10ー2

 そして急に顔を上げる司。


 そんな司に一瞬利之の方は驚きつつも、真剣な瞳で司の事を見つめるのだ。 だってどうだろう。 利之はもう司に告白はしたのだから後はもう司からの返事を待つだけなのだから。


「利之……!」


 そして急に声までも大声を上げる司。


 一瞬、そんな司の声に反応しながらも答えを待つ利之。


 利之からしてみたら、同じ時の流れであってもその時というのは長く感じているのかもしれない。 そして心臓の音も最高潮であろう。


 仕事でどんな場面でも表情を変える事が出来るとしても心臓の鼓動の早さは変える事は出来ない。 例え演技で今のように告白する場面があったとしても心臓の鼓動はこう早く波打つ事はない。 だが今は俳優の仕事をしている訳ではない。 これが現実というものだ。 だから心臓の鼓動が早く波打ってしまっている。 もし普通に司の事をこの家に招いていたなら、いや友達同士として、いやただ単に困っている人を助けただけというのなら、きっと利之の心臓の鼓動はこう早く波打つって事はなかったのかもしれない。


「あ、あのさ……」


 何だか時間的には長く待ったつもりだったのだが、司はこう申し訳なさそうに言っているような気がする。 って事はやはり……?


 そう思ってしまったのか利之の方は再び顔を俯けてしまったようだ。


 現実とはドラマのように上手くいかないものなのかもしれない。 ドラマは好きな人に告白をすれば恋人として成立する事が多いのだが、現実というのは分からない。 いや相手が男だから余計に恋人として成立する事は殆ど無いと言った方がいいだろう。 そりゃあ、男女で恋人になる比率に比べたら、男同士の恋人の比率というのは、圧倒的に少ないのだから。


 だけど、もう利之的に抑えが効かなかったからこそ、勢いで司に告白をしてしまったという所なのかもしれないとう事だ。


 司が利之がいる世界に来て三日。


 利之が司に告白してしまった事で、二人の関係にひびが入ってしまうのか。


 じゃあ司はこんな事になってしまって、これから、ここでの生活はどうするのであろうか。


 時だけを刻む時計。


 それだけが今時間だけを奪っていってしまい直ぐに過去にしてしまう。


 どれだけ時過ぎたのであろうか。 利之の家にある柱時計が二十二時の時間を知らせて来るのだ。


 それに利之は思うわず時計の方へと視線を向ける。


 そりゃあ、この静かな空間の中で時計だけが時を刻み、そして一時間毎にその柱時計というのは時間を知らせてくれるのだから気にならない訳がない。 寧ろ、こんな真剣な話をしている時に音で刻を知らせくる事は気になってしまう位なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る