引きこもり事情を知る
ススムは何があったのか、ゆっくりと話し始めた。
8年前、つまりアユムくんが生まれてすぐのころ。
ススムの両親は、アユムくんをこの間襲撃してきた親戚に預けて、突如いなくなったらしい。
ススムが言うには、さきほどの電話で「ススムの両親は、アユムくんを親戚に預けてすぐ離婚した」と言われたという。
おそらく母親が反社勢力の若者とそういうことになったのだから当然といえば当然だ。
そしてススムの母親はその反社の若者と国外に逃げたけれど、若者のほうは捕まってしまい、そろそろ刑期を終えて出所するのだという。
そして、アユムくんを預けられた親戚は、まだ働きだしてそう何年も経っていない20代のススムに、赤ん坊のアユムくんを強引に託したという。もちろんススムには1日じゅう赤ん坊を世話する余裕などなく、仕事に行っている間はシッターさんに預けて、ある程度大きくなったら遅くまでやっている保育園に預けて、というていで暮らしてきたらしい。
しかしそれを知った親戚は、自分でアユムくんをススムに託したにもかかわらず、「こんなひどい世話をしている」と勝手に怒り、「それならば施設に入れるのがいちばんの幸せではないか」と、アユムくんを施設に入れろ、と脅してきて、結局ああいうふうになったらしい。
「アユムと暮らすのは幸せなことだ。だから僕はアユムを手放したくなかった。それに僕の世代であれば、子供をシッターさんや保育園に預けるなんて当たりまえのことだろう?」
その通りだった。
完全に親戚のわがままに振り回されるていではないか。怒りがメラメラポッポする。
「でもそれでアユムをひとりぼっちにしてしまったのも確かなことだ。反省しているが反省で許されることじゃない」
「ぼくは平気だよ。だから兄ちゃんは悪くない」
「いちばん悪いのはススムのお母さんなんじゃないの?」
「でもそれだとアユムは生まれないことになるぞ」
それもその通りだ。
アユムくんがいるからこそ、篠山家は幸せな日常を過ごしている。困難もたくさん転がってはいた、しかしアユムくんを守るために、ススムはわたしをあの部屋から連れ出したのだ。
「たぶん、僕の母親がアユムを育てても、ろくなことにならなかったと思うんだ。よくあるだろ? 若い父親が子供を虐待して死なせる、みたいな事件」
「うん……ススムのお母さん、昔から若くておしゃれで、肉食系っぽい感じだったもんね……若い男に狂っちゃったんだね」
「で、アユム。アユムは本当のお母さんに会ってみたいと思うか?」
ススムの質問にアユムくんは即答した。
「会いたくない」
それが正直な気持ちなのだろう。アユムくんは嘘が嫌いだ。
家族の危機に、最年少のアユムくんが冷静なのは、とてもありがたいことだった。
話が終わるころには食卓は片付いていた。食器を食洗機に入れ、ため息をついた。
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