ーデートー5

「ま、とりあえず、この洋服を試着室で着替えてみてよ……」


 利之は司の背中を押すと試着室へと向かわせるのだ。


「この中に入って、今選んだ服を着てくればいいだけだからさ」


 ウインクを付け足しながら司を試着室へと入れるのだった。


「え? あ、ああ……分かった。 ここで、この服に着替えればいいんだな?」

「そうそう、そういう事……ま、もし、着替え方が分からなかったら言って……Tシャツ位はもう着替えるの慣れてるだろうしね。 だけど……問題はズボンの方なのかな?」


 そう袴とかとは違い、洋服の方はボタンにチャックもある。 きっと袴を着ている人間はこういったチャック等は扱った事が無いだろう。


「とりあえず、着替えてみてよ。 ま、後から、僕が着方を教えて上げるからさ」


 そう言って、利之は本格的に試着室のカーテンを閉めてしまう。


 利之が試着室の前で待って、数分。


「利之……こんな感じでいいのか?」


 そう問うて来る司に利之の方は反応し、カーテンを開けるのだ。


 そこに立っていた司。 やはりズボンの方は上手くチャックとかは扱えてなかったものの、Tシャツにジャケットの方は上手く着れたようだ。


「ぉお! いいねぇー、司はこういう服装も似合うって事なのかな? とりあえず、ズボンのチャックとかっていうのはさ……」


 周りには見えないように利之は司へと近付くと、


「こうやってチャックっていうんだけど、これを、上げて、ボタンの方は、こう引っ掛けるのだけど……ま、とりあえず、ウエスト周りのサイズはこんくらいでいいって事なのかな? 司のサイズは僕とあんまり変わらないのかもしれないなぁ」

「じゃあ、後はこれを着て帰ってもいいのか?」


 そう何も知らない司に一瞬利之の方は笑いそうになったのだが、そこはとりあえず抑えて、


「いやいや、違うよー。 もう一回、試着室に入って、その服を脱いで、さっき着ていた服を着て、それでから、レジに行ってお金を払うんだよ。 お金を払ってからなら、ま、着て歩いてもいいけど、普通は家に帰宅してからになるのかな?」

「あ、そうなのかぁー……。 じゃあ、とりあえず、また元の服に戻ったらいいんだな?」

「そういう事ー!」


 本当に司は昔時代から来た人間なのであろう。


 本当にこういう事に関して何も知らないという事が分かったのだから。


 だけどこれからは利之が今の時代の事を司に教えて行ったらいいと思ったようだ。


 司が試着室から出てくると、利之の方はその服を持ってレジへと向かう。


 すると司は利之とレジと今持って来た服をこう交互に見ているようにも思える。


 そこに気付いた利之は、アイコンタクトで「その事について後で教えて上げる」と言ってみたのだが実際司にそれが通じているかどうかというのは分からない所だ。

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