5ー3

「じゃあさぁ、これ、読んでみてよ」


 と利之は司に持っていた漫画本を渡すのだ。


 それを読み始める司。 だが利之からしてみたら「??」となっている。 そう読みは合ってるのかもしれないのだが、何かが変だ。 という事に……。 少し考えると利之の方は急に顔を上げ、


「分かった! そうだ! 確かにそうなのかもっ!」


 そう独り言を呟くと今度司の方に顔を向け、興奮したような状態で、


「司! もしかして、読み方が逆なだけじゃない? 今現代の漫画とか本とか横文字に関しては左から読むもんなんだけど、司の時代っていうのは右から読んでなかったっけ?」


 その利之の振りに司は視線を天井へと向ける。 その間に利之は今まで一応役者として色々な役を演じて来たのだから、その司の時代の役を演じた時の事を思い出しているようだ。


「前に明治時代の学校の先生を演じた時に教科書がそうだった気がしたんだよね。 だからさ、現代の本っていうのは左から読むようになってるから、司は左側から読むようにしたら読めるんじゃない?」


 その利之からの提案に司は気付いたのかポンっと手を叩くと早速利之の言う通りに読み始めるのだ。


 すると先程とは違いスラスラと読み始める司。


「やっぱりかぁ」


 利之はそこに納得すると、


「とりあえず、司は今現代の字も読めるって事だよね? って事は、小説なんかもどう?」


 と利之の部屋にある小説本も持って来たようだ。


「これで、時間潰しが出来るもんは持って来たって事か。 後は食べる物かなぁ? とりあえず、今日は時間が無いから下にあるコンビニでおにぎりとかお菓子とか飲み物とか買って来たらいいよね?」


 利之は立ち上がると早速このマンションの階下にあるコンビニへと買物に出掛ける。 そう利之の部屋には冷蔵庫はあるのだが、日々ここに帰宅しに来ているだけの利之の家には何も無いのが現状だからだ。 冷蔵庫はあるのに中身は無い。 これではただ電気の無駄遣いをしているだけなのかもしれない。 しかし利之の家にある冷蔵庫というのは本当に無駄にでかいだけだ。 要は一人暮らしなのにファミリータイプの冷蔵庫を使っているからであろう。 そこに何も入ってないのはざらなのだが、今日は家に司もいる事になり久しぶりに冷蔵庫の中に何かが潤う事になる。


 利之はいつものようにマスクにサングラス帽子で階下にあるコンビニへと向かっていた。 しかし有名人になるとたかが家の下にあるコンビニに向かうだけでも、そんな格好をしなきゃならない所が面倒なところなのかもしれない。 まだ利之が有名人じゃない頃というのかまだ学生だった頃には全然堂々と顔を晒してコンビニとかゲーセンとかって行けていたのに有名になってからというもの仕事が忙しいというのもあるのだけど、やはり顔バレすると周りの人達が騒ぎ始めてしまう為、本当に何も出来ないというのが現実だ。


 確かに誰しも有名人になりたいと思うのかもしれない。 だが今度有名人になると自由が効かなくなってしまい、それはそれで今度は一般人の方が良かったと思うだろう。 人間っていうのは不満が無い人間なんていない。 逆に不満があるから人間なのだから。

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