引きこもり東京にいく
困ったことに、ススムこと篠山進が現在住んでいるところは東京だった。恐怖の東京だ。そんなところで暮らしていく自信などない。ふつうの、田舎のスーパーの人ごみでさえ具合が悪いし何年も行っていないのだ、成城石井とやらで堂々と買い物をすることは不可能に近い。
そもそもなにで東京にいくのか。わたしはなるべく人に会いたくない。車で行くにしても、食事や用足しで車を降りて人前にいく可能性はある。
20年引きこもりをしていたのでまともな似合う洋服など一着も持っていないから、東京に行くのは無理だ、とわたしはススムに説明した。ススムは、
「じゃあ買ってくればいい。Sでいいんだよね?」と、わたしの服のサイズを確認した。どうやらユニクロかしまむらか知らないが、買ってくるつもりのようだ。
まあ、ファッションになどハナから興味はないので、ススムが買ってくるに任せることにした。ススムは品のいいワンピースとストッキングを買ってきた。いくらしたのだろう。着るが似合っているのかわからない。
それでも、久しぶりにちゃんとした服を着たら、家を出てもいいかな、と思えた。
なので、荷物をまとめて、家を出る支度をした。
「よし。これで東京に行ける」
と、わたしは力強く宣言した。
わたしはずっと、自分が一生引きこもりでいるのだと思っていた。
人生に大敗北したまま歳をとり、最終的には床のシミになって終わる人生を生きるのだと、ずっと思っていた。
そんなわたしの人生に、人生の勝利者の資格たる「結婚」が降ってわいたのだ。結婚するしかない。
しばらくぶりで家を出た。太陽が眩しい。めまいがして、ススムに支えられる。ススムは家の斜向かいに停めた車の助手席にわたしを座らせると、東京に向けて走り出した。
途中、久しぶりにちゃんとご飯(サービスエリアの海鮮丼)を食べた。とてもおいしくて泣きそうになった。
さて、ススムの暮らしているタワマンが見えてきた。犬と一緒にエレベーターから降りてくるひともいるので、ペットもOK……というか、ふつうの家と変わらない規模の財産なのだろう。ススムの部屋は3階の角部屋だった。
「アユム! 留守番はできてたか?」
「兄ちゃんおかえり、その人がお嫁さん?」
「そうだ。きょうからお前の義姉さんだ」
は?
ちょっと待て、この子供はだれだ。隠し子か。よくわからないで目をぱちぱちしていると、その子供は、
「初めまして。篠山歩といいます」
と頭を下げてきた。
「あ……初めまして。澤中……いや篠山になるんだな。篠山あおいです。よろしくお願いします」
恐る恐るそう返事をする。アユムと名乗る子供は嬉しそうな顔をした。
「あの、ススム。この子は?」
「僕の弟だよ。この子が生まれてすぐ、僕の両親は行方不明になったんだ」
ちょっと待て情報量が多すぎる。とにかく、3人してハウスキーパーさんの作りおきを食べながら、詳しい話をすることになった。
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