこであきらめずに食らいつき、内容を咀嚼して理解しようとしたところだと思います」

ーーアヤノハ選手は高い脳内残存情報量が強みですからね。文字列情報を理解するコツってあるんですか?

「今までに見聞きしたものと結びつけて覚えていくのが王道ですが、わたしはあえてそういった手段を取らずに、本(物理書籍)に含まれている情報(文字列情報)をそのまま脳に焼き付けていくイメージで文字列を目で追うことにしています」

ーーとなると、身体読書をしている際はどのようなイメージを持っているんですか?

「イメージはあまりないんですけど、その本(物理書籍)の文体を意識して読むことにしています。物語でも、学術書でも、本にはその固有の文体があります。それは、直接脳に情報を流し込む読書では理解することができません。たとえ競技であっても、楽しむことは忘れたくないですね」

ーー身体読書の未来はどのようになっていくと思いますか?

「最近ではアイトラッカーや書見台など、補助器具もたくさん登場してきていて、初心者も始めやすい環境になってきていると思います。なので、身体読書は幅広い層に受け入れられる娯楽になっていくんじゃないでしょうか」

ーーそれでは、これから身体読書を始める方々にエールをお願いします。

「身体読書はたしかに疲れるし、情報を得るという面だけではデメリットが多いです。しかし、本を一冊読み終わったときには感動と喜びを得ることができます。みなさんもぜひ身体読書を行って、生の情報に触れてみてください」


ーー目の見えない少女のボイスログより

「私は読書が好きです。楽しいので」

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