第6話おまけ①【兄弟喧嘩①】
与太2
おまけ①【兄弟喧嘩①】
おまけ①【兄弟喧嘩①】
「嫌だ!兄ちゃんのおさがり着る!」
「兄者のおさがりはオレが着る」
「ダメ!なんで大地なの!僕が先に着るの!兄ちゃんのは全部僕が着るの!」
「四男林人はすぐ服を汚すからダメ」
「なんで!!!!僕が着るもん!!」
「朝っぱらからなんて可愛い喧嘩をしてんだお前らは」
今日は学校が休みで、久しぶりに家族で遊園地にでも行こうという話になった。
すでに調と白波は準備を終えていて、星羅も髪のセットが終わって日焼け止めを塗れば終わるようだ。
折角だから新しく買った服を着て行くようにと用意をしておいたのだが、林人はその新しい服を見て愕然としていた。
普通であれば喜ぶところなのだが、林人は調のおさがりを着て行きたいと言う。
大地も大地で、林人と同じように新しい服が用意されているのを見て不服そうにしている。
「かっこいいぞ、この服も」
「やだ!」
「ほら、ここにな、なんかよくわかんねぇ幾何学模様が入ってんだぞ」
「やだ」
「なんでまだ汚れひとつ付いてねぇ服じゃなくて俺のおさがりなんだよ。白波も星羅も着てるからぼろっぼろだしなんならもう捨ててもいいくらいの代物だぞ」
「捨てちゃダメだよ!!僕のなんだから!」
「違う。オレの」
「大地のじゃないもん!!!!先に僕が着るの!僕のなの!!!」
「オレが着る。兄者の服はオレのもの」
「お前はどこのガキ大将なの」
はあ、とため息を吐きながらも、自然な流れで新しい服を林人に着せていくと、林人は林人で大地に集中しているからか、自分が新しい服を着せられていることにも気付かず腕を通して行く。
全部着せ終わると、心の中でガッツポーズをした調だったが、ベランダ側のガラスにうっすらと映った自分を見て、林人は口と目を大きく開いて調を見る。
「兄ちゃん!!!!!」
「次は大地だぞ」
「やだ」
「やだじゃねぇ。早くしねぇと電車間に合わねえだろ」
「電車で行くの」
「歩いていく心算なのお前。着くまでに疲れるぞ」
「兄ちゃん!!!!」
「オレは兄者のおさがりがいい」
「ダメだって。いや、ダメじゃねえけど、もうまじで外に着て行くにはみすぼらしいっていうか、まじでボロボロだから。すでに星羅が着てた時にはボロボロだから」
「俺はそれを着てたの」
「でもお前だって気に入ってたんだぞ」
「兄ちゃん!!!!!」
「兄貴、林人が服脱いだよ」
「白波『脱いだよ』じゃねえよ。脱がせるなよ。お、林人腹がすげぇぞ。それでダイエットCMみたいに回ってみ」
「兄ちゃん!!!!!」
「忠実に再現し始めた」
「林くん上手い」
「兄ちゃん!!!!!」
「なんと言われようと新しい服着せるぞ。それとも兄ちゃんに勝てる心算でいるのか?その可愛い腹で何が出来るってんだ」
「じゃあ兄ちゃんこの服1回着てよ!!!」
「着れねぇだろ。サイズ的に」
「デザイン的には着れるの」
「白波そういうことじゃねえよ。デザイン的にも無理だけど。知らねぇレンジャーの服なんて着れるかよ」
「兄者、オレのも着て」
「大地のはもっと無理だ」
「なんで」
「どう見たって小せぇだろ。それともなんだ?俺がその服着れそうに見えんのか」
「伸ばせば着れる」
「伸ばすな」
「兄ちゃん!!!!兄ちゃんのがいい!!」
「このぴっかぴかの服の何が不満なんだ林人。だいたい、林人が欲しいって言ったから買ったんだろ。なんで着ねえんだよ」
「兄ちゃんの匂いがしない!!!僕の身体にフィットしすぎる!!!」
「え、まだ俺の匂いついてんの。なんか嫌なんだけど」
「兄者、着れた」
「大地はもう今の俺の服着てやがるぞ」
ぶかぶかの調の服を着た大地は、誇らしげに調たちに見せる。
それを見て、さらに林人は発狂する。
「なんでーーーーー!!!僕も兄ちゃんの着たい!!!!よこして!!!!」
そう叫びながら、調が今着ている服を掴んで脱がそうとし始める。
「林人、それはもう強奪だぞ」
「着るーーーー!!!兄ちゃんの服着る!」
「・・・しょうがねぇなぁ」
「兄ちゃん早く!!!あれ乗りたい!!」
「林人、1人で走っていかないぞ」
「兄者、ポップコーン食べたい」
「何味がいいんだ?」
林人と大地に腕を引っ張られながら歩いている調の姿を、白波と星羅はただ黙ってみていた。
「・・・星羅、いいなーと思ってるだろ」
「白波こそ」
「兄貴は本当に甘いよな」
「結局自分が着てた服着せるんだから」
あのあと、調は自分が今着ている服を2枚持ってきて林人と大地にそれぞれ着せると、肩側に腰より少し上あたりできゅっと豆結びをした。
その下にそれぞれのズボンを穿かせれば、林人も大地も満足そうに微笑んだ。
「兄貴のおさがりが着たいって気持ちは、まあ、わかるけどな」
「・・・なんだかんだ言って、俺達は未だに兄貴のおさがりもらってるしね」
「新しい服買ってもらったこともあるけど、なんかしっくりこないし」
2人がそんな話をしている頃、調は林人と大地に誘われてコーヒーカップに乗っていた。
遠慮なくぐるぐると回されていくコーヒーカップに、最初こそ余裕そうにしていた調だが、徐々に笑顔が消えていく。
「うおえええええええええええ」
「だろうね」
「大丈夫?」
「兄ちゃん、ゲエェェする?」
「林人、ゲェのとこだけリアルな表現しなくていいよ」
「兄貴、俺と白波でしばらく相手してるから、ゆっくり休んでて」
「おー、頼んだ」
星羅が林人と大地を連れて行き、その後ろを白波が大人しくついて行く。
次に林人と大地は、動物の乗り物に乗りたいと言いだしたのだが、なぜか白波と星羅も付き添いで乗ることになった。
なんとも言えない表情で乗っていた白波と星羅だったが、林人と大地がはちゃめちゃな運転をするため笑ってしまっていた。
「・・・・・・」
その様子を、調はベンチから見つめていた。
そこにある笑顔のどれもがとても幼く見えて、調は1人でこんなことを言う。
「あの笑顔、守っていかねぇとな。だろ?ばあちゃん・・・」
「なにがあった」
「林人がアイスと飲み物とご飯を悉くこぼしていった結果だね」
「あちゃー」
「林人、『あちゃー』じゃねえぞ、それ兄ちゃんの服だろ」
「兄ちゃんのじゃないもん!もう僕のだもん!!!」
「・・・お前はどこのガキ大将なの?」
あまり兄弟喧嘩になりませんでした。。。
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