第33話ありちゃんのどすこい大相撲
「うっす!あたけ先輩、相撲取りましょ!相撲!」
「え、うあ!ちょっと待ってくれ!ありちゃん!」
「うっす!でぃしでぃし!」
あたけとありちゃんは相撲を取っていた。
いや、正確には相撲のようなものをとっていた。
互いにまわしもなければ土俵もない。
ただ組み合ったり押し合ったり足を払ったりするだけの遊びだ。
「ぐょ!」
185センチの愛らしい女の子の体から筋肉の弾丸のような強烈な突っ張りが飛び出し、あたけの喉元にずばんずばんと炸裂する。
「か、がはっ……あ、ありちゃん!ちょっと待って……」
「うっす!待ったなしっす!でぃし!」
いくら手加減しているとはいえありちゃんは人狼だ。
あたけの喉から胸元まで一瞬にして赤く腫れあがっていく。
あたけは突き出されるありちゃんの腕に下から手を当て、なんとかその勢いを殺そうとするも彼女の方は容赦なしだ。
いや、彼女なりにきちんと容赦はしており、ありちゃんとしては先輩にじゃれているつもりなのだが、
あたけが思った以上に弱いのかありちゃんの力加減が絶妙に下手なのか、はたまた両方なのかはわからないもののとにかく二人の取り組みの流れは歴然としていた。
「でぃし!でぃし!」
喉元に一撃が叩き込まれる度にあたけはよだれを撒き散らしながら大きく跳ねる。
「へけえっ!」
「あははあ……あたけ先輩の体って柔らかいっすねー……」
そう言うとありちゃんはあたけの襟を掴みぐるぐると振り回しはじめた。
ありちゃんの表情はどこか恍惚としている。
しかし、あたけもあたけでちょっと嬉しそうだ。
そんな二人を見てたかしは思う。
(ありちゃんもストレスが溜まっているのかもしれないな……)
ここのところ出番がなかったしな……。
たかしはこんな状況にありながらも、どこか余裕を持った表情で二人の相撲を眺めていた。
ここはビルの地下駐車場を改造したトレーニング施設だ。
とは言えもっぱら射撃訓練のために使われる場所であり、
近接戦闘が得意なありちゃんにとっては狭くて脆く、薄暗いだけの意味不明な施設でしかなかった。
そのため、たとえ訓練中でも退屈になれば何かとあたけやたかしにちょっかいをかけるのが定番となっており、こういったじゃれ合いもありちゃんの暇つぶしの一つであった。
それでもたかしがありちゃんを大目に見ていたのはこれもまた訓練の一貫であると勝手に思い込んでいたからだ。
だが、実際のところはただ単にあたけのトレーニングの邪魔になっているだけだったのだが。
「ぐああっ……お、俺……体の柔らかさに自信があって……で、でも、その……」
襟を掴まれたあたけは苦しそうに咳き込みながらも、どこか恍惚とした表情を浮かべている。
「うっす!どれくらい柔らかいか確かめてみたいっす!」
ありちゃんはあたけのズボンをウエストを掴み、がっぷり四つに組むとそのままのしかかるように二つの大きな膨らみをあたけの顔に押し付けた。
「あ、あの……ありちゃん……す、すごい……うああ……」
「うっす!あたけ先輩、こないだよりもぜんぜん粘れるようになってるっす!」
あたけがうっとりとした声を上げると、ありちゃんもどこか嬉しそうに笑う。
たかしは二人の相撲を見ながらなんとも不思議な気分になっていた。
(あたけもなんだかんだで強くなってきてるのかもしれないな)
たかしはうんうんと頷く。
ありちゃんの言う通り、以前のあたけなら突っ張りを食らった時点でそのまま床の上でごろごろと転がって白目剥いて痙攣していたことだろう。
だが、今やあたけはしっかりと踏ん張り、ありちゃんの体を受け止めるようにその腕を必死に伸ばしているではないか!
「うっす!ごっつあんっす!」
しかし、やはりパワーとリーチの差は歴然たるものがあり次の瞬間、あたけはあっさりと組み伏せられてしまっていた。
「たかし!お前さ、見てないでさっさとどうにかしてくれよ!」
あたけはありちゃんから解放されて大の字に寝転ぶと、息を弾ませながら楽しそうに言う。
「悪い、お前の顔がずいぶん嬉しそうだったもんでな」
「あたけ先輩、あたしのおっぱいばっか見てるっす!最っ低ーっす。お仕置きしてやったっす!」
「い、いや……そんな……ありちゃん、誤解だよ!たとえ見ていたとしてもたまにだよ!たまに!」
「うっす!おっぱい好きなんすね!」
「あ、いや、好きっていうか、ま、まあ……すごいなって」
言い訳をしながら頭を掻くあたけ。
だがそんな中でもしっかりとありちゃんの胸を凝視しているあたり、ある意味すごい奴だとたかしは思う。
「じゃあ今度は先輩っすね!」
「……ああでもな、ありちゃん……」
「うっす?」
たかしは考える。
どうすればありちゃんが真剣に取り組んでくれるのかと。
そして、彼はある一つの答えにたどりついた。
「俺だっておっぱい見まくりだぞ」
「そーなの!?」
「ああ」
あたけは驚く。
「うっす!なら先輩もお仕置きっすね!」
「フッ……そうだ、思い切りブチかましてやれ」
たかしの言葉にありちゃんは嬉しそうにスニーカーを脱ぐと、猛禽類のような大きな爪の生えた足を露わにする。
人間の体を掴み取って骨ごと軽々と引き裂けそうなそれはコンクリートの床に当たるとがちゃりと金属質な音を立てた。
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