9ー2
こう利之は軽く司に触れていたのだが、一瞬、目が丸くなったようにも思える。 そして何かを確認するかのように周りを見渡す司。 しかし今一瞬の間、司に何があったと言うのであろうか。 だが何かを確認出来た訳でも無かったのかその後は気にせずに眠りについたようだ。
次の朝、再びアラーム音で目を覚ます利之。
利之は何かを感じたのか、こう何かを感じている手を見ると、どうやら昨日は司の手を握ったまま寝てしまったようだ。
「あ……」
と言いながら、とりあえず手を司から離しその手を見つめる。 暫くその場で手を見つめていた利之だったのだが、視線を今度、司の方へと移し今度は愛おしそうに司の顔を見つめる。
確かに利之は役者をやっている。 だけど、それは仕事だけであってプライベートの時間というのは本当の自分の表情だ。 役者をやって演技している時というのは、決められた時に喜怒哀楽をしなきゃならないのだが、プライベートの時間というのは本当に利之からしてみたら自由な時間だ。 利之がどんな表情をしようと誰も文句を言う人はいない。 きっとこれが仕事で演じている時で笑う時に怒ってしまえば、完全に監督に怒られてしまうだろう。 だがプライベートの時間というのは感情赴くままの自分でいられる時間なのだから、利之が今している表情というのが一番自然な利之なのであろう。
大人になってから人が居る生活なんかした事なかったせいなのか、それとも利之は司に好意を持ち始めているのか、こんなに愛おしい表情をするのは初めてなのかもしれない。 愛おしい表情というのは子供の頃はあまりしない表情だろう。 大人になってきて本当に誰かの事を好きになって来た時に出てくる表情なのかもしれない。
人を好きになる事。 利之の中では演技ではいくらでもしてきた事なのかもしれないのだが、現実世界では今までそんな事全くなかった事だ。 人を好きになった時によく聞くのは心臓がドキリとする事があるとか、何処か体に触れた時にビビと電流なような物が来るとかっていうのは聞いた事があるのだが、それは、あくまで人を好きになった人の表現であって、そこは人によって違うのかもしれない。 そして恋の病に犯されてしまった時には一日中その人の事を考えてはため息が漏れる。
そうは言われているのだが、どうやらまだ利之には無いようにも思える。 だが司にはちょっとずつ好意を持って来ているような気がしてきているようだ。
利之は急に気合いを入れ、
「よしっ!」
という独り言を漏らし、いつものように珈琲メーカーをセットし珈琲を作り始める。 そして窓際のテーブルでまったりと過ごしてから出掛けるのが利之の朝だ。
珈琲豆の良い香りで頭を起こし、コーヒーを啜る事でも更に頭を起こす。 窓から見える空や富士山に癒されながらのひと時というのがなんかこう体全体をも起こしてくれているような気がするからだ。
そんな朝のひと時を過ごしていた利之だったのだが、昨日同様に司がベッドの上で半身を起こしキョロキョロとし出した姿が視界に入って来る。
「おはよう……司……」
と昨日とは違い笑顔で司に挨拶をする利之。
その声に司は反応したのか、利之の方に視線を向けるのだが、再び視線を股間の方へと移してしまう司。
そんな司の視線の先についつい利之の方も移してしまったようで、昨日同様に司はモノが勃ってしまっていたようだ。 しかも半分涙目の司が利之の事を見つめて来る。
それを見て利之は半分は仕方なさそうに椅子を立ったのだが、残りの半分はきっとその事に関して利之は全く気にしてないっていう事なんだろう。
利之はその司の合図で再びベッドの上へと上がると、
「昨日も聞いたんだけどさ……司は本当にこの処理の仕方知らないの?」
「……知らない……だけど、昨日、利之にやってもらった時にスッキリしたから……」
あ、確かにそうなのかもしれない。 そう男のモノが勃ってしまった時に扱いて抜いてしまえば少なくともスッキリするのだから。 だからなのか、利之はその司の言葉に納得したようだ。
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