引きこもり義弟と出会う
どうやら、ススムの両親が置いていったこの歳のうんと離れた弟であるアユムくんを、ススムは自分の手で育てたいと言ったそうなのだが、独身でベンチャー企業に勤めているお前なんかに面倒は見られない、と親戚に突っぱねられ、しょうがなく結婚相手を探した結果、わたしに行きついたらしい。
「じゃあ、兄ちゃんとあおいさんは、スパイファミリーみたいな関係?!」
アユムくんは嬉しそうな顔をしている。限りなくそれに近いのだがそこまで単純に割り切る自信がない。
「アユムはエスパーじゃないだろ」
「そうだった!」
至って明るくて元気なお子さんである。
「で、ベンチャー企業ってなにしてる会社なの? そこをちゃんと聞くべきだった」
「ああ、いろいろ『楽しい』ものを作ってる会社だよ。小中学生向けの工作とか実験のキットとか、地理が勉強できるアプリとか、歴史の勉強になるボードゲームとか」
ほう……なるほど。それは楽しそうだ。
歴史については部屋のテレビの大河ドラマで履修したくらいの知識しかない。学校にまともに行かなかったからだ。だからわたしの頭の中の歴史上の人物は俳優の顔をしている。例を挙げるなら真田昌幸は完全に草刈正雄だし渋沢栄一は完全に吉沢亮だ。
それに数学だって、方程式の解き方も因数分解のやり方ももはや覚えていないどころか知らないし、中卒なのでサインコサインタンジェントとなるともはや宇宙猫である。
それを少し話す。ススムは、
「じゃあ弊社のサンプルが出来たら遊んでくれるかい?」
と聞いてきた。
「うん……そんないいことをしてる会社に勤めてるのに、ベンチャー企業はだめだーってなる親戚と付き合っていくの、恐怖しかないんだけど」
「大丈夫だよ。その親戚たちとは近いうちに縁を切るつもりでいる。あおいがいてくれて、完璧にアユムの面倒が見られることが証明できれば」
「そっか……じゃあハウスキーパーさんに来てもらうのもやめなきゃないのかな」
「そこは別に問題ないんだ。言ったろ? あおいにはぜったい苦労させない。家事なんてやらなくていいんだ」
そういうものなのだろうか。
「アユムは小学校2年生なんだけど、どうしても学校に馴染めなくて……あおいならその気持ち、わかるかなって」
「小学生かあ……勉強そんなに得意じゃないからなんにも教えられない……」
「友達でいてくれればそれでいいんだよ」
「……あおいさんは、なんのゲームが好き?」
不意打ちの質問だった。えーっと、と悩んで、
「最近やってるのはほとんどどうぶつの森……あ、しまった。バテン・カイトスのリマスター版、家に届くようにアマゾンしてたんだった」
「ゲーム、好きなんだ!」
アユムくんは元気いっぱいの笑顔である。
「う、うん。あんまり難しいのはよくわからないから、ぼーっと遊べるようなやつが……」
「アユム、ずっと1人だったもんな。それでいいかな、あおい」
「いちおう小学校のころは学校の先生になりたかった人間だから……子供は嫌いじゃないよ」
というわけで、アユムくんと毎日一緒に過ごすことになった。ススムは仕事が忙しくて、わたしを迎えにいったのは強引に作った休みだったそうだ。すぐ家を出ていってしまった。
アユムくんと、2人でマンションに取り残されてしまった。
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