引きこもりデパートにいく
生まれて初めて東京の地下鉄というものに揺られ(ただし昼なのでさほど混んではいない)、わたしはデパートの婦人服売り場というものを目指していた。
本当にシンプルなものでいいのだ。それこそユニクロとか無印良品で売っているようなので充分。でもあの高級タワマンでご近所付き合いをするとき、見くびられない程度にはいいものを着なくてはいけない。
これからちょっとずつ東京で着る服を揃えなくては。
東京に来た日のうちにススムはユニクロに向かい、シンプルな普段着を用意してくれていたのだが、さすがにシンプルすぎるのだ。もうちょっと、なんというか……高級感のあるものを着たい。
列車を降りて少し歩くと、でっかいデパートがそびえていた。ここに行くの? 一人で? これから?
デパートのある通りにはなにやらオシャレなお店がずららーっと並んでおり、着物を着たマダムや高級なスーツを来た男性といった、いかにもお金持ちの街の住民が闊歩している。
そこにユニクロ女である。髪型こそオシャレになったがユニクロ女である。とにかく勇気をもって、デパートに一歩踏み入れた。
すごくたくさんの人が、働いていたり買い物していたりする。すさまじい。
クラクラした。
チカチカした。
気がつくとわたしは気分を悪くしてバックヤードにいた。デパートのベテラン風の店員さんが水を渡してくれたので、ぐびぐびと飲む。
そこで軽く事情を話すと、ベテラン店員さんが婦人服売り場までついてきてくれることになった。
そのあとは、
「こちらがよくお似合いですよ!」
「これなんかちょっとしたお呼ばれにもいいですよ!」
「まあとてもよくお似合いで素敵ですよ! これを羽織ると上品な印象ですね!」
とおだてられて、渡された封筒が大分薄くなっていた。これ、確か20万くらい入ってたよな。それを思うとわりと安い服をチョイスしてもらったのかもしれない。ユニクロ女だからだろう。
とにかくたくさん服を買った。紙袋に入れてもらい、家に帰ってきた。
「ただいまー……」
アユムくんはチビ太と昼寝をしていた。邪魔しちゃいけない。そっと寝室のクローゼットに服を仕舞う……前に、ちょっと着てみる。
デパートの服のタグにはS・M・Lのサイズでなく「7号」と書かれていた。ふむ。着てみると、これならアユムくんの学校にも行けそうだな、とかそんなふうに思える感じだ。
こっちはちょっとしたお出かけ、たとえばレストランとかそういうところによさそうだし、こっちは映画鑑賞によさそうだ。満足する。
いままでファッションに興味がなかったのは、いい服じゃなかったからなんじゃないかなあ……と思った。あの田舎でオシャレな服など望むべくもない。
ちゃんとしたものを着られるとうれしい。鼻歌が出る。
明日は化粧品売り場、行ってみるか。
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