引きこもりかわいいと思う

 しばらく、ススムとその母親の電話は続いた。ススムは声を荒げたりすることはなく、淡々とその母親と話していた。


 かれこれ15分ほど、アユムくんの部屋に、チビ太とアユムくんと3人……2人と1匹でいて、ススムが引き戸を開けたのでリビングダイニングに戻る。


「大丈夫。心配しなくてオッケーのやつ」


 ススムは笑っているのだろう、どちらかというと顔面神経痛みたいな顔をしている。


「ススム、顔がひきつってる」


「そうか? いやー……アハハハ……将棋どうなったかな」


 ススムは全力で穏やかなふりをして、テレビをつけた。ちょうどススムの推し棋士が投了したところで、ススムはわざとらしく「あちゃー」と声を上げたが、明らかになにか問題を抱えていた。


「ススム、無理しなくていいんだよ。そのためにわたしがいるんだから」


「おう……」


 ススムはため息をついて、テレビを止めた。わたしはお昼ご飯を用意する。


「母さんが、どっかからあおいの噂を聞いたらしい」


「泉さん?」


「いやそれは分からん。スパイだとは思いたくないし、もともとハウスキーパーの会社に依頼して来てもらってる人だから母さんと繋がってる可能性は薄い」


「そっか。それで?」


「あおいと僕は幼馴染だったから、顔を覚えてたらしくて。会いたいって言ってる」


「それ、アユムくんを取り返したいとかじゃないよね?」


「おそらくそれなんだと思う……それにアユムの父親は僕の父じゃないって言ってた。母さんよりすごく若い人らしくて、みんなで家族になろうって言ってる。なんか反社っぽい。もうすぐ出所するとか……明らかにヤバいやつだ」


「同感」


「ぼくの、本当のお父さんって、やばいの?」


「あ、いや、そういうことじゃなくてだな」


「ぼくは、いらないから捨てていかれたの?」


「そんなことはないよ。アユムくん、アユムくんはススムの弟でいて悲しい?」


「ううん。兄ちゃんもあおいさんも好きだよ。大好きだよ。でも本当のお父さんお母さんが、よそにいるわけでしょ?」


「……おう」


「その、本当のお父さんお母さんは、ぼくを捨てていったんでしょ?」


「捨てていかれたわけじゃない。僕に、本当の兄さんに預けていったんだ」


「……ススム、それってどんな状況?」


「うーん……話すとちょっと長くなるぞ。いいか? それにアユムは聞いてて悲しくなるかもしれない」


「大丈夫。わたしは……アユムくんは無理しなくていいんだよ」


「平気。ちゃんと聞くことがぼくのギムだと思う」


 まるでモビルスーツの名前みたいに、ギムという言葉を発したアユムくんを、本当にかわいいと思った。


 ススムは、ひとつため息をついて、ことのあらましを話し始めた。

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