引きこもりまだ激怒する
わたしがメラメラポッポと怒り狂う一方で、アユムくんはとても冷静に、
「たぶんぼくが変だからだよ」
と、呟いていた。
「変だと思われようが、勝手に近所の子供を集めた中に入れられたわけだから、その個性こそ尊重されるべきものだと思うけど」
わたしが鼻息を荒くしているのを、アユムくんはちょっと怖そうに見上げて、
「学校のみんなは、ぼくが頭がいいのがいやなんだよ。テストはぜんぶ100点で、でも変なこと考えてるからみんなぼくがきらいなんだよ」
と、至って穏やかだ。
「……思えば成績の話ってちゃんとしたことなかったね。成績は良かったんだ」
「うん。ほら」
アユムくんはテストの用紙を取り出した。小学生なので問題用紙と解答用紙が同じやつだ。見ればどれも花丸が描かれた100点のテストだ。
「でもぼく、学校で変なやつだって思われてる」
「どうして?」
アユムくんはしばらく悩んで、
「ぼく、ときどき学校に我慢できなくなるんだ。教室にいるのが嫌なんだ。一人にしてほしいんだ。クラスのみんながガヤガヤするのに耐えられないんだよ。だから給食食べたら1人でトイレに隠れてた」
なるほど、賢すぎて学校が苦手なのか。
その気持ちは痛いほどわかるぞ。
「みんなドッジボールするからこいよって言うんだけど、ぼくそういうのいやなんだ。1人で静かにしていたいんだよ」
「……わたしもそうだったよ。1人でいるのがいちばん楽だった。だから、今のうちに手を打たないと、アユムくんがわたしみたいになっちゃうかもしれない。それはなんとか避けたい。だから訴訟をしよう。もっとなにかない? 悪口言われるとか靴に画鋲入れられるとか」
「女の子たちに『色白で気持ち悪い』って言われた。それを聞いてた男の子たちが『キモい、幽霊は墓に帰れ』って言った」
またしてもメラメラポッポしてきた怒りを、アユムくんに怖がられないように隠しながら、わたしはこれで訴訟を起こすのに充分なのだろうかと考える。
とりあえず悲しい話はいったんやめにして、2人でテレビをザッピングして、お昼を食べ、チビ太にもキャットフードを食べさせた。ススムが帰ってきたらちゃんと話さなければ。
そう思っていたらスマホが鳴った。ススムからメッセージだ。なにやら馬鹿でかい新規プロジェクトに着手することになったとかで、その作戦会議できょうはちょっと遅くなるかもしれないとのことだった。
なんてタイミングの悪いやつだ。ススムはアユムくんとチビ太の寝てしまった11時過ぎに帰ってきた。眠いのを我慢して出迎えて、夕飯を出す。
「アユムくん、学校で」
と切りだそうとしたら、ススムはビールをぐいーっと煽って、新規プロジェクトがどんなものなのか、ニコニコで説明し始めた。
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